『TOVE/トーベ』(フィンランド、スウェーデン、2020年)
を観た。
第二次世界大戦下のフィンランド・ヘルシンキ。
芸術家の両親を持つ画家のトーベ・ヤンソンは、自分を慰めるため「ムーミン」トロールの物語を描いている。
トーベは絵画、壁画、文章など芸術家として活動する中で、
既婚者の男性政治家アトス、既婚者の女性舞台監督ヴィヴィカと交際するのだが・・・。
6月はLGBTQのプライド月間なので、クィアな人物であり、
大好きなトーベ・ヤンソンの映画を選んだ。
この映画は、
トーベ・ヤンソンという人物が「ムーミン」の作者である、という以上の情報があるかどうかで、
評価が分かれると思う。
トーベ・ヤンソンは、成功した女性の芸術家であり、
女性の社会進出も進んでいない20世紀前半において、
同性の恋人トゥーリッキを帯同して公式の場にも現れるなど、
世界的に有名なクィアな女性のひとり。
男性のほうが社会的に自立しやすく成功しやすい時代が長らく続いていたし、
あの時代において、クィアであること、同性のパートナーを公表している女性は非常に珍しい。
この作品に「ムーミン」的世界観や、トーベに無垢さ・童心を期待して鑑賞すると、
かなり面食らうとは思う。
トーベ・ヤンソンのパートナーといえばトゥーリッキ・ピエティラが有名だけど、
この作品ではトゥーリッキはほとんど登場しない。
この映画において軸となるのは、
トーベの初めての同性の恋人ヴィヴィカとの関係。
それと、ヴィヴィカと同時に交際している政治家のアトス。
劇中である人物がヴィヴィカを評する、
「彼女って天才よね」「誘惑と欺きの」という台詞は洒落てる。
トーベの芸術家人生において「ムーミン」にずっと向き合っていたわけではなく、
画家と作家を主軸として、複数のカテゴリの様々なプロジェクトに取り組んで、
既成概念にとらわれることのない恋愛の楽しみを享受した姿が、
苦しんではいるけど自由で、良い。
生涯のパートナーであるトゥーリッキとの関係を省略した一代記という構成は、かなり新鮮だったなぁ。