ある小さな町に
だらしないじじと
しっかり者のばばが
仲良く暮らしていました。
じじには大好きなことがありました。
釣り
タバコ
競馬
麻雀

じじは毎朝起きると
ばばがつくった朝ごはんを食べて
でかけていきます。
ばばは
庭の手入れや、掃除、ごはんの用意をして
じじの帰りを待ちます。
日が暮れて
じじが帰ってきました。
ばばが
「おかえりなさい。」と
玄関に行くと
酔っぱらって不機嫌なじじ
がいました。
こんな事は毎日なのでばばは慣れていました。
じじは競馬や麻雀で負けるといつもこうなのです。
不機嫌なじじは
ばばにやつ当たりします。
ごはんがまずいとか
部屋が汚いとか
話し方がむかつくとか
どうしようもない事で喧嘩になります。
散々言って
じじは疲れて寝てしまい
ばばはそっと毛布をかけてあげます。
ばばは後片付けをして
じじと同じ布団で寝ます。
そんな毎日がたわいもなく続いていました。
ある日は
じじの酒とたばこを
ばばが注意すると、
「うるせぇ!つべこべ言うな!」
と喧嘩になります。
ある日は
ばばが二人で出かけようと
尋ねると
「行かん!」
と誘いを必ず断ります。
じじは
ばばよりも
酒やたばこ、遊びやギャンブルが好きなのです。
ばばは
それでもじじが大好きでした。
ある日、じじがいつものように
酔っぱらって帰ると
いつもの
「おかえり」
がありませんでした。
「帰ったぞ~~。おい」
返事がなく
「寝てんのか!まったく・・・」
寝室をのぞいたが
ばばはいませんでした。
家中を
酔ってガラガラな大声で呼んで
探したけど、ばばはいませんでした。
「 プルルルル。。。。プルルルルル」
静かな家に
電話が鳴り響きました。
「・・・・・・・・・・・・・・・ばばが倒れた。」
じじは
急いで病院へ行きました。
病室を開けると
ばばは
静かに眠っていました。
ばばは死んだのです。
じじは
信じられませんでした。
毎日元気なばばが
今日だって朝ごはんをつくってくれたばばが
突然いなくなるなんて
じじは信じられませんでした。
家に帰って
じじは大好きなお酒を飲みました。
なぜかちっともおいしくありませんでした。
じじは大好きなたばこをふかしました。
ちっとも味わえませんでした。
じじは
酒瓶を思い切り
投げ割りました。

じじの口に広がるのは
なんともいえない
しょっぱくて悲しい味です。
失って
初めてじじは
自分にとっての
本当に
大切なものに気づきました。
きれいに掃除された部屋
ひまわりが綺麗に咲いてる庭
夜ごはんをつくりかけてある台所
じじはこの世界で一人ぼっちになってしまいました。
ばばの机の上に
書いてる途中の
ぼろぼろの日記が置いてありました。
どうやらこれはばばの日記と
じじは思いました。
ばばが日記を書いていたことを
じじは知りませんでした。
最初のページを開くと
じじとばばの結婚式の写真と
優しい字で書かれた文章が書いてあった。
じじは自分とばばの若さに
少し驚き
昔の忘れていた記憶が
甦ってくるのを感じました。
じじとばばは
幸せそうな満面の笑顔で
仲良く写真にいる。
じじは次のページをめくり
その日記を
自分とばばの思い出を
リフレインするように読み始めました。
じじの心に暖かい何かが溢れてきました。
26歳の春
ノルウェーへの新婚旅行。
二人でみた綺麗なオーロラ。
29歳の夏。
富士山登山。
疲れすぎて山頂で寝たっけ。
30歳の秋。
子供が生まれた。
女の子でとても元気な子。
幸せだっだね。
32歳の冬。
映画で号泣するおれを
君は笑ってたよね。
35歳の夏休み。
家族でディズニーランド。
娘と子供のようにはしゃいだな。
娘をミッキーと握手させるために必死だったね。
42歳の春。
娘の授業参観。
娘に話しかけたら嫌そうに無視されたおれを
なぐさめてくれたね。
45歳の週末。
家族でボーリング。
かっこいいとこ見せられなくてごめんね。
48歳の寒い日。
娘の卒業式。
3人で久々に写真とったね。
56歳の雪の降る日。
娘の結婚式。
悲しかったなぁ。
61歳の年末。
銀婚旅行。
あんまり仲良くできなかったな。
65歳で定年退職。
すっかり老けたね。
このころからたくさん迷惑をかけてしまった。
71歳の誕生日。
ケーキつくってくれてたんだね。
その日は朝まで飲んでたんだ。
ほんとうにごめんね。
じじは溢れでるたくさんの気持ちが
頬をつたって止みませんでした。
いつも食べていた優しい味のする
ばばの料理も
いつも布団で背中に感じてた温もりも
おかえり
と出迎えてくれる安心する声も
もう無いのです。
じじはわかったのです。
いや
本当はわかっていたのです。
ばば無じゃ生きていけないのです。
じじにはばばが必要なのです。
ばばがいないと何もできないのです。
じじは
ばばに会いたいと思いました。
じじは
ばばに  ありがとうと
一言言いたかったのです。
じじは日記を
1ページずつ
もう1度ゆっくり読んで
破り
次のページを読んでは
破りました。
そして
すべてのページを破り捨てて
この胸いっぱいに幸せを抱きしめて
じじは眠りました。
じじは
2度と起きることはありませんでした。