古田紹欽先生と初めてお会いしたのは今から35年程も前でしょうか。
京都で開催された、ある学会での事です。
京都南禅寺門前にゆどうふ「順正」という料亭があります。
創業者の上田湛庵さんと2人でその学会に行きました。上田さんは古くから古田先生とは面識があり、親しくされていました。
上田さんは、今日は古田さんと「ビールを飲もう」と学会の発表よりも、そちらを楽しみにされていたようです。
私を古田先生に簡単に紹介いただき、
私が「ちょつと聞きたい発表がありますが」
古田先生「じゃ一緒に行きましょう」と三人でその会場に。
私の知人の先生の発表が終わると「ふるたしょうきんと言います。ただ今の発表は何が言いたかったのです。全く学問になっていない、テレビに出たことや、雑誌に掲載された事が自慢したかったのですか?」
さらに古田先生「肩書きが泣きますよ、まったく残念だ」とまで。
横に座った私は、発表された先生と多少の面識があったもので「どうしよう」と
オロオロとするばかり。
会場はシーンと静まりかえり、司会者もどう処理すべきか困惑。
沈黙の中、あっという間に質問時間が経過。
古田先生も非常にご立腹のまま、私の知人の取りなしで「まあ暑いからビールでも」と会場をあとに、車で上田さんの「野仏庵」に。
車中で古田先生は「学問は命懸け、売名やお金儲けでしちゃいけない
、特に看板や肩書きを背負うなら、あのようなつまらない発表はそれを作って来られた先人に申し訳がない」
私に「どう思う」との質問。
私「その通りです」とオロオロ。
そうこうするうちに、一乗寺の「野仏庵」に到着。
上田さん「今日はビールを美味しくとグラスを先日買って置いたんですよ」
2週間ほど前に上田さんのお供で、高島屋さんに行き注文したグラスが届いているとのこと。。お手伝いされる方が持って来られました。
私はあのグラスは今日のためだったのかと、上田さんの気配りに感心。
古田先生「上田さんこれはバカラですね」
上田さん「まあまあ一杯」
黒ビールとビールを半々に。上田さん「此が美味しいよ」と。
今ではハーフ&ハーフとのビールの飲み方も一般的ですが、私はバカラもハーフ&ハーフも初体験、まして学問の厳しい遣り取りののあと緊張のためか、そのときの味はあまり覚えていません。 続く