― 名前のない感覚に、名前がついた夜 ―
自閉症スペクトラムの長男の育児は、
目に見えないことだらけでした。
正解はなく、説明できないことばかり。
だから不思議と、出会う人たちも
スピリチュアルに長けた人が多かった。
自然界の話。
人間の本質の話。
答えのない会話。
ガチガチに植え付けられた
「常識」を一つずつ外しながら、
楽しく育児をして、楽しく夫婦生活を営んで、
とにかく前向きに。
——毎日を
ポジティブに生きようとしていました。
(この頃の私は、
まだ気づいていません。
“ポジティブだけ”の思考が、
どれほど恐ろしく現実逃避だったのかを)
⸻
彼に出会って、お世話になって、
1年半ほど経った頃。テレビで、
地上波初放送の
『君の名は』が流れました。
正直、映画館に行く余裕なんて
当時の私にはありませんでした。
世間がどれだけ騒いでいようと、
興味もなかった。
でも、アニメは好きだったし、
その日はたまたま——
元夫が飲み会で不在。
子どもたちを寝かしつけ、
久しぶりに
一人で、静かな時間ができた夜でした。
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何の情報もないまま、
『君の名は』を観ました。
気づいたら、私は画面に
どっぷり浸かっていました。
泣いて、泣いて、
泣き続けた。
理由は分からない。
ただ、
胸の奥を直接、揺さぶられているような感覚。
見終わったあとも、
『スパークル』の曲が
頭の中で鳴り続けていました。
⸻
次の日。
スピリチュアル仲間の
ママ友に、その話をしました。
すると彼女は、
何でもないことのように言いました。
「ツインレイの話だよね」
——え?私の頭の中は、
「???」でした。
ツイン……レイ?
⸻
それが、
私が初めて
“ツインレイ”という言葉を知った瞬間でした。
そこから、
ネットで調べ始めました。
意味も、
概念も、
体験談も。
でもこの時点では、
まだ——
彼のことを
ツインレイだとは
認識していません。
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私は彼を、
とても信じていました。
尊敬していて、
人として好きでした。
でも、
恋愛対象として
見たことは一度もなかった。
過去の恋愛で一度も興味を抱いたことのない、
かなり年上の男性。
外見重視のわたしにはもはや恋愛対象外の男性。
それに何より、
元夫から脅されていた私は、
そんなことを
考える余地すらなかった。
だから、
“ツインレイ”という言葉は、
どこか
自分とは無関係の世界の話
だと思っていました。
この時は、まだ。
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でも今なら、
分かります。
なぜ、
あの頃。
老若男女が、
何度も何度も
映画館に足を運んだのか。
あの映画は——
思い出す物語だった。
忘れていた何かを、
胸の奥で
思い出させる物語だった。
そしてその夜、
私はまだ気づかないまま——
もう戻れない場所へ、
一歩足を踏み入れていたのです。