海外旅行の往復航空機の中で読みました。
行きに上巻と下巻の半分、帰りに下巻の半分。簡単に感想をメモ。
愛とは何か、悪とは何か、怒りとは何か・・・本来曖昧で、
感覚的なものですが、それがどれだけ曖昧なものかがストレートに書かれている話だと思います。
松本清張のような「殺人犯にもそうせざるを得なかった社会的理由がある」、
という小説かと思ったら、そうではなかった!
清水祐一が石橋佳乃を殺した本当の理由も、馬込光代と祐一が本当に愛し合っていたのかも、
実はよくわからない。結局はっきりとは書かれていないのに、そこはかとない孤独感や
恐怖心のようなものが伝わってきます。
浮き彫りにされているひんやりとした得体の知れないこの感情は、一体なんだろう。
祐一が親に捨てられた幼少体験や、光代が進んで祐一と一緒に逃げ回ったことなどから、
幸の薄い青年と女性の純愛ストーリーのように受け取ることもできるけど、それより
興味を引かれたのは、登場人物の物事の捉え方です。
きちんと育てられたはずの佳乃が、男性をまるでアクセサリーのようにしか見ていない。
金持ちの増尾はとことん他人を見下している(たぶん自分自身も大事にしていない)。
佳乃の父親は、犯人を激しく憎むけれども、それはあまり長続きせずあきらめて立ち上がる(ように見える)。
祐一の祖母にとっては、孫のことよりも悪徳商法の取立人をどうするかの方が、一大事のようである。
・・・
それやこれやで、登場人物たちが意外とドライな印象を受けた。
祐一がいよいよ捕まるとなる頃には、読んでいる方も殺人事件自体が、本当に重大なことだったのだろうかと、などと思ってしまうくらい。
そのタイミングで、一番ウェットだったと思っていた光代のラストの独白が、どーんと心に響きました。
世の中はこんなものなのだろうか?それでいいのか?と憤りつつ、自分自身も「こんなもの」の
一員になっているかも(きっとそうだな)という恐ろしさを、じんわり感じさせられます。
映画のおかげで読む前に犯人が分かってしまっていたので、
上巻の半分ほどまでは少しダレたのが、残念でしたが、インパクト強い作品です。
悪人/吉田 修一

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