「Voice6月号」で「サムスンに負けない!日本企業の新・成長戦略」という特集をやっていた。
 この特集は第1部と第2部にわかれている。
 第1部は「徹底分析!韓国企業・強さの秘密」という題で、書き手は、財部誠一さん(経済ジャーナリスト)と竹中平蔵さん(慶応義塾大学教授)。
 第2部は「「新しい外需」を掘り起こす法」という題で、書き手は堀紘一さん(ドリームインキュベータ会長)、藤沢久美さん(シンクタンク「ソフィアバンク」副代表)、原丈人さん(デフタ・パートナーズグループ会長/財務省参与)、柳川範之さん(東京大学准教授)、町田尚さん(日本精工顧問)。
 第2部は、それぞれの筆者が詳しい分野について書いていて、いろいろと知らなかったことがわかったが、私は第1部の方が面白いと思った。
 第1部では、財部氏が主に「サムスンの強さの秘密」について、竹中氏が主に「韓国政府の成長戦略」について書いている。
 両方とも興味深い内容だったが、今回は財部氏の論文について書く。
 なお、「週間ポスト5月18日号」にも、サムスンに関する記事(「世界一を独走中 韓国の巨人サムスンが失速する日」)が出ていたので、それと比較しながら見ていく。

 財部氏の論文は、題名が「サムスンは「グローバル市場」しかみていない」
 内容は、サムスンの強みについての分析と、日本企業と台湾企業の連携について。
 財部氏の論文によると、サムソンの強みは主に次の3つ。「部品のグローバル調達」「海外販売における営業努力」「マーケティング」。それぞれについて、論文の内容を引用する。なお、太字になっているところは、私が注目したので太字に変えた部分。

 「部品のグローバル調達」について。
「…私が直接、サムスンのある幹部から聞いた話が象徴的だ。
「私は日本製の携帯電話をもっているが、質感から機能まで申し分ない。素晴らしいできばえだと思います。サムスン製の携帯は日本の部品を使い、日本の技術を応用しているから、頑張っても日本製の85%程度のクオリティーの製品しかつくれません。しかし、われわれは日本製の定価の75%で販売することができる。この10%こそがサムソンの優位性です」
 繰り返しになるが、そのようなサムスンのやり方こそがいまやグローバルスタンダードであり、日本の特徴である「自前主義」「総合化」のほうが時代遅れになっているのだ(「Voice6月号」46ページ)」
 これについて、「週間ポスト」の記事では「…サムスンは得意分野に特化して、それ以外は外注に委ねるという“選択と集中”を行ってきた」という北岡俊明さん(「世界最強企業 サムスン電子恐るべし!」の著者)の言葉を引用している。
 同じ企業の同じ戦略を言い表すのに、「部品のグローバル調達」と言う人と「選択と集中」と言う人がいるのが面白いところである。私は「選択と集中」よりも「部品のグローバル調達」の方が直接的でわかりやすい表現だと思った。
 
 海外販売における営業努力について
「…彼らは危機に瀕して異常なほどに高まる愛国心をもっていて、それに拍車を掛けるようにサムスンの経営者は社員の尻を叩き、海外で働かせた。「売れるまで国に戻ってくるな」。これがサムスンの流儀である。電子化を前提にした低コスト戦略やデザインなどハード面だけでなく、決死の覚悟を背負って現地で売り歩く営業マンたちの存在が大きかったのだ「Voice6月号」47ページ)」
 「彼ら」というは、もちろん韓国人のこと。「決死の覚悟」というところが、財部氏一流の感じが出ている表現だと思った。
 そして、多くの日本企業とサムスンの海外営業の違いとして、海外派遣の任期について書いている。
「なかでも指摘すべきは、任期の問題である。いったん派遣されたら成功するまで帰れないサムスンと違い、日本企業は派遣期間を3年、と定めているところが多い。最初の1年はよくわからないままで過ごし、2年目でようやく仕事に慣れてくる。そして、3年目は本社から来る帰国の辞令を指折り数えて待ちながら過ごす。このようなサイクルが常態化していて、これでは成果を出すほうが難しいだろう「Voice6月号」48ページ)」
 日本企業の海外駐在員の任期が短すぎるというのは、よく言われることで、上記の内容はほとんど異論がないところだろうと思う。
 なお、「海外販売における営業努力」に関して、「週間ポスト」の記事はあまり触れていなかった。

 マーケティングについて
「…サムスンはそのために「現地化」した社員から徹底的にマーケットの情報を吸い上げる。世界各国の現地情報をもとに「こういう製品が求められている」「この製品はもっとアップグレードする必要がある」という判断を行ないながら、いまのボリュームゾーンはどこか、をスピーディーに確定していくのだ「Voice6月号」50ページ)」
 「そのため」というのは、「何がいま求められているのかという見極めのため」ということ。「ボリュームゾーン」というのは、「それなりの所得があり、人数もそれなりに多い中間層」という概念。
 そして、財部氏一流の過激な日本企業に対する叱咤激励の文が登場する
「…ボリュームゾーンを日本向けの製品をコストダウンして出す市場くらいにしか捉えていないのではないか。新興市場自体が急激に変化し、その変化をつかむには、「生きたマーケティング」が必要ということについて、どこまで認識が進んでいるのだろう。
 韓国企業はボリュームゾーンで勝った、日本企業も同じ土俵で勝負、という発想をしているかぎり、永遠に日本企業はサムスンに追いつけない
 「同じ土俵で勝負」というのは、「「グローバルなボリュームゾーン」の土俵の上に上がれるようにする」という意味で捉えれば、当然必要なことのようにも思える。しかし、「今そこにある土俵に上がれるように」と考えているようでは、その土俵に上がれるようになった時には違う土俵が登場している。ということを財部氏は言いたいのだろう。
 マーケティングに関して、「週間ポスト」の記事では、次のような北岡氏の発言を紹介している。
「…現地の人々の生活レベルを徹底的に調査した上で製造・販売する“オーダーメイド戦略”が求められているのです」
 だいたい似たようなことが書いてあると思うが、「生きたマーケティング」「オーダーメイド戦略」というふうに、例によって同じ企業の同じ戦略を表しているが、表現方法が異なる。
 私は「生きたマーケティング」と言った方が、ぴったりしていると思う。
 
 これ以外に「週間ポスト」の記事では、「デザイン」「広告」「アフリカ戦略」のことが出てくるが、あまり詳しく書いていない。ちょっと触れている程度である。

 そしてこうしたサムソンの強みについて書いた後の展開は、全然違う方向に進む
 財部氏の論文は、日本企業とるべき道として「台湾企業とのアライアンス」を薦めている。
 「週刊ポスト」の記事は、「李会長の後継問題」について書いてある。
 「カリスマ性のある李会長は自分の長男に経営権を譲ろうとしているが、世襲擁護派と反対派がいて、内紛が勃発可能性がある」というのがその内容。
 もちろん両方とも必要な視点だと思う。この違いは、オピニオン誌と週刊誌という媒体の違いによるのだろうか、と思った。


世界最強企業サムスン恐るべし!―なぜ、日本企業はサムスンに勝てないのか!?