【プロローグ】
脳移植。それは、現代の医学において唯一の永遠の命を手にいれる事が出来ると言われている方法。自分の脳を他人の脳と変えることで、別の体で自分として生きていく事が出来る技術である。つまり、今の体がどんな病に冒されたとしても、脳さえ無事であれば、別の体を使って新しい人生を送る事ができるのだ。
とまあ、素晴らしい技術ではあるが、まだまだ未解明の部分も多く、一般的に使う事が出来るレベルには無かった。なので、一般的な常識としてはそのようなものがあるのは知っているくらいのものである。
「私なんて生きてる意味はない・・・・」
宮下 遥(みやした はるか)は高層ビルの屋上から、地上を眺めながらそうつぶやいた。
遥は17歳の現役の高校2年生。茶髪にフルメイクのいまどきの女子高生とは違い、ほとんどメイクもせずに、肩より少し長めの綺麗な黒髪で少々地味ではあるが整った顔立ちの女の子である。
遥の通う高校は、地元でも名門と名高い偏差値がかなり高い私立の高校「K高校」どんなマジックの使ったのかと周りの人達から驚かれるような有名高校に通っている。当然地元でも有名な高校の為に、遥の入学が決まった時は家族をあげてのお祭り騒ぎとなった。遥自身も親の喜ぶ顔を見るのが嬉しかったし、そんなにすごい高校に入学できた自分が誇らしくなっていた。誰もが遥の人生が明るいものとなると信じていた。もちろん遥もそうだった。その高校の実態を知るまでは・・・。
K高校は、小学校から大学までエスカレーター式に進学できる学校で、一度入学すれば、基本的にそのまま大学に進学できるが、あまりにも成績が悪い生徒や素行が良くない生徒は退学などにあい、別の学校に編入をさせられるために、中学や高校、そして大学で若干数ではあるが生徒の募集が行われる。
もちろん偏差値がかなり高い上にエスカレーター式に大学までできる学校であるために、試験の競争率もすさまじく高いものであったが、遥はその高校の超難関な試験に合格し、K高校に入学できる事になった。
しかし、エスカレーター式のシステムのために違う問題が水面下では起こっていた。エスカレーター式のシステムの為に、遥が高校に入学した時にはすでに小学校、中学校でグループが出来ており、そこにいきなり飛び込む生徒はどうしても、かっこうのいじめの対象となってしまう。
さらに、そのいじめも、クラス全体で手を結んでやるような、陰湿なものだからなおさらたちが悪い。先生に見つからないように、そして証拠が残らないようにしつつ、なおかつ相手の精神をぼろぼろにしていくようなものばかりであった。
いや仮に先生にばれたとしてもクラス全体でかばいあうので、先生も深くは追求ができないという事を生徒自身も知っているのであろうから、いじめは容赦なく、そして、日常的に行われていた。
遥も当然高校入学組みなので、格好にいじめの対象となっていた。それでも始めの頃は必死にいじめようとしてくるクラスメイトと戦いを試みてはいたたが、所詮は多勢に無勢。いつの間にか反抗する事さえもなく、いじめに耐えるだけの高校生活となっていた。
大喜びで入学したK高校であったが、そのような現状を目の当たりにし、遥は高校を辞めてしまいたい気持ちがだんだんと大きくなっていった。
しかし、この高校に入学した時の親の喜びを思い出すと「辞めたい」だなんて口が裂けても言う事ができなった。
親の期待とクラスメイトから受ける陰湿ないじめの間に挟まれた遥はとうとう自殺を考え、この日を迎える事になった。
「もう、全てを終わらせたい」ビルの柵の外から下を眺めながら、遥は涙が止まらなくなった。どうしてこんな事になったんだろうか、私にはやりたい事もあったし、大きくは無いがそれなりに将来の夢もあった。
だけど、今は生きている事がただつらい。これから生きていく事に希望を持つ事がどうしても持てなかった・・。
10階建てのビルから見る風景は綺麗でもあり、足元にそびえる景色は今から自分が飛び降りる気持ちもあって、恐怖が遥を襲う。そんな綺麗で怖い景色を眺め、すくむ足をこらえながら、一言だけ遥は自分に言い放った。
「大丈夫。これで全てが終わる。怖いのは今だけ」
大きく息を吸い込み遥はそのままビルから飛び降りた。
そして、長い闇が遥を包み込み辺りは真っ暗になっていく・・・。