Great Recordings/Gunter Wand

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 今日の一枚は、先日発売されたヴァントの29枚組ボックスよりドビュッシーの『聖セバスティアンの殉教』とムソルグスキーの『展覧会の絵』が収録されているCDだ。

 先日も紹介したヴァントがケルン放送響と北ドイツ放送響で録音した演奏を集めた29枚組ボックスが家に届いた。今回珍しく日本のアマゾンはHMVなどの発売日に先駆けて発想してくれた。バーンスタイン60枚組ボックス(下に添付)同様、LPサイズの立派なボックスに入っており、ライナーノートのクオリティも高い。日本に特に多いヴァントファンを満足させる良い企画だと思う。もちろん色々文句を言いたい事はあったが、それは前回の記事でぶちまけたので、省略する。

 さて、僕はこのボックスに入っている演奏のほとんどを既に持っているし、聞いている。特にケルン放送響とのブルックナー交響曲全集や北ドイツ放送響とのブラームス交響曲全集は天下の名演として名高く、クラシックファンにとっては基本中の基本であると言える。だから僕がわざわざ語り直すようなことはしない。

 ただ意外にも、何枚か聞いてみた中で僕が特に感銘を受けたのは、ドビュッシーの『聖セバスティアンの殉教』とムソルグスキーの『展覧会の絵』が収録されている一枚だった。ドビュッシー、ムソルグスキーは、ドイツ系が強いイメージのあるヴァントにはそぐわないと思っていたのだ。しかし聞いてみると最高に良い。
 
 ドビュッシーやラヴェルを始めとするフランス印象派の音楽は、聴いた印象よりも音が多く、構造が複雑だ。細かい音形を複雑に組み合わせることによって、あの幻想的な世界を作り上げる。
 だから、フランスの音楽、特にドビュッシーやラヴェルの音楽は、絶対に雑な演奏をしてはいけない。作曲家の頭に鳴り響く世界を再現するには、楽譜の音を一つたりとも疎かにしてはいけないのだ。
 だからこそヴァントの徹底した完璧主義とドビュッシーがよく合う。ヴァントはリハーサルの時間を長く取り、楽譜を細部まで読み込む指揮者だった。彼の手によるドビュッシーは明晰で、クリアだ。実に素晴らしい。

 ムソルグスキーは色々な面でヴァントらしさが出ている。合理性の極みといった演奏で、感情の欠如さえ感じさせる。皆が『展覧会の絵』に期待する壮麗な建築美などどこにもない。彼は音楽が数学的世界の密接な関係にあることをまざまざと見せつけてくれる。迫力とは無縁であり、過渡の演出も排されているため全体的にどこか暗く聴こえる。しかし、すごく良い。僕の期待をことごとく裏切り、さらりと曲を進めて行くヴァントにグッとくる。新しい『展覧会の絵』の世界を突きつけてくれる、ある意味で、ヴァントらしさを知るに一番適した一枚と言えるだろう。

 全体的に聞いて通説に感じたのは、どの曲においても、ヴァントの姿勢は揺らぐ事無く、貫き通されているということだ。最近ヴァントから遠ざかっていたが、改めてすごい指揮者であることを再確認したように思う。

Bernstein Symphony Edition/Leonard Bernstein

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