Remember, remember, the5th of November…

V for Vendetta
『Vフォー・ヴェンデッタ』(2005年/アメリカ・イギリス・ドイツ製作)
監督 ジェームズ・マクティーグ
脚本 ウォシャウスキー姉妹
主演 ナタリー・ポートマン、ヒューゴ・ウィーヴィング

リクエスト頂きました!

この作品大好きで、映画館でもDVDでももう10回近く観ているのですが、
民主主義が話題になっている今だからこそ、すごく貴重な映画です。
どうやら最近の国際情勢を見て、思い出して観返してる方、多いみたいです。

主人公(ナタリー・ポートマン)はイヴィーという20代の女性

超超スーパー美しい彼女が、デートの準備をしている、よくあるシーンから始まります。
舞台はロンドン。ここまでは普通。

時代は恐らく今よりも未来。
実は第三次世界大戦が終結し、アメリカは内戦状態になり「“元”アメリカ合衆国」に、イギリスが「偉大なイギリス」の称号を取り戻し猛威を振るっている時代。

首相のアダム・サトラー(ジョン・ハート)が独裁者となり全体国家を樹立。街には秘密警察官が溢れ、人々の日常が監視され、マイノリティーが迫害され、言論の自由が弾圧された“偉大な国”。
サトラーの名前からも分かるように、このグレートブリテンはナチス党が率いたドイツ、そしてサトラーはヒトラーがモデルになっています。

テロへの恐怖心から、頼れる権力者として、形式上民主主義によって選出されたサトラー。

そんな時代に現れたひとりのテロリスト、V(ヒューゴ・ウィーヴィング)。

イヴィーは、暴行しようとして来た秘密警察への抵抗により、逮捕されそうになった所にたまたま通りかかったこのVという謎の仮面の男に救われます。

そしてたまたまVの裁判所爆破テロに目撃者として巻き込まれていく…そんな始まりです。

このお話、色々な事実が複雑に絡み合っている事、また私自身たくさん考えた事があるので丁寧にレビューします。※若干ネタバレします。

【イヴィーとV】
この2人、偶然出会っていますが、実は出会うべくして出会ったふたり。
イヴィーが幼い頃、化学兵器のテロ事件により弟を亡くしました。
それがきっかけで両親は政府に疑問を抱くようになり、社会活動家に。
謀反を働く人、その危険性がある人は逮捕され投獄されていた弾圧の時代。
彼女の両親も逮捕され、殺されていました。
その後少年院を経て、今はその過去を隠しながら国営テレビ局事務員として働いています。

そしてV。彼は収容所に入れられ人体実験を施されていた過去を持っています。
国家を揺るがす現体制の最悪の、とある陰謀を知っている唯一の生存者だったのです。
ガイフォークスのマスクをつけ、復讐心(ヴェンデッタ)を燃やしている男。
陰謀に携わった人々を次々に暗殺します。
あと何故だかわからないけれど、すごいシェイクスピアオタクです。(笑)
最初から最後まで仮面を被っている彼ですが、『オペラ座の怪人 』のファントムとはまた違ったキャラで(そうは言っても似てますが笑)、魅力的だしぐいぐい惹かれてしまいます。

テロリストとして追われているイヴィーとVは、奇妙な同棲を通して、惹かれていきお互いを必要とする存在になっていきます。
この愛、なんだかすごく複雑でピュアに見えて歪んでいたりして人間味溢れています。必見!

【The 5th November】
Vは政府の陰謀を暴くべく、
国営放送を占拠して国民に疑問を投げかけ、今こそ立ち上がるべき時だと訴えます。
恐れず自分の胸に手を当てて心の声に従って欲しい。
共感できる者は、来年の11月5日に、国会議事堂の前で会おう。
大丈夫自分が爆発させるからと。

さてこの11月5日ですが、イギリスでは重要な日にち。
17世紀初頭、ひとりの男によって国会議事堂の爆破テロ未遂が起こった日。
彼の名前はガイ・フォークス(実際には首謀者は別にいた様ですが)。

この事件以来、毎年11月5日はイギリス国中で、花火を打ち上げるお祭りになっています。

マザーグースの詩に登場したり、
ハリーポッターにも出てくるし(確か、賢者の石の冒頭)、世界的にも有名になっています。
ガイ・フォークスについて Wikipedia

Vはガイ・フォークスを権力に対抗した国民の象徴として、フォークスが成し遂げられなかった国会議事堂爆破テロを成功させることを目標にさだめ、計画立てています。

Vが被るガイ・フォークスのマスクは、フォークスの顔がこんな顔だったらしいのですが、
この映画が公開されてから、名前を明かさずに一人の人間として権力に対抗する象徴のマスクになっています。
中でも有名なのは国際ハッカー集団アノニマス。
映画製作時には誰も予想していなかったであろう影響力です。

【Vは皆である】
同性愛者のため迫害される男性、女性。
コーランを保有していた為、射殺されてしまう人。
外国人だから、移民だから収容所に連行される人。女性だから襲われる…。
マイノリティーが迫害されるシーン、安全が脅かされるシーンがたくさん出てきます。
誰もが疑問を抱いていても、メディアの情報を信じて、
やはり自分の身の安全が第一で、よく分からないけれどなんか強そうな国のリーダーがいて…。
民主主義とは何なのか。
恐ろしい歴史を繰り返さないために、
過去を学んで、情報を疑って、現実を見る目を養って、自ら何かを発していかなければならない。
と本当に考えさせられる映画です。

人は死んでも理念は遺る。
理念を愛する事はできない。
だけど私はVを愛した。
というイヴィーの冒頭セリフ

あとは、Vは私の父であり、あなたであり、私自身であり、私達みんなである。
というイヴィーの最後のセリフ

暴力は暴力しか生まないという言葉があるように、正直なところVのやり方が100%正しいとは思えないのですが、
何が正しくて何が間違っているのか常に考えて、恐れずに立ち向かって行く勇気を無くしてはいけないと思いました。

【出演者】
主演のナタリー・ポートマンですが、この作品への出演が決まったとき、髪を剃るシーンがあると聞いても、絶対に演じたいと言ったそう。

本人の本物の髪の毛を、もちろんワンテイクでバリカンで剃り落とすシーン。
これぞ女優魂。
そして、どんどん恐怖心から解放されて、理念を持って生きる人に変わっていく演技は見物です。
なぜアワードにノミネートすらされなかったのか、個人的には謎で仕方ありません…。

そしてサトラー役のジョン・ハート。
先日、膵臓癌のため亡くなりました。ご冥福をお祈りします。
『エレファント・マン』主演や、『ミッドナイト・エクスプレス』助演で多くのアワードにノミネートされ、ゴールデングローブ賞も受賞した名優です。
『ハリーポッター』のオリバンダー役でも有名。
彼の演じるサトラー。

安定感しかないのですが、
人々を扇動するスピーチや、表情。
そして部下や国民によるクーデターを恐れながらも、最後まで強い独裁者であり続ける演技は圧巻。
悪役ではありますが、この人無しではこの映画は有り得ないと思ってしまう、the独裁者。
本当に素晴らしいんです。

【チャイコフスキー 『1812年』そしてビックベン】
スルーしてもいい要素なのですが、これについては個人的にマストで書かなくてはいけないので、失礼します。(笑)
まずはVのテロには欠かせない音楽。
裁判所爆破時も、クライマックスの爆破時も、BGMはチャイコフスキーの『1812年』。
「君、音楽は好きかね」とか言って、流すこの曲。大好き!!
ナポレオンのロシア遠征の際、とても勝てないと言われていたにも関わらず、ロシアの極寒と知恵を絞った焦土作戦によって奇跡的に勝利した瞬間を描いた曲です。
誰もが恐れる強い権力に立ち向かう勝利の曲だから選んだはず。
個人的には選曲理由の説明が欲しいなと思います(笑)

あとは、最終的に爆破されてしまうビックベン…
歴史ある素晴らしい建物…
うーん。
映画だし、派手に復讐したかったわけだし、ガイ・フォークスの象徴だし、仕方ないんだけど、うーん。。悲しいです。(笑)


長くなりましたが、色々考えさせてくれる『V・フォーヴェンデッタ』。ラブストーリー、サスペンス、アクション、歴史映画全てが含まれるこの作品、本当にオススメです!