今週はかなり寒くなるようですね。
皆さまが暖かく過ごされていますように。
昨年読んだ本です。
どちらも
少しずつ読むつもりが
一気読みでした。
今も印象に残っていることを
メモしておきます。
『文学は予言する』
鴻巣友季子
2022年12月刊
文学には、
いま起こることはすでに書かれていた。
文学ははるか以前に「予言」していたのだ。
ディストピア小説だけでなく、
すべての小説は、
すでに起きていながら
多くの人の目に見えていないことを
時空をずらして可視化する装置なのだ。
翻訳家で評論家の鴻巣さんが
この20年、読み、翻訳し、批評してきた本に
共通点がみえてきたそうです。
「ディストピア」
「ウーマンフッド」
「他者」
それがこの三つの主題。
ここから世界文学の今を俯瞰します。
ディストピア三原則
ディストピア文学に描かれる国家、社会には共通した制度、政策があり、鴻巣さんはそれをディストピア三原則と呼ぶ。これが現実社会に起こってきたら警戒したほうがいい。
一、国民の婚姻・生殖・子育てへの介入
二、知と言語(リテラシー)の抑制
三、文化、芸術、学術への介入
ディストピアの章では、
代理出産をテーマにした『侍女の物語』『誓願』をはじめ、小川洋子、カズオイシグロ、桐野夏生らの作品におけるディストピア文学としての側面が紹介されます。
声を聞かれる権利 right to be heard
米国副大統領カマラ・ハリスの勝利演説にあった言葉。女性たちは投票することで声を届けるために戦った。そして彼女の一言までには長い道のりがありました。
ウーマンフッドの章では
鴻巣さんはオデュッセイアの頃から女性たちが声を奪われ、怪物に、男を惑わす悪者にされてきた歴史を紐解きつつ多和田葉子や村田紗耶香など近年の女性作家達の世界的な活躍まで論じます。
親近型読書/リレータブル(relatable)
鴻巣さんはお勧めの外国文学を尋ねられたら
自分からちょっと遠い本を勧めるそうです。
なぜなら、
読書を他者や未知との出会いの場ではなく、自らの知識や体験の追認として行う人が昨今増えているから。結果として、自分から遠く感じるものには関心を持たない。まるで自撮りのような読書だと指摘されます。
最後の他者の章では
翻訳の政治性、世界文学の方向性について
最旬の議論と文学作品が取り上げられ
それらには
自撮り的な共感ではなく、他者への洞察的な理解力が必要だと読者に語りかけます。
似たたことを
カズオイシグロは「縦の旅行」という言葉で言い表しています(ディストピアの章で紹介されています)。
分断が進む世の中で
物語を共有することが
それに抗う力になると信じたいという
カズオ・イシグロのインタビュー記事です。
現在のように分断された世界では
感情を揺さぶろうとする
映画、本、テレビなどのコンテンツが
実際には
私たちを操ろうとしているのか
人間のある側面に関する真実を語っているか
批判的にみることの重要性を語っています。
目には目を、の
抜け出しにくい感情のループに
一つの道を指し示してくれた一冊でした。
夏に書店で手にしたら
厚い表紙と
詩集のような装丁なのに
軽くて、
読む必要がある
大切な本のような気持ちになりました。
『死刑について』
平野啓一郎
2022年6月
法学部で学んだ平野さんが
2019年に弁護士会に向けて
一般市民と専門家の
死刑制度に対する理解の差を
うめるような内容をめざして
語られた講演録です。
薄い本でわかりますく
短時間で読めますが
中身はとても濃いです。
平野さんは20代後半まで
死刑存置派でしたが
海外の動向や日本の法制度、
尋問などでの警察権力行使の不透明さから
現在は死刑廃止派でいます。
現状、日本では
死刑制度が存続しているために、
もしも家族が殺されたら、
犯人に死で贖ってほしいという
感情論が優位にあります。
そのため、
死刑制度の是非について
議論を進めにくいそうです。
冤罪は
いつ自分の身にふりかかるかわからない
という指摘は考えてみればそのとおりで
虚を衝かれたようで怖くなりました。
なぜ人を殺してはいけないのか
という問いにも答えるこの講演録では
適切な資料と例をひきながら
中高生にもわかりやすく
死刑廃止の論拠を
明快に説明されます。
反駁するのが難しく思われるほど
わかりやすく隙がなく思えるので
受け売りの持論にならぬよう
気をつけたい
とも思いますが
行き過ぎたバッシングがある社会に
慣れてほしくないので
適性検査型の試験や
小論文で取り上げてほしいくらい
あるいは
副読本など
若い方たちの手に届いてほしい
一冊と思いました。
今は
死刑について考えることは
他者について考えることでもあるように
思えています。
どちらも
私の身の丈にはずいぶん高い本だけれど
二人の知の巨人が
やさしく道案内をしてくれました。
一人でも歩いていけるよう
折りにふれ読み返したいニ冊です。
冷たさが身にしみます
皆さまが健やかにお過ごしでありますように。





