3.1. 那珂君休遺跡　

那珂久平遺跡（那珂君休遺跡3次）を見ていきます。当初は那珂久平遺跡として発掘されました。しかし発掘が進むにつれて那珂君休遺跡の1次および2次調査区とつながっていることがわかり、那珂久平遺跡→那珂君休遺跡3次と変更されました。御笠川に最も近い区画です。次図のように弥生後期には、那珂久平の東側には御笠川が入り込んでいました。数m先は御笠川でした。

[那珂久平(君休3次), p51図]

ここでは2つの水田址に着目します。

下層水田址
まず那珂久平遺跡（那珂君休遺跡3次）の下層水田址です。

[那珂久平(君休3次), p50]
“調査当初、下層水田址は弥生時代水田址であると考えられていた。それは、下層水田址から出土した遺物が、すべて弥生時代のものであったことによる。”

ここまでなら、出土遺物より、那珂久平遺跡3次の下層水田址は弥生時代のものと断定される。西暦200年ころである。しかし西側に隣接する那珂君休遺跡1次と2次調査も進められた。上述の那珂久平遺跡の下層水田址が、那珂君休遺跡1次と2次調査のⅤ層水田址と水田区画で連なっていることが確認された。

Ⅴ層水田址
すぐ西隣にある那珂君休遺跡1次と2次調査のⅤ層水田址です。

[那珂久平(君休3次), p50]
“しかし那珂君休遺跡のⅤ層水田址の整理、報告がなされるに及んで、これに従って年代観を改める必要が生じた。那珂君休遺跡では、Ⅴ層水田址の下に4世紀後半と考えられる水利遺構が存在し、それらによりⅤ層水田の時期は5世紀前後と比定された。”

Ⅴ層水田址は、5世紀前後ですから、西暦400年頃です。

連なる下層水田址とⅤ層水田址の時代Gap
はじめは何のことかわからないです。再度整理してみます。まず2つの水田区画は連続しています。そして那珂久平遺跡（那珂君休3次）の下層水田址は西暦200年頃です。しかし西隣に連続する那珂君休遺跡1次と2次のⅤ層水田址は西暦400年頃です。

不可解なことは、連続する2つの水田址の時代に約200年間のギャップがあることです。これは何を意味するのか。次のように考えてみました。

「西暦200年頃に水田址は、弥生時代の遺物を残して放棄された。約200年間、継続的に放棄された。そして西暦400年頃、この水田址は再び水田稲作が再開した。ゆえに連続する同じ層位の水田址に、西暦200年頃と西暦400年頃の遺物が出土する。」

このように考えた場合、なぜ西暦200年頃～西暦400年頃、約200年間も放棄されたのでしょう。御笠川が、200年間大雨洪水で氾濫し続けたのでしょうか。しかし同じ福岡平野で、西に数キロの那珂川沿いの遺跡では、西暦200年頃～西暦400年頃、つまり弥生後期～古墳前期の200年間の遺跡は問題なく継続、というより逆に大繁栄しています。那珂川の方が山懐が深く水量が多いです。集中豪雨時も、より水量が増大します。つまり河川氾濫対策の護岸工事であれば御笠川の方が容易です。

西暦200年頃～西暦400年頃、約200年間の御笠川河畔の水田址の放棄の原因として考えられるのは、住血吸虫汚染です。

弥生中期後葉に現れた住血吸虫に御笠川が激しく汚染された。

住血吸虫への対処方法も分からず、放棄して遠くに避難していたと考えられます。

引用文献
10. [那珂君休2次]
全国遺跡報告総覧, https://sitereports.nabunken.go.jp/ja/17082
福岡市博多区那珂君休遺跡II, 福岡市埋蔵文化財調査報告書第106集, 福市教育委員会, 1984.

11. [那珂久平(君休3次)]
全国遺跡報告総覧, https://sitereports.nabunken.go.jp/ja/17148
福岡市那珂久平遺跡Ⅰ, 福岡市埋蔵文化財調査報告書第163集, 福岡市教育委員会, 1987.

奴國４ 弥生時代の御笠川河畔（11） 那珂久平遺跡

奴國４　弥生時代の御笠川河畔（11）那珂久平遺跡