戦時中、各国とも試作機や、完成しながらも実戦に間に合わなかった…等の軍用機は色々と有りますね。

当然、日本陸海軍にもそれなりに存在していたのですが、例えるなら、あの零戦の正統な後継機である『烈風』や、某怪獣映画に登場した『震電』等が有名でしょうか。


そんな訳で、今回は、敢えて烈風や震電ほどに『あまりメジャーではない試作機』に関して記してみようかと思いますm(_ _)m




◆超空の要塞 B-29 出現に備え…◆


時は風雲急を告げる幕末……(^_^;)ではなく昭和十八年の一月…

日本軍側の旗色が悪く成り始め、連合国軍側の一大反抗の兆しが見え始めた頃、日本軍側は驚くべき情報を入手します。

米軍は、とんでもない爆撃機の開発を進めているっ!!

そうです、あの憎きB-29ですね🔥

何でも、B-29の試作機が墜落事故を起こした事から、その情報を入手したらしいですね。

その頃…日本海軍では、邀撃戦闘機である局地戦闘機の『雷電』や『紫電』が開発中でしたが…


▲『雷電』。異常振動が解決しませんっ!! 思っていたより速度が出ませんっ!!


▲『紫電』。水上戦闘機の強風からデッチ上げたので、降着装置の不具合が解決しませんっ!!  ブレーキも噛み付いて引っ繰り返りますっ!! 発動機の『誉』様が、我儘でグズって仕方がありませんっ!! 

果たしてものになるのかっ⁉

…と、捗らない開発の進捗状況にお先真っ暗でした。

しかも、『雷電』や『紫電』は、それ迄の『B-17』や『B-24』への対抗措置とした局地戦闘機だったので、これから現れるであろう未知の重爆撃機『B-29』に通用するかは未知数でした。

だったら新しいのを造れば良いではないかっ!!ヽ(`Д´)ノプンプン

戦時中故に、各メーカーは試作だ生産だと逼迫していたのですが、海軍は大きな期待を込めて、中島飛行機へ邀撃を主目的とする新型戦闘機を、『十八試局地戦闘機』として開発を命じました。

その要求性能は……


◎双発単座で、発動機は『誉』を搭載する事。

◎高度6000mで、最高速度360ノット(667km/h)。

◎高度6000m迄、6分以内の上昇力。

◎高度8000m迄、8分30秒以内の上昇力。

◎武装、20mm及び30mm機銃を各二門。


…等と、未知の敵である『B-29』を意識しての、なかなかの無茶振りでした。

更には、発動機に『誉』を要望する辺りには、もはや悪い予感しかしません(^_^;)

誉はヤメておけっ!!

更に、爆撃機編隊の集中防御砲火を突破する為に、操縦席前面に20mm厚とも言われるブ厚い防弾鋼板や防弾硝子を備え、各燃料タンクも防漏化されると共に、自動消火装置に窒素ガス封入…と、徹底した被弾対策が盛り込まれていました。

通常の単発機の場合、正面から撃たれた場合は発動機が搭乗員の盾になりますが、この十八試局地戦闘機は双発なので、操縦席前方には何も無いんですね。

なので、ブ厚い装甲が必要になる訳ですが…

こんなに速いのだから、背後を獲られる事など有り得ないっ!! 余計な物は省いておけっ!!

…と、海軍側の主張で操縦席後方の防弾鋼板は装備されない事となりましたヽ(`Д´)ノプンプン


◆口出しは慎む海軍。しかし…◆

中島飛行機は、後の『月光』となる十三試双発戦闘機の開発の際、運用側である海軍から散々口出しされ、何度もの仕様変更を行なう羽目になったり、そうかと思うと手の平を返されたりと、結果、十三試双発戦闘機は訳の分からない戦闘機となり…


▲後ちに『二式陸上偵察機』と『夜間戦闘機・月光』として蘇る十三試双発戦闘機。陸軍の二式複戦『屠龍』も同様に、運用側である軍部の要求の手の平返しの連続に、散々な目に遭いました(ノД`)シクシク

こんなのは要らんっ!!

と不採用になってしまったトラウマが有りました。

まぁ、十三試双発戦闘機は、二式陸上偵察機として首の皮一枚で繋がって生き延びて月光へと変身し、脚光を浴びる迄になりましたが、何にせよ、今回の十八試局地戦闘機の開発は慎重に行なう必要が有りました。

心得た。口出しは慎む事とする。諸君等の開発方針を尊重する。

…と、さすがに海軍側も十三試双発戦闘機開発時の反省が有ったのか、珍しく大人しくなります。

そのお陰(笑)と、十三試双発戦闘機のノウハウを活かして、中島飛行機は僅か一年程の短期間で新鋭機の試作機を完成させ、制式化となった暁には『天雷』と名付けられる事となりました(≧∇≦)/



▲十八試双発局地戦闘機『天雷』。十三試双発戦闘機のノウハウを活かして、驚異的な開発期間の短さで試作機が完成しました。


天雷は双発なので、総重量は7300kg程になりましたが、双発の余剰出力を得て、低馬力荷重…つまり、良好な推重力比(パワーウェイトレシオ)を得て、益々と期待が高まりました。

更に、高翼面荷重対策として、ファウラー式の親子フラップと前縁スラットを導入していたので、これは空戦時に空戦フラップとしても機能し、単発機並みの格闘性能を狙うと共に着陸速度の過大も抑えていました。





おおっ!! 凄いではないかっ!! 

…と喜んだのも束の間(ノД`)シクシク

発動機の『誉』様がグズり始めます(~_~;)

天雷の試験飛行に於いて、最高速度は高度6000mで330ノット(610km/h)で、上昇力も、6000m迄8分と、要求性能を下回る結果となりました。

更に追い討ちを掛ける様に、エンジンナセルの設計の失敗から、ナセルストールが発生してしまうとの問題も露呈しました。

すると…運用側の海軍さんは、例に依って当初の反省や約束を都合良く忘れてしまいます(^_^;)

あーしろっ!! こーしろっ!! あれもやれっ!! これもやれっ!! 速くやれっ!!

天雷の試験飛行の結果が芳しく無かったと言うのに、あれもこれもと過大な要求を重ね…

その無茶な要求を全部盛り込んだら、天雷は戦車みたいに重くなってアレ(十三試)みたいになっちまいますよ? いいんスか?(白目)

…と開発陣は抵抗し、海軍の技術士官等も味方に付いてくれましたが…


うるさいっ!!

 (⁠ノ⁠`⁠Д⁠´⁠)⁠ノ⁠彡⁠┻⁠━⁠┻


…結局、運用側の強い意見には勝てず、天雷は大幅な大改修が必要になってしまった訳ですね。

コラッ!! またかよっ⁉

更に海軍は…

単座戦闘機に双発は要らねぇーな!

それと、誉の不調をどうにかせよっ!!

…とか、双発や誉は自分達が出した要求だと言う事を記憶喪失の様に忘れて言い出す始末…(¯―¯٥)

あなた達、もしかしてバカですか?

更に運が悪い事に、海軍が掲げた『新機種削減統一』に引っ掛かってしまい、天雷の開発は中止が決定され開発陣は意気消沈する結果に…。゚(゚´Д`゚)゚。

そもそも、各メーカーに対して試作機開発の指示を乱発したのは、あなた達軍部ではないですか? それで開発陣を疲弊させたのもあなた達軍部ではないですか?

やはり、あなた達はもしかしてバカですか?

何処かからか、心の声が聞こえて来ます。(白目)

結局、天雷の試作計画は、当初は増加試作機を含めて十二機でしたが、終戦迄に6機が完成したに留まり、海軍側の要求に振り回されて試作5号機と6号機は複座に改造されていました。


▲終戦後と思われ、飛行不能とする為にプロペラが取り外されています。あと一歩造り込めば、B-29の邀撃に対して相応の有効性を発揮したとも言われています。
軍部としては、戦局悪化の起死回生を狙って新型機の試作開発を乱発したのでしょうが、結局は、各メーカーの開発陣を疲弊させる結果となってしまいました。
各機種の生産性も低下している状況では、既存機の生産に集中するとして、試作機がふるいに掛けられたのは止むを得なかったとも言えます。


◆天雷、蒼空の果ての終焉◆

まるで『事業仕分け』の様な開発中止の仕打ちを受けてしまったとは言え、天雷には見るべき部分は多いと言えました。

機銃口は、戦闘時のみに開口するカバーが装備され、空気抵抗の低減を図っていたり、二重フラップや前縁スラット等、近代的な高揚力装置、生産性に配慮した分解組み立て構造や部品点数の削減…等々…開発陣の努力が随所に垣間見る事が出来ました。


又、不遇の双発戦闘機・天雷の唯一の救いは、複座型に30mmの斜め銃を装備し、終戦間際に実用試験との名目でB-29の邀撃に上がった事でした。

それは、不遇であった天雷のせめてもの花道であったと言えるかもしれません。


▲局地双発戦闘機『天雷』。全体的な雰囲気は、月光に通ずるものが有ります。海軍が双発を要望したのは、やはり局地戦闘機として優れた上昇力と速度性能が要求されたからなのですが、海軍側の発動機の選定の時点で、既に開発に暗雲が立ち込めていたのかもしれません。『金星』系統の発動機を選んでいれば、また結果は変わっていたのかもしれませんが、戦局や運用側との軋轢を考えますと、定かではありませんね(-_-;)


…さて、如何でしたでしょうか。
しばらくは、試作機の何機かを記してみたく思います。