■傷痕のメッセージ
■知念実希人(1978- )
■2021年
■医療ミステリー・警察小説
概要
「自分が死んだら、すぐに遺体を解剖して欲しい――」そんな遺言を託して亡くなった父。その胃壁からは、謎の暗号が見つかった。医師である娘の千早は、父が28年前、連続殺人事件の犯人を追うために警察を辞めたことを知り、病理医の友人・紫織と暗号を読み解こうとする。そんな中、時を同じくして28年前の事件と似通った殺人事件が発生。絡み合う謎を2人の女性医師コンビが解き明かす、医療×警察ミステリの新地平!(裏表紙紹介文)

感想
知念実希人氏の2021年の作品です。知念氏の作品は数が多いので、体系立てて計画的に読もうと思っていたのですが、本作は娘の本棚にたまたまあったので拝読してみました。
自らも医師である知念氏らしい「医療ミステリー」ですが、天久鷹夫シリーズのようなユーモア性はなくかなりシリアスな作品です。
元刑事だった父が胃壁に残した暗号を、娘で医師である「千早」と友人医師の「紫織」が解き明かし、その裏に隠された真相に迫る物語です。元刑事である父には、その最期まで隠し続けなければならない切実な苦悩と人生があり、その真相が暗号解読により明らかになっていくヒューマンミステリーです。
また元刑事とその後輩であった現職刑事の奮闘、警察内部で思うように捜査できない葛藤を描いた「警察小説」でもあります。
結末も感動的で見事な作品だと思います。
ちなみに私、テレビドラマ「法医学教室の事件ファイル」を好きでよく見るのですが、本作の基本的な展開は同じですね。
(以下ネタバレあり)
本作のポイントは、元刑事の解剖が病理医によって行われていることにあると思います。
病理医とは、病理解剖・組織診断・細胞診断を通じて、病気の確定診断をしたり、治療に役立つ情報提供をしたりするのが主な役割で、病理医の診断の結果、臨床医の診断の誤りが分かることもあり「医師のための医師」ともいわれているそうです。
「千早」と「紫織」は病理医研修生とその指導医師であり、病理医の視点から事件に取り組んでいることが本作の大きな特徴です。
探偵役である病理医「紫織」の死者と向き合う姿勢が、元刑事であり亡くなった父のメッセージを娘である「千早」に伝えることに繋がります。
家族愛・父子愛を痛感させられる胸に迫る作品となっています。
ただ、そのメッセージを胃壁に残さなければならなかったのか?については、かなり疑問です。信頼できる弁護士に託せばよかったのではないかとは思います。
まあ作者得意の医療ミステリーですから、あまり固いことはいいませんが・・・。
また、妻子を守るために連続殺人犯の逮捕を28年間も見送っていた元刑事というのも、感動的ではありますが如何なものかとも思います。
満足度
73点 ★★★☆
「病理医」を知るよい機会になる作品です。
2025年12月22日 記 074

