大学入試は長丁場ですね。

受験生の皆さまが
全力をつくせますよう祈念しています。











気に入った短編が
苦手な方が多そうなので

迷ったけれど

(図書館の返却期限が迫ったので)

書いておきます。






『赤い魚の夫婦』グアダルーペ・ネッテル




出版社のサイトからの書影。作者よりも
帯の星野智幸さんの名前のほうが大きい。


翻訳大賞にノミネートされています。


宇野和美さんの訳は

日本の作品と錯覚するほど

平易で読みやすい文章でした。









作者グアダルーペ・ネッテルさんは

メキシコに生まれ、
フランス、スペイン、アメリカなど
海外生活を経て

現在メキシコシティ在住。


この短編集も
メキシコ、パリ、コペンハーゲンを
舞台にしています。




ですがどの短編も

私室での日常の
なにげない出来事と

心のうつりかわりを
細やかに描いているせいか


名前や地名を和名に変えれば

そのまま隣の一室で
密かに起こった出来事のように
身近に思えました。





闘魚、昆虫、猫、菌、蛇。

人とは異なる理で
生きているものたちの生態と

主人公の心のうごきが
不気味なほどに共鳴して、

読み終わると
人よりも
人がその生態にシンクロした生き物のほうが
よほど天命を悟り
賢いように思えます。






魚を含め、共に暮らす生き物から
人は多くのことを学ぶ。
彼らはわたしたちが直視できない
水面下の感情や行動を映し出す鏡のようだ。



『赤い魚の夫婦』より


5つの短編からなります。

赤い魚の夫婦
ゴミ箱の中の戦争
牝猫
菌類
北京の蛇


「赤い魚の夫婦」は
ワンオペ育児の心理を描いているので、
痛々しい気持ちで
共感しながら読む方が多そうです。
私もその一人。

結末をまとめる最後の一文が響きました。



「牝猫」と「北京の蛇」はさらりと読める作品でした。



「菌類」は慕情と共鳴して、抑えきれず侵食する菌類のとどまらなさがそら恐ろしくありました。

邦画の映像にありそうで、
ビジュアルを想像しながら読むと
さらに不気味な不思議さが増しました。




一番切なく読んだのは、 

生物学者になった私の

11歳の頃の親に捨てられたような心境を
忌み嫌われる昆虫に重ねた


「ゴミ箱の中の戦争」


孤独さも、自由さも
衝撃的な描写でした。
多分一生忘れない。かも。

思わず息子にも薦め、
感想を語り合い
後日サイエンスZEROの関連放送も
家族で観てしまいました。
私以外に概ね好評でした。

 




この子たちは
地球の最初に住みついた生き物なんだ。

そして世界が終わるときまで生き残る。

わたしたちのご先祖さまの記憶だよ。
祖父母であり子孫なんだ。

『ゴミ箱の中の戦争』より



地球で生命が誕生したときから
人間に進化するまでの生命の記憶と

人間が自覚していないけれど
誤魔化しようのない気持ちと

生き物たちの淡々と生々しい生態が

脈々と繋がっている。



誰も代われない孤独を描いているようでいて
その孤独の先に
生命の記憶と繋がることのできる
秘密の鍵を手にしたような

不思議な読後感でした。











澤井昌平さんの表紙絵がとてもいいです。

SNSで過去作品を掲載されています。



いずれも澤井昌平さんのSNSからお借りしました


夜の街のきらめきが幻想的で
すごく面白い。

表紙絵がなければ出会えなかった。
いつか個展に伺いたいです。







ネッテルさんの作品の
こまやかな日常の記述はふと
吉本ばななさんを思い出しました。
読み比べると全然違いました


そしてネッテルさんの作品に描かれた
日常に潜む不穏な気配は

ダリオ・アルジェント監督を敬愛している
吉本ばななさんのことばも。


感受性が敏感な人にとって、
日常生活はホラー映画そのものだ。
だからこそ、
極端に描いてあり結論がある
あの世界に憩えるし、考え方が養える。

『毎日っていいな』より




『ミトンとふびん』吉本ばなな



ばななさんの新刊です。

吉本ばななさんにとって
『デッドエンドの思い出』が一つの到達点だったそうです。

それから20年を経て書かれた本書で
また一つの山を越えられ
「引退しても大丈夫だ」と語られていて、
楽しみに手に取りました。


といっても、
ずいぶん久しぶりです。



金沢、台湾、ヘルシンキ、
ローマ、沖縄、八丈島。

六つの旅先を舞台にした短編集です。



吉本ばななさんの作品は
昔とても身近に読んでいた時期があったので

ぎゅっと濃縮されたモチーフに
親近感をおぼえつつ
新たな気持ちで読みました。




ネッテルさんが
生命の記憶を描いているとしたら



吉本ばななさんは
『ミトンとふびん』で 


生者と死者の世界の境界と
二つの世界の連続性を描いているように思えました。



死者が自分が死んでいることに
気づかないまま読んでいそうな本。


変な感想ですよね。









表紙絵はスウェーデンのEmma Hartmanさんの作品。





 

色のグラデーションが
旅先でみた景色のような
夢の中のような


ずっと眺めているうちに

絵の中に入っていきそうな作品です。




いずれも海外サイトからお借りしました。




書籍を通じて
今まで知ることのなかった
新進気鋭の画家の作品に触れられて
すごく幸せ。










あまりに丸く収めてるから目立たない。

そこにはどこから感じられるのかさえわからない魔法のかかった奇妙な深みがあり、いつかどこかで誰かの心を癒やす。しかし読んだ人は癒やされたことにさえあまり気づかない。

(あとがきより)




どの短編も
ストーリーはわかりやすいのに
感じた気持ちをひとつにまとめられない
とらえどころのない読み心地でした。

夜更けにひっそりと読み直したい一冊です。























皆さまが健やかにお過ごしでありますように。