妄想blです。

お嫌いな方はスルーで。

編集作業も終わり、写真をコンペに応募したことで、差し入れという名目の潤くんんとのランチは終わってしまうかのように思っていた。

だけど、実際はそうじゃなく。

何かと声を掛けてくれる潤くんは

よくオレを連れ出してくれた。

それは大野さんの自宅であったり、近くのカフェだったり、夜なら居酒屋だったり。

打ち合わせの合間の時間を、そうやって一緒に過ごして次の仕事に向かう。

そんな潤くんを側で見て、オレもこのままじゃダメだって思って。

僅かばかりの伝手を辿り、写真の仕事を受けるようになった。

前ほど多くはないけど、ゆっくりしっかり、自分の足で歩いている実感が持てるくらいの量を

ひとつひとつ丁寧にこなしていく。

それはやっぱり、潤くんが隣に立ちたいって思ってくれていると知ったから。

オレ自身も、潤くんと肩を並べて隣に立てるようになりたいって思いから。

そうやって、お互いそれぞれのフィールドで戦って、頑張っている顔を見せあっていければ。

そんな思いがほんのちょっと未来の目標になる頃には、お互いを名前で呼ぶ事への違和感やテレもなくなっていた。

スマホを取り出して、日付を確認する。

そうして着信履歴から潤くんの番号をタップした。

何度か鳴った呼出音の後に切り替わった留守電に打ち合わせ中なんだろうと思って、要件を吹き込んだ。

「潤くん、オレです。今日、お昼、最初に待ち合わせたあのカフェで待ってる。何時になってもいいから、来てください。

来てくれるまで･･･ずっと待ってるから。」

あの日から決めてた。

今日は、どうしても潤くんと一緒にいたいって。

歩いてあのカフェに向かう。

最初に潤くんと待ち合わせた海沿いのカフェ。

少しだけ重たいドアを引いて店内に入って中を見渡すと、あのテーブルは既に先客がいた。

その代わり、テラスは空いていたから

そちらに座った。

注文を済ませ、ポケットからスマホを取り出してテーブルに置く。

程なくして運ばれてきたアイスコーヒーを飲みながら、目の前に広がる海を眺めていた。

心臓が、いつもより早く感じる。

何だか落ち着かなくて、ソワソワしてしまう。

あっという間に飲み干したアイスコーヒーのお代わりを頼んで、それを待つ間に

入口のドアベルが鳴って潤くんの顔が見えた。

キョロキョロと店内を見渡す潤くんと目が合って、こっちだよって片手を上げると

小さく笑顔を見せてくれる。

「待たせた？ごめんね。」

そう言いながら席に着いて、すぐに注文をして。

出先での打ち合わせの後、自宅に戻る途中に来てくれたそうで、着ていたジャケットを脱いで背もたれにさっと掛けた。

オレのお代わりのアイスコーヒーと一緒に

潤くんが注文したカフェラテも運ばれてきた。

「で？急にこんなとこに呼んで、何かあったの？」

「ん、ちょっと。

あのね、前に潤くんを撮らせてもらったじゃない？あの時の写真をね、コンペに出したんだ。」

「え？マジで？」

「事後報告になってごめんね。ごめんついでに、今日がその結果発表の日なんだ。

だから、一緒に見て欲しくて･･･。」

「そうだったんだ。応募してたって知らなかったから驚いたけど、いいよ、一緒に結果見よう。」

その言葉に安心して、テーブルに伏せたスマホを手にした。

「発表って、ネットでわかるの？」

「うん、ホームページに載る。」

隣の席に移動した潤くんが、オレの手元をのぞき込む。

オレより僅かに高い体温を感じるくらいの近さ。

きっと急いで来てくれたんだろうってわかる。

「ねぇ、かず。どんな結果でもいいって思う？」

「んー･･･思うけど、出来れば獲りたいって思う。」

これから先も写真で食って行くって思いが捨てられないから。

プロとして自分が納得するものを撮るっていうのは最低条件で、プロであるのなら見る人に何かを伝えられるものを撮らないといけないと思うから。

綺麗事じゃなく、食って行く為に。

写真家・二宮和也と名乗る為の、覚悟のひとつになる気がするから。

「だから、獲り･･･たい。」

「そっか。何か、それ聞いて安心した。」

オレの背中をぽんってひとつ叩いて、よし！見るぞ！！って一緒に気合いを入れて

画面をタップしてコンペのホームページを開いた。

宵待つはうたかたの中で。35