『マルホランド・ドライブ』(アメリカ、2001年)
を観た。
マルホランドドライブで誰かに始末されそうになった女性・リタは偶然起きた交通事故で逃げ延び、
記憶を失った状態で、とあるハリウッドの民家に忍び込む。
叔母の留守中の家を借りることでハリウッドへ女優を夢見て上京してきたベティは、
記憶喪失のリタの素性を解き明かすために奔走するのだが・・・。
デヴィット・リンチ監督作品。
難解ダー、とか難しいーとか、
映画好きの人がこぞって語りたがる作品。
ブロンドとブルネットの女性、どちらも神秘的で美しいし、
この作品をLGBTQ映画とタグ付けするには迷いもあるけれど、
女性同士の恋愛が描かれている作品ではある。二人とも蠱惑的で、目を見張るほど美しい。
男女というのは時代が遡れば遡るほど、
同じ文脈でのライバル関係とか、真に対等な競争相手として比べられることもないけれど、
同じ線上で戦う相手が同性で恋人、しかも戦場が同じとなると同性愛ってかなりツライ。
恋人と同じ文脈でライバルとなりえるって悲劇は、同性愛ならではかもしれない。
ビジネスで仕事の鎬を削る相手でも、男女だと、こんなにも明らかに正当なジャッジはされないもんね。
うーん。
冒頭からの3分の2くらいのストーリーは、
不穏で、冗長だと思えるシーンも含めても展開の一貫性はある。
ジュディは上京したての駆け出しの女優で、記憶喪失のリタの真相を追う。
二人が恋愛関係に陥ったのも、淫らさも問題なく包み込む神秘的な演出で
つつがなく描写されているけれど、青い鍵で青い箱を開けるシーンから、時空がねじれる。
この、絶妙なねじれがいい。
すべてが嘘っぱちってわけではなくて、悲劇的な現実からの甘やかな逃避のまやかし、
死の直前に最大限に発揮される想像力、
現実と少しでもリンクしている設定が良い。
考察の余白がちょうど良い。
荒唐無稽ではなくて、ちゃんと後半でダイアンの現実の姿を彼女の口から語らせているのも、
大家さんがカミーラの婚約者の母として登場するのも、歌い手の彼女がパーティーの出席者だというのも
全部が素敵。
まったく健全で美しいナオミ・ワッツが、いかれているのが良い。
登場シーンでは、単なる田舎出身の綺麗な女の子だったのに。
きれいな体で、みとれちゃうよね。
不気味で、死にたくなるほど甘美な悪夢。