昨日、2本立てにするつもりが長すぎたので別エントリーにしました。タイトルは手抜きで前エントリーと同じですが、千切り合いのエピではありません。
 
 
以下、細部に到るまで実話です。ちょっと変わった話で。
 
 
まだFUJIに乗っていた頃、気候のよい穏やかな日に、ポタ程度にサイクリングロードを流して、いつもの休憩所に到着した。ポタ気分の時は、よくここでマッタリして引き返す。そしてこの日も同じように落ち着いて、そろそろ帰ろうかと思っていた時に目の前を、女性ローディが通過した。しばらく後に白いGIANTが通過していくのを見た。

これから自分が帰路につく方向と同じなので、もしこちらのペースが上ならば追いつくかも。と、別に追いかけるつもりもなく何となく思った。
走り出して前方に目をやると、遠くの方にさっきのGIANTが見えた。

「あのペースなら追いつくかも」
 
25~28キロくらいで淡々と走って、家まであと6、7キロくらいの所で追いついた。安物のヘルメットを被っているのが見てとれた。

「あのコーナー抜けたら追い越そうかな」
 
と思いつつ近づいて行ったら、GIANTのお兄さん、ラチェット音でこちらに気付いた。すると、手信号で路面の状況を教えてくれた。
 
なんと親切な。
 
そして「先に行け」という合図と共に左へ避けてくれた。これはどうも。ということでお互い会釈して先に行かせてもらう。
 
 
すると、どういうつもりか、後ろにピッタリついて来る。
「おちょくってる?それとも風除けか?」
 
道を譲っておいて後ろにつくとは。
 
特に逃げる気分でもなく、

「まぁいい、抜くなら抜いてくれ」

と左キープで速度維持。
暫くしてやはり抜いてきた。
 
道を譲っておいて抜き返す??なんだこれ?
 
そして、抜いてすぐ無言のまま、自分の前に入ってきた。しかも後ろを走る自分に、またもや手信号を出してくれる。
 
 

「?・・・、牽いてくれる?」

 
 
そしてチラチラッと後ろを気にしている。
 
 

「ひょっとして・・・ これは・・・・・・」
 
 
 
「無言でローテーションの要求??(ノ゚ο゚)ノ」
 
 
そうなのか?確かめる為に速度アップ。追い越して前に出る。そして同じように前に入って風除けになってやる。すると10秒たたないうちにまた抜いてくる。前に入る。

「やはりそういうことか!そうとわかれば!」

ここから互いに5~10秒間隔くらいでローテーション走行が始まった。速度は30キロオーバー。途中で目が合った。

「笑ってる・・・」

日焼けして色黒な彼は初対面の自分に対して楽しそうに笑った。
そ、そんなに楽しいん?・・・ い、いや、こっちも楽しいよぉぉ。こんなに気持ち良く走れるんだから。
 
この爽快な走行感覚がローディの喜びでないはずは無い!
 
 
休憩所で見た女性ローディを追い越した。多分、「仲間同士で走ってるんだ」と思っているだろうな。仲良くローテーションしてるんだから。
 
 
でも実は、たった今この人に会ったばっかりで、喋ったことも無い人とローテしてるんだよぉ~!!
 
 
そして見通しの良い区間に入ったら、視界の届くかぎり歩行者も自転車も居ない。踏み放題のシチュエーション!速度が35キロになった。相変わらず半分ニヤけて楽しそうだ。最初気味悪いとさえ思ったが、ほんの何分かローテしただけで、不思議に以前からの知り合いのように思える。目があった時、こっちも少し微笑んだ。
 

前方にいつも渡る橋が見えてきた時、速度は38キロになっていた。このスピードは自分では到底維持できない。でも二人とはいえ、小刻みにローテーションを繰り返しており、前を走るときだけ頑張ればよく、後ろの時は休憩できる。
 

そして橋が迫ってきた時、ここで初めてこの人と言葉を交わした。
 

風に流されないように大きな声で、

「あの橋で曲がりますわ!」
「了解!」

この会話の後は、10数秒くらいがんばってこっちが牽いて、橋の手前の分かれ道へ。右は橋の下をくぐってそのままサイクリングロード、左は橋の上に出る。お互い手を挙げてここで別れた。
別れた後は、気持ち良く走れた爽快感と、見知らぬ変わった雰囲気の人と走った緊張感と楽しさとが入り混じって、家に帰るまで興奮がおさまらなかった。
 
 
それ以後、サイクリングロードを走る時は、今でもあの白いフレームに青い文字のGIANTと安物のヘルメットを被ったローディを探す時がある。できれば知り合いになって一緒にロングでも走れば、きっと楽しいと思う。もちろんローテーションで走る。
でも今頃は乗りかえているだろうな。こっちも乗りかえたし。
 
 
自転車は不思議な乗り物だ。共通点は自転車に跨っていることだけで、言葉も交わさず、お互いに素性もわからない相手であるにも関わらず、互いの為に風除けになって走れば、親近感すら湧いてくるのだから。