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再び長い沈黙。
望月さんは、もう一度、大きくため息をついた。
そして、あたしが大好きだった
低い声で、静かに言った。
『やっぱり、由香には幸せになって欲しい。
尾崎ならきっと、おまえのこと、幸せにしてくれるよ。』
それを言い終えた後、望月さんは
電話越しに泣き出した。
男の人が泣くのを知ったのは、
この時が初めてだった。
『由香、ごめんな・・・。
本当にごめん・・・・。
おまえに、辛い思いしかさせられなかった・・・。』
プツリと音が途絶える。
望月さんが、電話を切ってしまったのだと、
認識するまで数秒かかったけれど、
彼の最後の優しさだと分かった。
望月さん・・・。
ごめんなさい・・・。
本当に、本当にごめんなさい。
もう通じていない電話なのに、
耳から離せないまま、謝るあたし。
一番最初に経験した別れは、
悲しいというよりも、ひどく切なかった。
そして、最後まで、望月さんは、
憧れの人のままだった。
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