ガリー・ベルティーニ 5枚組BOX (Gary Bertini)/CAPRICCIO

¥2,485
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 先日購入したベルティーニとケルン放送響によるR.シュトラウスの管弦楽曲集をきいている。

 capricoレーベルが出している「エディション・ガリー・ベルティーニ」は7枚目で残念ながらストップしてしまった。しかし評価すべきはSACDというフォーマットを安価で発売したことで、ベルティーニの繊細な音楽を気軽に楽しめた点だろう。ぼくはこのシリーズを全て保有しているのは、この手頃さのおかげといえる。

 ぼくはこのブログでこのシリーズの素晴らしさについて幾度となく記事をあげてきた。モーツァルトのミサ曲、レクイエム、協奏曲集やベルリオーズ、ドビュッシー、ラヴェルの管弦楽曲集。どれも超一級の名演で、ぼくにとって珠玉の名盤として心に刻み付けられ、よくきいている。

 ベルティーニの音楽は繊細にして流麗。カラヤンのような華やかさではなく、しなやかな手触りがする。彼の手にかかればどのような音楽でさえも毒気がぬかれ、ききやすくなるのだ。特にマーラーやブルックナーがそうで、誇大妄想的な音楽がちょうど良いスケールに落ち着く。彼の音楽には虚飾がないからだ。二流の指揮者ではマーラーやブルックナーのえぐさがより増幅されてききにくくなってしまう。解釈の甘さを虚勢によって覆い隠そうとするせこさが音楽に軋みとなって表れている。ベルティーニのような教養ある指揮者だからこそ自らの解釈をはっきりと提示し、澱みのない音楽を奏でることができるのだ。

 このR.シュトラウスのツァラトュストラは今まできいた中で最高の部類に入る名演だ。そもそも題材自体がニーチェゆえにそれなりの教養が必要とされる曲だ。原作を読んでいる程度でこの音楽の内面を描き出すことはできないだろう。しかし、教養人としても多くの人々から尊敬を集めていたベルティーニだ。まるで物語絵巻のように音楽が進んでいく。ニーチェについて知りたければ、彼の演奏をきけばいいと思いたくなるほどだ。

 「ピアノと管弦楽のためのブルレスケ ニ短調」はツァラトュストラの美しさと対照的に実にドラマティックだ。独奏者レオンスカヤの激しさに、さすがに優雅なベルティーニも引っ張られいつになく熱い演奏をみせている。ぼくはこの音楽を初めてきいたけど、明暗のはっきりした音楽構成に最後まで飽きることがなかった。

 このベルティーニの名演が最近5枚組の廉価ボックスで手に入りやすくなった。SACDでなくCDだが、ベルティーニの素晴らしさがフォーマットに左右されることはないだろう。ぜひともこの機会にベルティーニの澱みのない美しい音楽を堪能していただきたい。