妄想blです。

お嫌いな方はスルーで。

side 翔

スマホを取り出し、こっそりとメッセージアプリを開く。

もう間もなく仕事を終えるであろう恋人へ

今、この状況を伝えるために。

『ニノが来てる。』

きっとこれだけで、察してくれるだろう。

なぜなら、ニノと雅紀は特別だから。

俺との関係とはまた違う、特別な関係だから。

送ったメッセージは直ぐに既読になった。

予定より早く終わったって事か。

『生姜焼き作るから。』

返事もまた簡単な一文。

だけど、ちゃんと伝わっていて、察してくれているのがわかる内容だった。

そう思える自分も、雅紀にとっての特別である事がわかって、ちょっと頬が緩む。

帰りついたマンションのロビー。

来客用のソファに沈んでいるニノを見つけた時は

もうそんな季節なんだって思った。

年末が近くなるこの時期、決まってニノはうちに来る。

連絡くらいすればいいのに。

そしたら、こんなとこで待たす事もないんだけど

どのタイミングで来るのかはニノ次第だから。

そう長く待たせていない事を祈るだけだ。

「ニノ、行くぞ。」

声をかければ無言のまま立ち上がり、俺の後ろを着いてきて一緒にエレベーターに乗り込む。

玄関を開けて招き入れて。

小さな声でひとつ「お邪魔します。」と呟いたニノは、そのまま通したリビングの一角に座り込んだ。

「ビールでいい？」

「ん。」

短い会話をして、冷蔵庫から取り出した缶を手渡して。

後は好きにさせる。

雅紀が帰ってくれば、きっと嫌でも構うだろうから。

ニノが陣取ったその一角はリビングボードの前。

そこには、俺が趣味で集めているスノードームを並べている。

特に拘りはないけど、何となくお気に入りのものは前に持ってきているそのスノードーム。

ニノは、それらを端から順番にひとつずつひっくり返していく。

一通りひっくり返して。

しばらく眺めて。

そしてまた、端から順にひっくり返す。

雪に見立てた結晶がゆっくりと落ちていくのを

じっと、ただじっと見つめている。

それを見て、何を思っているんだか･･･。

何となく見当はついては、いる。

でも、もう何年も見ているこの光景なのに、その理由をはっきりと本人の口から聞いた事はなかった。

床に直接座るニノのその背後に腰を下ろした。

楽屋で時々見かける二人の光景を思い出しながら、潤がやっているように後ろからニノを抱きしめて脚の間に収める。

黙ってその姿勢を受け入れてくれたニノ。

そしてまた手を伸ばし、端から順にひっくり返していく。

「よく飽きないな。」

「それ、持ち主が言っちゃうの？」

クスクスと笑いながらの返事に少しだけ安堵する。

「ニノ、どうした？」

「･･･どうもしない。これが見たくなっただけ。」

嘘つきのニノ。

嘘が上手なニノ。

だけど、その嘘が綻んでしまうくらいの溢れた感情に気付かないほど、俺は鈍感じゃない。

この時期になると慌ただしさを増す。

世間一般としてもそうだけど、俺らの仕事はなお一層だ。

年末年始の特番の撮り溜めだったり、ツアーの最中だからこその忙しさだったり。

それに加えて潤は、人付き合いの良さから呼ばれる事も多くなる。

それらを断らないのは、潤のポリシー。

呼んでくれる人を大事に思うからこそ、この忙しい時期でも僅かな時間の隙間を縫うようにして

色々な場所に顔を出している。

それは仕事の為というよりも、相手への感謝から。

そうやって出掛けて行って、結局帰り着く頃にはわずかな睡眠時間しか取れない状況になる日もしばしばで。

だからこそ、ニノは黙っているんだろう。

一番近くで潤の思いに触れているニノだからこそ、何も言えないんだろう。

そうして我慢して、帰ってくる潤を気遣って。

どうしようもなくなると、雅紀に会いに来る。

「･･･ねぇ、翔ちゃん。」

スノードームを見つめながら、呟くように話し始めるニノの声。

「このキラキラの雪みたいなのって、なんだろうね。」

「んー･･･何かの結晶とか、それぞれ違うんじゃない？」

「落ちるスピードも全部違うね。」

「そうだな。」

穏やかな声音だからこそ、ニノの淋しさが伝わる気がして、その小さな体をぎゅっと抱きしめた。

「まーくんに怒られるよ？」

「ニノだから、怒んないよ。」

台詞とは正反対に、抱きしめる俺の腕に抵抗することもなく、ただ体を預けてくれる。

「ニノ、潤がいなくて･･･淋しい？」

「ふふ。どうかなぁ。いつもの事だもんね。」

それはまるで、自分に言い聞かせるようで。

泣いてしまうんじゃないかと思ってしまって、抱きしめる腕に更に力を込めた。

「これを見てるとね、落ち着くの。」

「うん。」

「こうやって、ゆっくりゆっくり落ちてくる結晶が、中のオブジェに降り積もっていくのが、まるで潤の思いみたいで。

見てると、何でかわかんないけど落ち着く。」

「･･･そっか。」

ニノの言葉のとおり、ゆっくりとドームの中を舞う結晶達は少しずつ降り積もっていく。

ひっくり返せば、何度でも。

「潤の愛し方に、似てるなぁって。あの人、めいっぱい注ぐじゃない？オレだけじゃなくて、自分と嵐に関わる人全員に。」

「はは。確かにそうだな。」

拘りが強い分、ぶつかる事も多い潤。

だけどそれを嫌がらず、それすらも飲み込んで咀嚼して血肉にして。

そうして嵐を、自分を作る糧にする。

だからこそ、関わる全ての人にめいっぱい持てるだけの愛情を注ごうとする。

それもある意味、潤の拘りなのかもしれないな。

玄関からこの家のもう1人の主の帰宅を知らせる騒がしい音が聞こえる。

「お、やっと帰ってきたな。」

さすがにこのままの格好で雅紀を出迎えるのは気が引けるから、立ち上がって玄関へ出迎えに行った。

「翔ちゃん、ただいま。ニノまだいる？」

「おかえり。お疲れさん。いつものとこにいるよ。」

立てた親指でリビングのドアを指すと、ちょっと複雑そうな顔をした。

だけど、一瞬でそれも消して。

いつもの笑顔を浮かべる。

「じゃあ、ニノちゃんが元気になるように、相葉さん特製生姜焼きを作ってやろう！！」

この気持ちの切り替えの早さは、いつ見ても流石だなって思う。

ニノの気持ちをわかっているだろうに。

その気持ちに寄り添って、だけど先に立ち上がって手を差し伸べる。

ニノがその手を掴むまで、我慢強く差し出し続ける。

それが、ある意味雅紀の強さ。

俺の横をすり抜けてリビングに入った雅紀の背中を見ながら、俺に出来る事はなんだろうって考えた。

スノードーム。1