妄想blです。

お嫌いな方はスルーで。

「寝てんのかな･･･。」

独り言みたいに呟いた松本さんは、その掃き出し窓から外に出ていった。

どうしよう、着いていった方がいいのかな？

そう思いつつ、今まで松本さんがいたその窓際に立って外を見てみると、そこには小さいけれどプールがあった。

「大野さんって･･･お金持ち？」

高級そうな住宅街の一軒だけど、まさか庭にプールがあるなんて。

オレの人生に於いて、家にプールがある人と知り合った事なんてない。

松本さんは本当に自分の家みたいにその中庭をずんずんと進んで行って、プールの奥にあるパラソルのところにまで行った。

よく見ると、そこにはソファがあって、その上に誰が寝転んでる。

「･･･マジか。庭にプールがあって、ソファまであるとか。」

大野さんって何者なんだろうか。

ひとつ言えるのは、お金持ちに違いないって事だけだな。

むくりと起き上がったその人と何か話してるらしい松本さん。

その人がこちらを見て、目が合ったような気がしたからぺこりと頭を下げた。

･･･えっと。

オレ、どうしたらいいんだろう。

そう思ってたら、松本さんが手招きをする。

あ、そっちに来いって事？

目の前にあったサンダルを拝借して、呼ばれるままに近づいた。

「いらっしゃい。」

ふにゃっと笑うその人の笑顔に、何だか安心させる不思議な力を感じる。

「お邪魔してます。初めまして、二宮です。」

「あー！だからニノか！！」

「･･･え？」

その名前は松本さんの大事な人の名前。

この人も知ってるの？

「ニノの事を知ってるのは、大野さんだけなんです。あ、あと、たろうも。」

「･･･なるほど。」

「んふふ。ニノじゃねぇの？」

その言葉に、ちょっとムカっとした。

「･･･っや、ニノですけど。」

オレの事をニノって呼ぶ人は多い。

だけど、大野さんが呼んでるニノはきっと、オレじゃない。

「人魚でも、人魚じゃなくても。ニノはニノだろ？」

その言葉で、腹を立ててた自分がちょっと恥ずかしくなった。

そんな風に言ってくれてるんだって受け取れなかったのは、気にし過ぎてた自分のせいだったんだ。

そして、大野さんのその言葉で気付かされたのはオレだけじゃなかった。

「そうだよね･･･。ニノは、ニノなんだよな。」

松本さんが真っ直ぐにオレを見ながら、大野さんの言葉を反芻するように呟いた。

呟いて、一度ゆっくり目を伏せて。

もう一度その目で見つめられた時には、また少し松本さんの印象が変わっていた。

「とりあえずコーヒーでいいですか？」

「えー！ビールにしようぜぇ！」

松本さんの言葉に駄々を捏ねるように返事をする大野さん。

「急に呼び出されたらどうすんの？！ダメだよ！！」

「じゅんのケチー･･･。」

口を尖らせて松本さんに文句を言う大野さんが可笑しくて。

何か、この2人おもしろい。

緩む口元を手で隠して、ついでに笑いを堪えた。

コーヒーの準備をする為に部屋に入った松本さん。

大野さんと2人きりになってしまって、どうしたらいいかわからなくなる。

「隣、座んな？」

自分が座るソファの隣をポンポンって叩いてるから、その言葉どおり大野さんの隣に座った。

「大野さんって、何者なんですか？」

「んー･･･。潤の仕事の得意先。そして、友達。ついでに、泣きついてくる場所、かな？」

最後はちょっと笑いながら。

仕事関係で、友達で、弱い自分を見せられる相手。

松本さんにとっての大野さんは、そんな大事な存在なんだ。

「何か、羨ましいです。そんな信用できる相手がいるのって。」

「ニノにもいるだろ？」

「･･･オレにも？」

真っ先に浮かんだのは、先輩の顔。

だけど、思い出した途端に胸が苦しくなる。

大野さんがすっと手を差し出してきて。

オレの胸元に触れた。

大野さんの手が触れたのは、無意識に胸の前で固く結んだオレの手。

「んふふ。大丈夫、ニノにもいるから。そんな大事に思える相手。」

「･･･オレにも？」

「おう！絶対、いるから。自分で気付いてないだけかもしんないしな！」

大野さんのその言葉が、触れる手が、暖かい何かをオレの心に注いでくれる気がした。

オレが、気付いていないだけ。

もしかしたら、もう既に出会っているのかもしれない。

そんな相手に。

「アイスコーヒーでいいですか？」

トレーに乗せたグラスを運んできた松本さんと目が合った。

ふんわり笑うこの人の笑顔と、大野さんの笑顔。

何だか似てるなぁって思って、それがこの2人の関係性を表しているような気がした。

見た目は全く違うのに。

それでもお互いに大事な存在。

そんな2人が正直に羨ましいと思えた。

そして、きっとオレにもそんな相手がいるんだって、大野さんの笑顔のおかげで素直に思えた。

宵待つはうたかたの中で。22