世の中には偶然と偶然が重なり合い、信じられない出来事が発生する事がある。


今週に入って知人のわんちゃんを1週間だけ預かる事になったベニータとスコット。ミコという名のそのわんちゃんはアメリカ/ルイジアナ州から保護されバンクーバーに里親を捜しに連れてこられたのは、今年の夏の事。子犬の時にひどい虐待に遭い、男性恐怖症。間もなくルイジアナにある動物保護団体によって育てられることになったが、北米では危険犬種であるピットボールが半分はいっているためか、なかなか里親がみつからないまま半年間、一切そとにでることなく小さなケージの中で飼育された。そのため、バンクーバーに到着し、生まれて初めて“走る”という犬にとってごく自然の事を経験することになる。


実はベニータとスコット、里親が見つかるまでフォスターというかたちでボランティアでミコの面倒を数ヶ月間みてきた。生まれて以来全くとして飼い主がいなかった訳だから、自分の名前も認識できない。人とのコミュニケーションの取り方がわからない。しつけというものがまったくできていない。男性以外に怖いものがわからない。他の犬との接し方がわからない。


そんな中、ベニータは忍耐強くミコのしつけならびに世話をした。今でも幼い時の6ヶ月間のケージ暮らしは足跡を残す。ミコの腰の骨は、子犬の頃全くと言って歩く/走るという行動をしていなかったため、とても不自然で、走る事を覚えた今でも、一目瞭然。ましてや、2度目の健康診断で片目が盲目である事が判明。ますます里親が見つけづらい状況になって、スコットの古い友達がミコを引き取りたいと申し出た。そしてミコは3ヶ月前やっと本当の飼い主を見つけた。



夜中の2時。ブラックベリーを枕元において寝る私は、スコットからのメールで目が覚めた。

”ミコが車にひかれたみたいなんだけど、ミコを見つける事ができない。だから明日の朝は迎えに来れない。”

朝起きると、外は氷が張る冷たさ。オフィスに着く頃にベニータから電話。
『本当に何がおこったのかわからない。夕べ友達とのディナーから夜中に帰って来てみると、裏庭にいたはずのミコがいなくなって、いつもしまってるはずのゲートがあいてて。それで夜中に大通りにでてみたら、数人の人が通りにでてて、どうしたの?って聞くと、自動車事故のかなり強い衝撃音が聞こえたから出て来たって。ミコを近所の人と朝方まで探したけど、ミコが見当たらない。本当になってシャノン(ミコの飼い主)にいっていいのかわからない。』
泣きじゃくるベニータ。近所の人の中には、痛みに耐えようとする犬の鳴き声を聞いた人が数人。仕事を早めに終わらせ、ミコ探しを手伝うことを約束した。スコットがオフィスに来たのがお昼過ぎ。昨夜ベニータの留守中、ドゥギー(彼らのわんちゃん)とミコの面倒を見ていたスコットは、30分だけトイレのため2匹をゲートを確認せぬまま広い裏庭にだし、ベニータが帰宅してからミコをいない事に気づいた。ほとんど寝ないまま朝を迎え、近所を1件1件回りながら探し続け、疲れきった様子で仕事に来たスコット。なんとも言えない空気に包まれ、数時間がたったころ、一人のスタッフから電話がはいる。


”ミコらしき犬が今目の前にいる”



そのスタッフはミコを昨日初めてみたばかりでまさかという思いでオフィスから車で15分離れた、吊り橋で有名なエリアの小さなハイキングコースの入り口付近にスコットと二人で向かった。森の中で、標識はなく友達と数匹の犬とウォーキング中だというスタッフとミコであるかどうか電話で確認しながら、探しまわる事、30分。そこにいたのは、まぎれもなくミコだった。

ミコはスコットを見ると一目散にジャンプ。唯一ミコが大好きな男性だ。
同じくなかなかその場所を見つけられないでいたベニータ(別の車)とベニータのお家で再会。よくよく見ると体中に擦り傷。そして出血。やっぱりミコが車にひかれたのは間違いない。ご飯を食べ終わると、ゆっくり眠りについた。

でもなぜミコはベニータのうちから10キロも離れた山の中にむかったんだろう?


ーーー犬は怪我をしたりすると、まず安全な道(茂みの中など)を探すらしい。ミコが事故にあったのは険しく長い坂道の途中。そしてベニータのうちは坂道のてっぺん。自動車に引かれ、パニックったミコがお家に帰るよりもまず坂道をおりようとしたのは犬の本能。それからまっすぐ道なき道を西に1日かけて向かった。

その後ベニータのうちに駆けつけたミコのドッグウォーカー(週に1度、ミコを散歩に連れて行く)コートニーは全ての事情を話すと、驚いた顔で言った。

”あぁあの場所ね、あたしがよくミコを散歩に連れて行くコースの途中なの”

犬の本能はすさまじくすごい。
そして信じられない偶然が重なり、ミコは無事ベニータのうちに戻って来た。

ーミコは事故現場からまっすぐ西に向かった:ちょっと道をずれると、そこには大きな通り+ハイウェイがあった
ーミコの怪我は軽症ですんだ
ーベニータとスコットがあきらめずに探し続け、スタッフの一人一人に事情を話していた
ーミコを森の中で発見したスタッフは、天気がよかったのでたまたまそのコースを選んだ
ーそしてそのスタッフは女友達と歩いていた(もしもそこに男性がいたら、ミコはきっと走って逃げていたにちがいない)

奇跡は起きる。