これは潤智妄想物語です。腐要素有。潤智好き、大ちゃん右なら大丈夫な雑食の方向き。勿論、完全なフィクションですので、登場人物、団体等、実在する人物とは無関係である事をご了承下さい。尚、妄想ですので苦情は受け付けません。以上を踏まえてからどうぞ下差し


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拾参之巻

 

【南山有。此レ人界ニ通ズ霊山也。此之山ニテ解クベキ三ツ之謎 , 見事打破スレバ進ム道標有レバ , 突破無クバ帰ヘル事叶ハヌ也。壱ハ兕 , 登山口ヘト向カワバ此レヨリ品物ヲ受ケ先ニ進ムガ違エバ終ワル】


尸解仙人と白澤に見送られ、五人の妖術師達が南方に向かい出立したのは暫し仮眠を取った後の事である。


朱雀之守翔は右手首に白澤から貰った時読(ときよ)みの珠で作った桜色の腕飾りを巻いており、助けを求めて来た門番が姫の打ち掛けに託した約束の時間の巳の刻までに間に合う様、時折時間を確認していた。


「翔さんのそれ、綺麗ですけど、どうやって時を読むんです?」麒麟之守和也が尋ねると、翔は右手首を和也に見えるよう示し、「これは十二の珠で作られているのだ。例えば子の刻なら一つ、丑の刻なら二つと言うように珠が赤くなる仕組みになっていて、赤く変化した珠の数で時が分かる様になっている。詰まり現在の時は丁度未(ひつじ)の刻と言う事になるな」と、空を見上げる。


「魔道の空は常にあんな色合いで、朝も夜も無いから時が分かり難いであろう?だから白澤大師がこれを身に付ける様にと私に下さったのだ。恐らく門番の土黄狐殿が金妖帝飛に見つからぬ様、地下牢の門を開け放つ時間が巳の刻しか無いからだろうとな。


この時を逃してしまったら次の巳の刻まで待たなくてはならない。それでは嘉子姫が鬼と化してしまう。姫が鬼と化す前に救い出すには今日の巳の刻しかないのだ」


「間に合いますかね~?♭何だか険しい山が前方に聳えていますけど♭♭」そう不安がる和也だったが、徒歩で歩むのと違い、此度の旅路はかなりの速度で山道を進んでいる。全員馬上に居るからだ。騎乗しているのは獅子馬だった。


実は緑龍之守雅紀が尸解道院寺に居る間、度々獅子馬が放牧された牧場に訪れては干し草を与え、獅子馬達を手懐けていたのである。身体の大きい獅子馬だが、そんな巨大な馬体などものともせず、雅紀は緑の馬具を装着した獅子馬を一人で乗りこなし、楽しげに最前列を闊歩していた。


赤い馬具を装着した獅子馬は乗馬に長けていた翔が手綱を握り、その後ろに和也が乗っかっている。紫の馬具を装着した獅子馬の手綱は白虎之守潤が、その後ろには玄武之守智が潤の背中にぴったりとくっついて乗っかっており、現在三頭の獅子馬で妖狐魔殿への道のりを進んでいるのであった。


時折小さな小鬼の様な魔物が、イタズラをしようと飛び出して来る事もあったが、そんな魔物は獅子馬が全部蹴散らしてしまうので、道行きはだいぶ快適だ。成る程この馬を魔道に訪れた魔道士や仙人達が交通手段として使うのもこれなら納得出来ると言う物である。


獅子馬は力強い足取りで、潤と智が訪れた桃源珠水泉もあっという間にぐんぐんと越え、ひたすら南方へと駆けて行く。山を越え、谷を越え、やがて頂上が霞む程に巨大な山が一同の眼前に聳え立った所まで到達した時、緑色の羽毛と真っ赤な嘴を持つ、鷲程の大きさの鳥が上空を一瞬で飛び去った。


その怪鳥が発する瘴気に獅子馬が嘶(いなな)き、前脚を上げて急停止する。「どうどう、大丈夫大丈夫」最前方の雅紀が獅子馬を落ち着かせ、片手から藤の蔓を放出して花の香を撒き散らした。藤の香りには魔除けの効果があるからだ。他の獅子馬もすぐに落ち着き、他の四人も馬上から振り落とされそうになるのを危うく回避する。


「あれは鴆(ちん)だな♭毒蛇を餌にしているから全身が毒に侵されているのだ♭」翔がそう呟いたと同時に上空からストンと落ちて来たのは、見覚えのある例の巻物だ。


どうやら先程の鴆なる怪鳥が運んで来たらしいそれは、雅紀の放出した藤の蔓に絡め取られて浄化され、そのままスルスルと翔の後ろに居る和也の手に渡された。巻物を開いた和也が中に書かれていた内容を読み上げる。


「え~と、南山(なんざん)有り。これ人界に通ず霊山なり。この山にて解くべき三つの謎 、 見事打破すれば進む道標(みちしろ)あれば、 突破なくば帰る事叶わぬなり。壱は…え?これ何て読むんです?」首を傾げる和也の耳に白澤の声が聞こえた。


〖それは兕(じ)だ。麒麟和也。お前の心眼を通じ、翠眼玉(すいがんぎょく)で交信している。お前達の成長の為にも余り過剰な助太刀はするなと葛葉姑娘(くずはくーにゃん)からはきつく申し付けられているが、それしきの漢字も読めぬ様では先が思いやられるわい〗


「あらま?♭口の減らないお爺さんですねぇ~♭私なんて元々百姓なんですから、これでもだいぶ勉強した方なんですよ?♭で?その “じ” って奴が何かくれるみたいですよ。


続きはこうです。壱は兕(じ)、登山口へと向かわばこれより品物を受け先に進むが、違えば終わる…。何だか分かりませんが品物を間違うと駄目って事でしょうかね?」


どうやら白澤は尸解道院寺にて尸解仙人と待機し、五人が窮した時は翠眼玉を通じてあれこれと手助けしてくれるつもりでいるらしい。これは心強い事であった。手綱を操る翔が「ありがとうございます白澤大師」と、白澤に礼を言う。


「恐らく前方に聳える巨大な山が南山(なんざん)であろう。人界にも通じる霊山だと言う事は、この山には唐の人界と繋がる場所が各所に存在しているに違いない。何せ唐国は広いからな。霊山と呼ばれる山であればさもありなんだ。

 

私が読んだ山海経でもそうだが、唐では魔物も仙人も神獣も、人界で共存している例が多い。国が余りにも広過ぎて未開拓の土地等に人成らぬ物が棲み付きやすい環境があるのだろう。潤殿が修行をされていた天竺も似たような状況なんじゃないか?」


翔の質問を受け、その後方で馬上に揺られる潤が答えた。「そうだな。老師も天竺は広過ぎて誰も知らない不可思議な場所が多いと話しておられた事があった。唐国や天竺に比べると大和はとても小さい国なのだそうだ」


「あの山が南山だとすると、山越えをする間に三つの謎が我らを待っていると読み解けるのぅ~。その壱が兕と言う事じゃ。毒気のある鳥に巻物を届けさせてまで金妖帝飛は我らの力を試す遊びを続けたいらしい。誠に面倒臭い奴だのぅ~」


やれやれと肩を竦める智の前髪は綺麗に結い上がり、潤とお揃いの髪飾りで止められている。初めて潤を訪ねて来た時と比べるとすっかり垢抜け、今では尼僧と見紛うばかりの可憐な色香を纏って何とも愛らしい佇まいだ。


「山越えの挙句に三つの謎解きですか?♭あぁ嫌だ♭こんな忌々しい巻物もう燃やしちゃって下さいよ♭」和也が空に放り投げた巻物を、翔が指先から発した炎で一瞬で焼き尽くす。やがて獅子馬が南山の登山口まで到着し、軽快な蹄の音を響かせながら山道へと分け入った。


すると早速黒い影が五人を待ち受け、どっしりと横たわる姿が伺える。遠目からでも判別出来るそれは、まるで岩ででも出来ているかの如く巨大で頑強な四つ足の怪物であった。馬上から降りた一同はここで一旦獅子馬達を牧場へと帰し、各自身構えながらゆっくりとした歩みでその怪物へと近づいて行く。


〖あれが兕だ。鎧の如く身体と大きな一本角を持つ雄牛の化け物でな。南山口でああして通行人を見張っているのだ。いきなり暴れたりはせぬが、答えを故意に誤らせる様な底意地の悪い質問をして来るから気をつけろ。


上手く答える事が出来たら南山越えはだいぶ楽になるが間違えてしまったらまたふりだしたぞ。すぐに返答せず一旦良く考えてから答える様に心掛けよ。分かったな?〗


五人の耳に白澤からの声が届く。見るからに硬そうな黒い皮膚を持つその化け物は、五人を見下ろすと、のっしり起き上がり、天をも突き刺せる様な長く巨大な一本角を振りかざしつつ、「天国へ行きたいのか?地獄へ行きたいのか?」と、轟く様な猛々しい声音で問い掛けた。


雅紀が負けじと胸を張る。「そんなもん決まっておろうが!て……」言いかけた時白澤の声が〖喝!!〗と止める。すかさず翔が「向かうは妖狐魔殿!金妖帝飛の棲まう地獄の底だ!!」と、食い気味に答えた。


兕はぶるんと首を振り、「ならばこの山道の先にある分かれ道は右へと進み洞窟の中を行け。妖狐魔殿への近道になろう」と、五人に告げる。続けて兕は五人の体が浮き上がる程の地響きを立てて前脚を踏み鳴らすと、地の中から五つの酒盃と五つの鎧を出現させた。


「これは俺の生え変わった角と皮で作った酒盃と鎧だ。酒盃は多くの美酒を集め、鎧はどんな武器も通さぬ程に頑強だ。いずれも旅路の中で1度だけ使用出来る便利な物である。お前達にどちらか片方の餞別をくれてやろう」


今の状況だと武器を通さぬ鎧の方が明らかに便利だと思われる品物である。だが、それこそが引っ掛けなのではないか?悩む一同の頭に白澤の声が響く。

 

〖洞窟には何がある?それをよくよく想像して答えを出すのだ。今私の目に見えているのは広い洞窟と長い暗闇だけだ。だが、その洞窟を無事に抜ける事さえ出来れば一気に南山の中腹にまで進めるぞ〗


暗闇は翔の力で道を照らす事が出来る。洞窟の中を進むのはわけないであろう。とは言え、もし洞窟の中に何か怪しげな魔物が潜んでいるのなら、それらを退治しながら道を行かねばならない。やはり鎧か…。五人の内の四人までがそう思った時、智が前に進み出てすっと酒盃を取り上げた。


「儂はこの酒盃が良い。これを頂こう」「ちょっと智さん♭あなた勝手に…♭」すると鎧は消え、五つの酒盃だけがそこに残る。「好きなだけ良い酒を飲むがいい」そんな捨て台詞と共に兕がグオオオオオオ!!と凄まじい声で吠え、次の瞬間には五人の身体は山道の中にある二つの分かれ道へと飛ばされていた。


「あ~あ♭こんな時に酒盃なんか貰っちゃってどーするんですか?♭巳の刻までに妖狐魔殿まで行かなきゃならないのに、洞窟で酒宴でもするつもりですか?♭♭」手元に残った角(つの)型の酒盃に文句を言う和也に、智は「だからこそ鎧は不要なんじゃ」と、断言する。


「どうしてです?♭」「先程の兕を見たであろう?あれ程巨大な怪物の皮で作った鎧など重くて適わぬわ。湿度が高く、足場の悪い洞窟内で重い鎧など歩むのに邪魔なだけじゃ。だがこの酒盃であればほれ、この様に着物の袂にも入る」和也の疑問に、兕から貰った酒盃を袂に仕舞いながら答える智に全員が「確かに…♭重さには気が回らなかったな♭♭」と漸う納得した。


〖鎧の重さに目をつけたのは中々だったな玄武智。どうやら瞬発的なひらめき力に長けている様だが、その選択が正解かどうかは未だ分からぬぞ〗どうやら白澤にもこの選択が正しいかどうかは決められぬらしい。だが、雅紀を制した時の様な語気の強さは余り感じられなかった。


翔が「智殿のひらめきを信じよう」と、皆を促し、分かれ道の右側へと歩み出す。暫く歩くと兕が告げた通りの広い洞窟が現れ、真っ暗な洞が禍々しく口を開いていた。


掌に炎を灯した翔を中心にして五人が洞窟へと入って行く。凸凹とした内部は確かに足場が悪く、やや歩き難さがあったが、五人が横一列に並んでも未だ余る程の奥行きは、窮屈さがない分、進むのにさほどの苦難は感じられなかった。


「待てみんな。どうやら獣がいるぞ。それも複数だ」雅紀が何処か嬉しそうに一同へと声を掛ける。和也が素早く雅紀の背後に身を隠し、腰の太刀に手を掛けた。「斬魔刀が鳴らん。悪しき魔物ではないと思うが注意しろ」智を背後に庇いつつ、潤が鋭く前方を見据える。


そこにぞろぞろと現れたのは、真っ赤な長い体毛に全身を覆われた猿の群れだ。皆二足歩行で、背丈は五尺三寸(約160センチ)程。人に似た顔つきをしていた。翔の表情が明るくなる。


「…どうやら智殿のひらめきが功を奏したらしいぞ…。あれは猩々(しょうじょう)だ…。よもやこんな所で出会おうとは…」翔の呟きを聞いて、群れの先頭に立つ、猩々と呼ばれた猿らしき物が口を開いた。


「いかにも俺達は猩々だ。見た所唐人では無さそうだが、お前達はここで何をしている?」「えぇっ?♭口利いてますよこの猿♭♭」腰が引けながら怪しむ和也に、別の猩々がやや甲高い声で「猿猿言うな!♭」とツッコミを入れる。


「…私達は大和より参った。この洞窟の先にある妖狐魔殿へと向かう道中だ。猩々殿の住処に勝手に足を踏み入れた事は謝罪するが、どうか通して頂けまいか?」翔が丁寧に説明すると、また別の猩々がキキキと笑った。


「タダで通せとはいささか虫が良すぎるなぁ~」「あらっ?♭図々しいですよ~♭この猿♭♭」雅紀の背後に隠れたままで和也が憎まれ口を利く。先程ツッコミを入れた猩々がまた「猿猿言うな!♭」と怒った。


「和也殿。先程の酒盃を…。智殿の判断は正しかった。猩々は酒好きなのだ」皆に一声掛けた翔が率先して袂から角型の酒盃を取り出し、猩々達に指し示す。先頭の猩々が目を丸くして満面の笑みを浮かべた。


「おおっ!♪これは兕の角で作った酒盃ではないか?!♪これがあればいくらでも美味い酒が飲めるぞ!♪」猩々達が一気に沸き立つ。「何だ、こんなもんで良かったら全部やるぞ!♪ほらみんなも酒盃を出せ!♪俺はこいつらと仲良くしたい!♪」


雅紀が自分の酒盃を袂から出し、和也の袂にも強引に手を入れて酒盃を取り出す。潤と智も自分の酒盃を取り出し、合計五つの酒盃が猩々達の手に渡った。猩々達は大いに喜び、五つの酒盃を掲げながら早速飲めや歌えの大宴会が始まる。


兕の角で作られた酒盃は、唐国語で「チンジェイウォイイエベイチョウ(酒を出してくれ)」と言えば、中に並々と酒が溜まる不思議な酒盃で、猩々達はそれぞれに持ち寄った器の中に兕の酒盃に溜まった酒を移して何杯も飲んでは美味い美味いと陽気に踊り出した。


「何か尸解仙人殿の酒瓢箪を思い出すなぁ~♪これだけの人数が居るから兕の酒盃は五つ位あって丁度いい♪鎧を貰わなくて良かったじゃないか♪」猩々達に混じって宴会に参加しながら雅紀が陽気に笑う。


「こんな呑気にやってていいんですか?雅紀さん♭巳の刻に間に合わなくなっちゃいますよ♭」早く出立しようと雅紀を急かす和也に、始めに声を掛けて来た頭領らしき猩々が言った。


「なぁに、妖狐魔殿に巳の刻なら心配要らん。良い物を貰った礼にこの洞窟を抜ける一番の近道を教えてやろう。俺達しか知らない抜け道がある。そこを通れば時間はだいぶ短縮出来るぞ。


金妖帝飛があんな場所に御殿なんか建てたせいで俺達はこの洞窟に住まなきゃならなくなった。彼奴に迷惑を被っている連中は他にも大勢いるんだ。大和の客人達よ、あんな九尾などと違ってお前達は俺達に親切だった。礼には礼で返したい」


聞けばこの洞窟はかなり複雑な形状になっており、初めて来た者は確実に途中で迷ってしまうらしい。もし五人が猩々達と仲良くならなければこの洞窟の中で行き倒れてしまう可能性だってあったのだ。


もし初めの兕とのやり取りで天国を選んでいれば、恐らく唐の天界に飛ばされ、天帝から咎めを受けていたであろう。もし酒盃ではなく鎧を選んでいれば、もし酒盃を以て猩々達と親しくならなければ、洞窟の中で彷徨い歩き、妖狐魔殿に辿り着けずに嘉子姫を見殺しにしてしまったかも知れない。


恐らく金妖帝飛はこうして二重、三重の罠を仕掛け、わざと五人を遅らせる様に仕向けているに違いない。だが、白澤にも見えなかった猩々達の存在が、引いては五人の道中を手助けする事となったのは良い兆しであった。


暫しの宴会を終え、猩々達から緋色の上質な毛織物と赤い縒り糸付きの釣り針を餞別に貰った五人は、僅か半時の時間でこの広い洞窟を抜け出せたのである。白澤の声が〖運も実力よなぁ~〗と豪快に笑った。

 


猩々の皆さんですニコニコ凶悪なお顔ですが割といい奴らです🦧いつもの様にフリーイラストをパソコンで合成加工し、洞窟の背景を合わせて作りましたウインク一説によると猩々はオランウータンだったんじゃないかと言われておりますよ~😁そう言えば毛並みとか似ているかもですねグッウインク


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いやぁ~タラー苦しみました~ガーン猩々に出会う所までは順調だったんですが、そこから全然進まなくなってしまって💦何度も書き直し、やっと第13話を終えました滝汗


今回は鴆に兕に猩々と、結構沢山の妖怪を登場させてみましたが、余り五人の能力が活かせる謎には出来なかったので(駄目じゃんアセアセ)次回はもっと頑張りたいと思います😅ゞ