一握の砂2
東海の小島の磯の白砂にわれ泣きぬれて蟹とたはむる
頬につたふなみだのごはず一握の砂を示しし人を忘れず
いのちなき砂のかなしさよさらさらと握れば指のあひだより落つ
たはむれに母を背負ひてそのあまり軽きに泣きて三歩あゆまず
はたらけどはたらけど猶ほわが生活くらし楽にならざりぢっと手を見る
ふるさとの訛なつかし停車場の人ごみの中にそを聴きにゆく
かにかくに渋民村は恋しかりおもひでの山おもひでの川
やはらかに柳あをめる北上の岸辺目に見ゆ泣けとごとくに
石をもて追はるるごとくふるさとを出でしかなしみ消ゆる時なし
馬鈴薯のうす紫の花に降ふる雨を思へり都の雨に
ふるさとの土をわが踏めば何がなしに足軽くなり心重れり
ふるさとの山に向ひて言ふことなしふるさとの山はありがたきかな
さいはての駅に下り立ち雪あかりさびしき町にあゆみ入いりにき
しらしらと氷かがやき千鳥なく釧路の海の冬の月かな
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有名なものを並べてみましたが、こういう耳慣れた有名なものばかり見ていては、その価値にもなかなか気付けないものです。同じ作品中の狂気に触れて、再び戻ってくると、その歌の中に何かを見つけられます。
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いたく錆びしピストル出いでぬ砂山の砂を指もて掘りてありしに
大という字を百あまり砂に書き死ぬことをやめて帰り来たれり
愛犬の耳斬りてみぬあはれこれも物に倦みたる心にかあらむ
森の奥より銃声聞ゆあはれあはれ自ら死ぬる音のよろしさ
高きより飛びおりるごとき心もてこの一生を終るすべなきか
死ね死ねと己を怒いかりもだしたる心の底の暗きむなしさ
目の前の菓子皿などかりかりと噛みてみたくなりぬもどかしきかな
一度でも我に頭を下げさせし人みな死ねといのりてしこと
どんよりとくもれる空を見てゐしに人を殺したくなりにけるかな
誰そ我にピストルにても撃てよかし伊藤のごとく死にて見せなむ
いくたびか死なむとしては死なざりしわが来こしかたのをかしく悲し
死にたくはないかと言へばこれ見よと咽喉の痍を見せし女かな
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吹けば飛んでいきそうな弱さと繊細さを通して、前掲のものを見れば、少し別の意味合いで見えて来るかもしれません。