「ラ フォル ジュルネ」レポート、第二弾は肝心の演奏についてだ。

僕が行った公演は以下の三つだ。順に感想を述べて行こうと思う。まぁ、長文なので③だけ読んでいただいたらかまいません。

①ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調op.61/オリヴィエ・シャルリエ(ヴァイオリン)、シンフォニア・ヴァルソヴィア(管弦楽)ゲオルグ・チチナゼ(指揮)
②ベートーヴェン:ミサ曲ハ長調(抜粋)、合唱幻想曲(抜粋)、他/ヴォーチェス8
③ベートーヴェン:交響曲第五番、合唱幻想曲/仲道郁代(ピアノ)、びわ湖ホール声楽アンサンブル、ザ・カレッジ・オペラハウス合唱団、日本センチュリー交響楽団、三ツ橋敬子(指揮)

①について
 シンフォニア・ヴァルソヴィアは1984年に設立のポーランドのオーケストラだ。現在は芸術監督をペンデレツキが、音楽監督をミンコフスキが務めている。ペンデレツキの作品の初演も多く手がけ、録音も多い。日本でもCDが何枚か容易に手に入るようだ。
 指揮者のゲオルグ・チチナゼはゲルギエフの元で研鑽を積んだという新進気鋭の若手指揮者だ。
 オリヴィエ・シャルリエは日本でも人気のあるヴァイオリニストで、世界中の一流オーケストラと共演している。僕はヴァイオリニストについ詳しくないが、友人曰く大変著名で実力のある人だそう。

 オーケストラの音はすごく良かった。実は当日までオーケストラが変わったことを知らず(このオケは原発で参加を拒否したオケのピンチヒッターだったから)、このオケのことを急遽担ぎだされた二流オケかと思い期待せず聴いたのだが、良い意味で裏切られた。どこか湿り気のあるしっとりとした響きと包み込むようなアンサンブルが心地良い。特に弱音における哀切ある音色は特筆すべき美しさをたたえていた。
 ソリストも見事だった。僕はヴァイオリンの演奏について語る言語をそれほど持ち合わせていない。しかしそのような僕でも、オーケストラに全くひけをとることのない彼の堂々たる演奏に聞き惚れ、こみ上げてくるものがあった。
 問題は指揮者が彼らを鳴らしきっていなかったことだ。音の流れは滞りがちであるし、fのスケールも小さい。それなりに聴かせる演奏であったが、それはオーケストラに助けられてのことだと思う。
だから、全体を見るとやはり消化不良であったことは免れない。これほど素晴らしいオケとソリストがいたならばもっと良い演奏が聴けたに違いと思うと、残念でならないのだ。これは悔しい!
 そして咳の数が異常に多かったことが気になった。10秒おきくらいに間断なく咳があちこちから聞こえ、意識を遮る。僕は一番後ろの席で聴いていたため、特に耳についた。楽章間で拍手をしている人も多かったことから、それほどモラルの高い聴衆ではなかったように思う。

②について
 ヴォーチェス8は女性二人、男性六人からなるイギリスのアンサンブルグループだ。
 何枚かCDをリリースしている。僕は事前にバッハのモテットを何曲か聴いたが、各パートの自己主張が中途半端でバランスが悪く、アンサンブルもいまいちな演奏だった。
 実際に演奏に接してみても、やはりあまり良い印象は抱かなかった。テノールは声が飛んでおらず、他のパートに埋もれてきこえない。ソプラノの声もノイズが若干気になった。カウンターテナーが上手いのは明らかだが、変に悪め目立ちしてバランスを崩していたように思う。来日直後の彼らは本調子ではなかったのではなかろうか。
 またベートーヴェンのミサ曲ハ長調の編曲にも違和感があった。前半部分は真面目に歌うのに、後半からいきなりジャズ調にペースが一気にあがるのだ。彼らはスウィングル・シンガーズのようなポップス的にアレンジしたクラシック音楽がやりたかったのかもしれないが、上手くいってなかったように思う。彼らのクラシック以外の演奏聴きたかった。
 楽しそうに歌っているのと、一生懸命日本語でプログラムを説明している姿は印象が良かったが、個人的に僕は彼らの演奏に入り込むことができなかった。


③について
 三ツ橋敬子さんについては、以前の記事で紹介させていただいた。去年トスカニーニ国際指揮者コンクールで準優秀と聴衆賞を受賞し、新聞にでも話題になった女性指揮者だ。僕は知らなかったのだが、「情熱大陸」にも出演したらしい。
 演奏するのは、今年の4月まで大阪センチュリー交響楽団と呼ばれていた日本センチュリー交響楽団だ。橋本知事の政策のあおりを最も厳しく受けたオーケストラで、補助金が断ち切られ存続の危機に立たされている。(僕が思うに、関西の人間はまず「金」で、文化に意味を見いだすことのできない人間が多い。「それで儲かりまんの?」とまずくる。僕は大阪の温かさは嫌いではないが、こういう部分は好きになれない。)

 僕はこの演奏に猛烈に感動し、一瞬にして三ツ橋さんのファンになってしまった。
 三ツ橋さん小柄だが、魅力的な(なんといっても美人な)女性だ。最初舞台に立ったときの第一印象はやり手のキャリアウーマンといった感じで、今からオーケストラを相手にするような女性とは思えなかった。しかし指揮台にたった瞬間に全く豹変する。体を小刻みに揺らしながら全身でテンポを取り、気迫がほとばしっていることが背中越しにひしひしと伝わってくるのだ。小柄な体が一回り大きく感じられ、引き込まれた。
 度肝を抜かれたのはその解釈だ。往年の大指揮者たちを思い起こさせる、遅めで堂々としたベートーヴェン。古楽的な解釈が隆盛している現在、久しぶりにこんなベートーヴェンを聴いた気がする。僕は一瞬にして彼女が女性であることを忘れてしまった。評論家ならば「効果を狙い過ぎだ」と批難するところだろうが、僕は単純に感動した。
 だが演奏について詳しいことはよく覚えていない。彼女の指揮ぶりにただ見とれてしまい、低弦が暴力的にかき鳴らしているなあ、くらいでぼんやりとしか頭に残っていないのだ。いつのまにか最後のクライマックスを万感の思いで迎えて曲を閉じた。
 次の合唱幻想曲も良い出来で、特に合唱が大変素晴らしかった。この曲は「合唱」と冠しているにしては、最後の3分くらいにおまけみたいに合唱が入るだけなのだが、しっかりとした存在感を示して音楽祭をしっかりとしめてくれた。びわ湖ホール声楽アンサンブルは二年前に一度聴いたきりだが、その時よりも確実に実力が増している。彼らのオペラの舞台もいつか見てみたい。
 しかし、このコンサートの主役は三ツ橋さんである。もちろん悪いところはある。音は全体的に固くてキツいし(オケのせいな気もするが)、構成もきっちりしすぎていて流動性に欠ける。でもそんなこと言うにはまだまだ早い。まだ若いのにこれだけエネルギッシュな演奏するんですから、すごいものです。演奏したベートーヴェンの五番は、解釈もあらかたやり尽くしてしまい独自色を出しにくい。しかし彼女は、悪く言うと過去へのオマージュによって強烈な個性を我々に見せつけてくれたように思う。
 また彼女の演奏を聴きたい、というか見たい。別に彼女が僕のタイプなのです、っていう下半身のレベルの話ではない。彼女は人を惹き付ける何かを持っていて、それが僕の感性と大変相性が良いような気がするのだ。
これからに期待です!ブラボー!

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