今日は雨だった。朝からずいぶん寒かった。

 

でも秋の雨は嫌いじゃない。

しみじみとして、切ない空気が好きだ。

 

今日は午後から彼氏と有楽町でランチして、プラプラとお店を見た。

新しい眼鏡を買おうと思って。

 

厳密にいうと、ほしい眼鏡を定めるための下見だ。

実は今朝父に、誕生日プレゼントに新しい眼鏡をねだったばかりだった。

 

お店でいろいろとめがねを眺めながら、

ねだったはいいものの結局選ぶのは自分だし、

いざお店に行っていい年した娘が親に眼鏡を買わせるのもなんだか気が引けるなあ、なんて考えていた。

たぶん自分で買うことになるだろう。

 

一週間ぶりに会えた彼氏と名残惜しみながらお別れし、

夜は父母と三人で地元の駅ビルにあるちょっと良い寿司屋に入った。私の誕生日祝いだ。

 

相変わらず外食に行くと父の態度には冷や冷やさせられた。

そんな中でも母は母で、父の気のとがり具合を全く気にせずにアホ発言を連発するので、

私は終始気を張りながらなんとか一時間弱の食事を終えた。

寿司はうまかったが、こんなに気を張って食べるくらいなら回る寿司でもテイクアウトでもスーパーの寿司でも何でもいい、

なんて親不孝なことを内心思っていた。

 

食後に下の階のカフェでケーキを食べて帰ろうという話になっていたが、

「おなかいっぱいで早く帰りたい」と言い出す母と(こういうところがKYなのだ)

「お願いだからケーキぐらい心安らかに食べさせてくれ」と思っていた私は、半ば強引に父を説得し、ケーキは持ち帰って家で食べることになった。

(父は家でケーキと一緒に飲むドリップコーヒーを用意するのが面倒だったらしく、私がドリップすることを条件に承諾してくれた。コーヒーをドリップする手間なんて、外食時の気疲れに比べたらお安い御用だ。)

 

居間でなんとなくその時やっていたバラエティ番組を見ながら三人でケーキをつつく時間は、穏やか以外の何ものでもなかった。父は何歳になってもハッピーバースデーの歌を歌ってくれるし、何歳になっても歌の中の私の名前は「ちゃん」付けしてくれる。

テレビでは、「行って良かった城下町ベスト20」なる特集がされていて、

「ここには行ったことがあるね」とか「これは城下町じゃないだろう」とかたわいもないコメントをしながら過ごした。

 

キッチンで一人、ドリップしたコーヒーがらを眺めながら、

柄にもなく「これがいわゆる、”小さな幸せ”ってやつか」と思った。

 

この瞬間を忘れたくないと思った。

 

でもきっと忘れてしまうから、こうして記しておくことにする。