今まで、様々な家族の相続や遺言のお話を
してきましたね

さて、今回は事業を経営している方の場合を
考えてみましょう。

普通の家族と違って、事業やお商売をしている
家族には、特に気をつけてもらいたい事情が
あります

まずはどんなドラマが待っているのか、
読んでみて下さいね。



由美  ちょっと、亜紀、浩くんとこのクリーニング屋さん、
     お店閉めるって聞いたけど、本当なの

亜紀  本当ですって。私も聞いてびっくりしちゃった。

由美  だって、あのクリーニング屋さん、浩くんの
     おじいちゃんの代からずっとやってて、
     この辺りでは評判の老舗でしょう?

亜紀  そうなのよ。近所のおばさんたちも、
     良い物だけは浩くんとこ出していたから、
     困っちゃうって言ってたわ。
 
由美  でも、どうして急に店終いなんて事になったの?
     いくらお父さんが亡くなったって言っても、
     浩くんがお店を継いでもう、かれこれ10年以上でしょう。
     仕事が出来ない訳じゃないだろうし・・・。

亜紀  それが、相続でもめて、土地を売らないといけなくなって、
     工場を手放すかららしいわよ。

由美  ええっ、それ本当なの
     でも、相続でもめるって言っても、浩くんの兄弟って、
     確か東京で就職した弟さんがいるだけでしょう。
     お母さんも3年前に亡くなっているし。

亜紀  その弟が問題なのよ。
     なんでもね、一流企業に就職して、お給料も良かったから、
     都心の高級なマンションを買って、結構贅沢に
     暮らしていたらしいの。
     そうしたら、会社が業績悪化でリストラされちゃってんですって

由美  最近よく聞くわよね。
     世界的に有名なブランド企業でも、
     いつリストラにあうかわからないものね。

亜紀  それでね。マンションのローンは残ってるわ、
     子どもは私立の大学生だわで、
     すぐに現金が必要だって言い出してね。
     遺産の2分の1は自分に権利があるんだから、
     それに見合う現金を欲しいって。
     
由美  そんな事、急に言われたって、浩くんだって困るでしょう。
     確かにクリーニングの工場やお店や自宅があるって
     言っても、現金はそんなに無いでしょう?

亜紀  そうなのよ。それで、浩くんも困って、
     弁護士の山本くんに相談に行ったんですって。
     そうしたら、なんでお父さんに遺言書いておいて
     もらわなかったんだって、逆にしかられちゃったらしいわ

由美  でも、いくら遺言書いてあっても、相続人は浩くんと
     弟さんの二人でしょう。
     確か遺留分とか言って、結局は弟さんにお金を
     払わなきゃいけないわけでしょう。

亜紀  それがね。山本くんが言うには「遺産分割の禁止」っていうのを、
     遺言に書けるんですって
     最高5年までは、遺産分割しないようにって。
     自営業の人や中小企業の社長さんなんかは、
     自分の相続で事業が続けられなくなると困るから、
     結構そういう遺言書を書くんですって。

由美  でも、5年経ったら遺産分割はしなきゃいけないんでしょう。

亜紀  そうだけど、5年あれば、浩くんだって色々な準備が
     できるじゃないの。
     それに、5年経てば浩くんの子どもも、弟の子どもも
     大学を卒業して、お金もかからなくなるから、
     経済的な余裕もできるし、何よりも時間に余裕があれば、
     心にも余裕が生まれて、お互いに冷静に話し合いができるでしょう。

由美  それは言えるわね。相続って、いつ起こるかわからないものね。
     ちょうど、弟さんはリストラにあったばかりで、
     相当焦っていたってことね。

亜紀  山本くんも随分ねばって、せめて1年待ってくれないかって
     交渉したんですって。
     でも、弟がすごく強硬で、1日でも早く現金が欲しいの
     一点張りで、話し合いがつかなくて、最後はもう、
     工場の土地を売るしかなくなったって・・・

由美  そうか、工場の土地って、駅の近くにあって随分広いものね。
     でも、浩くんはこれからどうするの?

亜紀  今までは、三代続いたクリーニング屋を、守ることしか
     考えていなかったけど、息子の将来もあるから、
     ゆっくり考えるって言ってたわ。
     でも、弟の顔は二度と見たくないって、
     お父さんやお母さんの法事にも顔を出すなって宣言したそうよ

由美  なんだかつらいわね。
     たった二人の兄弟なのに、縁切りだなんて。

亜紀  兄弟だからこそ、今まで両親の面倒を見ながら、
     家業を必死で守ってきた自分の事を、どうして、
     もう少しわかってくれないんだって気持ちが強かったみたい。
     浩くん、山本くんの前で男泣きしたって・・・。

由美  今度、みんなで浩くんを励まそうね
     それにしても、相続ってつくづく大変ね。


さて、いかがでしたか。

中小企業や個人商店では、事業で使用している土地や建物
が、社長や店長の個人名義になっていることが多いですね。

浩くんのお父さんも、まさかこんなことになるとは、
思っても見なかったことでしょう。

それでは、どうすれば良かったのかというお話は、
また次回にゆっくりお話しましょう。