さて、今回は「もめる遺言、もめない遺言」のお話です。
せっかく書いた遺言で、傷つく家族がいたら
悲しいですよね


さあ、どんなドラマが待っているのか、
じっくりお読み下さい




由美  亜紀、香織の話聞いた?
          電話でいきなり泣き出すんだもの、びっくりしちゃった

亜紀  聞いたわよ。誰か弁護士に知り合いはいないかって言うから、
          同級生の山本くんのところ、一緒に連れて行ったの。
          泣きじゃくっちゃって、一人ではきちんと話ができそうに
          ないんだもの。

由美  なんでも、お父さんが亡くなって、その遺言書のことで
          泣いていたのよね。
          私は悔しくて仕方がないとか、子どもは平等じゃないの・・・とか、
          確か言ってたような・・・。

亜紀  そうなの、その遺言書が問題なの
          香織が言うにはね。四十九日の夜に、親戚のおじさんや
          おばさんがみんな帰った後で、遺言書を見せられたんですって。
 
由美  香織のお父様って、1年ぐらい入退院を繰り返したって
          聞いてたから、その間にご準備なさっていたのね。

亜紀  香織もね、家族がもめないように、お父さんがちゃんと
          準備してくれてたんだと思って、嬉しかったらしいの
          中身を読むまでは・・・。

由美  じゃあ、なに、香織がもらえる財産が少なくって、
          ショックを受けたってこと

亜紀  少ないも何も、香織のこと、一言も触れてなかったんですって。

由美  ええっ、じゃあ、香織は遺産を全くもらえないってことなの

亜紀  実家の土地建物は、お兄さんとお母さんが2分の1ずつ相続して、
          貯金などのその他の財産は、全てお兄さんに相続させるって、
          書いてあったんですって。
     
由美  そうか、それで香織が泣いていたのね。
          でも、遺言に書いてあったら、その通りに相続するしかないんでしょう

亜紀  それで、弁護士の山本君とこに行ったのよ。
          香織のお父さんが残した遺言書は、公証役場で作った 公正証書遺言
          だから、そのまま相続手続きに入れるものなんですって。
          ただ、香織は子どもだから、遺留分って言って、
          遺言にどんなことが書いてあっても、請求できる権利が
          8分の1あるんですって
          だから、お兄さんに対して「遺留分減殺請求」って言うのをするようにって、
          山本くんが勧めたの。

由美  それで、香織はその遺留分を請求することにしたの?

亜紀  ええ、でも、山本くんと私と香織と、三人で色々話し合っているとね、
          どうも香織の本音は、財産のことじゃあないみたいなの。

由美  それって、どういうこと

亜紀  香織が言うにはね。結婚する時も、家を建てる時も、
          随分援助してもらったんですって。
          だから、たくさん遺産を欲しいと思っていたわけじゃないって。
          ただ、遺言書に香織の名前がどこにも書いてなかったのを見て、
          なんだか自分は家族じゃないんだ・・・て。
          お父さんにとって自分はどうでもいい存在なんだあって、
          感じちゃったらしいの

由美  そうか・・・香織はお父様から無視されたって感じちゃったのね。
          愛されてないんだって・・・。
          でも、お父様はそんなつもりで書いたわけじゃないでしょうに。

亜紀  山本くんもそう言ってた。
          きっとお父さんは、長男にお母さんのことを頼むっていう気持ちで
          この遺言書を書いたんだろうって。
          香織のことは無視したわけじゃなくて、香織は大丈夫だと
          安心していたから、書かなかったんだろうって。

由美  でも、お父様が亡くなってしまった今、本当のところは
          聞くことが出来ないものね。
          香織、そんな気持ち、ずっと引きづらなきゃ良いけど・・・。

亜紀  山本くんも言ってたわ。
          遺言書って、書き方によっては、残された家族の心を、
          温かくすることも冷たくすることもできるって。
          だから、家族一人ひとりへの最後のラブレターだと思って、
          心を込めて書いて欲しいって。

由美  そうよね。どこかに一言、香織のことは安心しているからな、って
          書いてあれば、香織はこんなに傷つかずに済んだんですものね。

亜紀  遺言書には、付言事項ってところに、財産分けのこと以外に、
          家族への思いを色々書けるんですって
          特に遺言で不利になる人には、言葉を尽くして気持ちを
          書いてあげないと、せっかく書いた遺言が、かえって
          もめる原因になることもあるからって、山本くんが言ってたわ。

由美  遺言って、なんでも書けば良いってものじゃないのね。
          相続ってつくづく大変ね。



病床で一生懸命書いたはずの遺言が、かえって
香織さんを傷つける事になったとは・・・。

天国のお父さんも、まさかこんな事になるとは
思っていなかったでしょうね。

それでは、どうすれば良かったのか。
詳しいことは次回にじっくりお話しましょう