二村ヒトシ恋愛対談集『淑女のはらわた』

を読んだ。
二村ヒトシと、犬山紙子、小明、川村エミコ、まんしゅうきつこ、荒牧佳代、はあちゅう、ジェーン・スーの対談が収録。

恋愛には今のところ悩んでいないし、
男女二元論で語られる恋愛論にも本来的には関心を持ちにくいのだけれど、
コミュニケーション教本として発見があった。

二村ヒトシは、
人にはみんな心の穴があって、その穴は親によって開けられたもので、その穴こそ「こじらせ」の原因で、その穴を埋めようとして恋愛依存に陥る…という論調で話をすすめていく。

対談集に登場する人たちは、
全員が異性愛者で、男性性と女性性という対立項を軸にした議論が何度も出てくるけれども、クィア性とかLGBTQ性みたいなものは語られない。
性別を超越するような、あるいはまったく問題にしないような個性や思想で誰かと結びついていく、という考え方は一切登場しない。
そんな関係は一般的ではないし、期待すると危険な目にあう信条だけれど、趣味や思想や宗教で繋がった恋愛関係はそう珍しくもない気がする。

この本のターゲットは、
恋とこじらせに悩む女性がメインで、男性や男性社会とどうやって付き合っていくか、みたいなことを真剣に語られる。
それなら同性にも目を向けて見れば?とか軽々しく、同性愛者のわたしは考えてしまうわけですが。
男性を憎んだり怖れる感情が少しでもあるんなら、女性と付き合ってみればいいじゃーん!なんてね。
ただ、人間関係において、この条件であれば必ずうまくいく!と思い込むのは危険だよね。
同性同士も、結局は相性次第で、うまくいくかは分からない。男性だろうが女性だろうが、そんなことよりも個人差がすべてなような気がするけれど。

仕事をしていたら、男性社会にぶつかる場面がでてくるので、男性社会のルールを心得ていたほうが良いのは間違いない。

閑話休題

対談相手では、
川村エミコさんだけが言論の世界で生きていないというか、お笑い芸人という表現者ではあるんだけれど、確固たる自己理解や主張なんてなくて、恋愛市場での迷える仔羊みたい。
恋愛や男性との付き合い方の一定の自己理解や主張や確信よりも、「どうすればいいんでしょう?先生」って答えを待ち望んでいる様子が読み取れる。
これを読むと、謙虚でチャーミングな良い人だという印象を受けるね。


二村さんペースを完全に打ち崩す人が一人だけいる。二村さんのアドバイザー対応も論敵対応も通じない相手、まんしゅうさん。
まんしゅうさんは、精神をグラつかせるような恋愛・対人エピソードをむしろ逆手にとって楽しんでいるみたい。事件めいたこと!待ってました!みたいに面白がっている。
対談の中で、まんしゅうさんは自分は普通だ、というけれど、その回答には納得する。
まんしゅうさんは、飲み屋に棲みつく豪快なネーサンみたいなんだよね。
有名人でなくとも、面白おかしく好奇心と行動力で爆進している人は案外いる。一人で飲みに行くと、そういうネーサンとよく遭遇する。


ジェーン・スーとの対談は、
二村さんとはお互いに東京生まれ東京育ちの間柄だからか、きっと二人とも意識し得ない部分でかなり都会的な感覚を持っていると感じた。
ドライで寛容。
地域のご意見番や噂包囲網みたいな下品で垢抜けない連帯なんてまったく存在しえない感覚がある。
ドコドコのダレダレ、みたいなレッテルや先入観の張り付かない人間関係でずっと生きている都会人の感覚がある。
「だいたいのことは自分に関係ないんですよ」とジェーン・スーは言い放つけれど、この割り切りもクール。





今まで読まなかったタイプの本も読もう。
現実の世界でも、生きていこう。