近未来、ゴミに溢れた横浜ベイブリッジで少年の死体と一本のカセットテープが発見された。いま、再開発計画に予算を落とそうと、会議室に集まる人々の前でそのテープが再生されようとしていた。耳障りな雑音に続いて、犬に似た息遣いと少年の声。会議室で大人たちの空虚な会話が続くなか、テープには彼の凄絶な告白が……。 第4回日本ホラー小説大賞短編賞受賞作。


君は聞いたことがあるか?
ある少年の独白がテープから聞こえてくるだけなんだが、その内容が……凄絶だ。

それは、ゴミ集積所と言える橋下に捨てられた少年の言葉でしかない。
だが、正味1時間と無い短い内容ながら、言葉に喩え難い壮絶な語りが延々と続く。

吐き気を催すような、想像を超えた独白とも言えるだろう。
不快という言葉が的確だろうか。

しかし、彼の行動は本能と言えるのかもしれない。
君は人間が凄まじい環境下に置かれたらどうなると思う?
それでも、人は生に執着し、どんな行動でも取るだろう。
悍ましいと考えても、生きているからこそ、生きようとするんだろう。

その狂気の行為を想像できるだろうか?
現在の平和な日本でも、戦時下には実際に起こっていた現実かもしれないんだ。
何も無い状況では、仕方が無い行為と言えるかもしれないんだ。

私はむしろ、他者により何の前触れも無く突然の悲劇を被ってしまうことの方が不快に思う。
それが残虐な行為であればあるほど、酷く不快に怖ろしく思う。

彼の行動は、何処か人間の根源を見せ付けられているような、そんな気分で陰鬱になった。
そういう類いの、記憶の片隅に残ってしまうような、嫌な恐怖だった。
だが、何故か忘れてはいけないような、そんな恐怖なのかもしれなかった――。


D-ブリッジ・テープ

沙藤 一樹
角川書店 ¥460





「ザッ……ザザッ……」
「おい――なに勝手なことを言ってやがる」
「うるせえよ……はふっ」
「それもこれも、単なる他人事に過ぎない、偽善みたいなもんなんだろ?」
「俺と――を救うことが出来たのかよ?」
「傍観者が何も出来るはずは無いよな……それが現実だ」
「俺は」
「生きている……生きていた……」
「それを……」
「思い知れ」

まだ、テープが残っていたようだ……。
やけに嫌な気分にさせられる。
眼が霞む。風景が歪んで見えるようだ。
景色が赤く濁っている――。


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