「さて、行くかな」
必要な書類をガッサリと詰め込んで
薫は、タクシーに飛び乗る
今、住んでいるマンションから
お台場の実家までは
タクシーで、1600円くらい
薫は、たいてい土曜日に
実家に帰ることにしている
週に1回は実家に帰ること
それは、社会人になって、兄・涼と交わした約束
「親に恩返しができるなんて、
もっと、ずっと先のことになるだろうけど。
少なくとも、元気で成長する姿だけは
みせていこう」
涼との約束だから、という理由でもあるけれど
薫は、この習慣を実家をでてから
ずっと守っている。
そして、親孝行というよりもむしろ
自分の安定のために
必要だ、とも感じている
もしかしたら、涼は
そんなことも見越していたのではないか
とさえ思う
仕事を始めて、徐々に身につけた
しなやかな鎧
それは、毎日の自分を守り
前へ前へと進む助けとなる
それでも
その鎧を時々は脱ぎ捨て
素の自分
を見つめたい。
それほど単純には生きれないオトナ
に、自分もなってしまった
時々、そう感じるから
なおさら、自分と向き合うことは
今の薫には、大切に思えてならない。