これは潤智妄想物語です。腐要素有。潤智好き、大ちゃん右なら大丈夫な雑食の方向き。勿論、完全なフィクションですので、登場人物、団体等、実在する人物とは無関係である事をご了承下さい。尚、妄想ですので苦情は受け付けません。以上を踏まえてからどうぞ下差し


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拾壱之巻

尸解道院寺で腹ごしらえを済ませた五人は嘉子姫奪還に向け、それぞれ三手に分かれて行動を開始した。麒麟之守和也と、緑龍之守雅紀の二人が尸解仙人と共に向かったのは、尸解道院寺から東方に伸びた林道を抜けた先の牧草地帯である。

一面に短い草が生えるその拓けた場所には、特徴的な大岩が中央にデンと聳え、大岩の先端にはこれまた特徴的な大木が一本だけ生えていた。

大木の根は大岩にめり込む様な形で四方に張っており、まるで大岩と一体化している様な様相を呈しているが、現在その大岩の中央には大きな空洞が空き、大木が傾いて今にも倒れそうな危うい状態である。空洞からはかなり密度の濃い瘴気が溢れ出しており、周辺の牧草の殆どが枯れ果てていた。

「やはりのぅ~。金妖帝飛めが大和の魔道と繋げるのならここじゃと思ぅたのじゃ。ここはお主らみたいな他国からの客人や、所用があって仙界から訪問する仙人らがこの魔道を移動する為に乗る獅子馬(ししうま)の繁殖地での。
 
あの大岩と大木はこの場を浄化する為の結界の様な役割を果たしていたんじゃが、如何せん浄化の力が弱い。何故ならここに放牧されている獅子馬と言うのは身体が大きく、瘴気を吐く魔物を蹴り殺してしまう程の優れた駿馬でその辺の雑魚妖怪には近づく事も出来ぬからじゃ。

じゃがそんな獅子馬でも九尾となると流石に恐れを成して逃げてしまうであろう。普段であれば儂が時折ここに来てあの結界の状態を確認しておるのじゃが、あの僵屍共のせいで少しばかり油断してしもうた。

この分じゃ泰山王(たいざんおう)殿から叱責を受けてしまうわい♭泰山王殿はこの魔道を司る大将でのぅ~♭滅茶苦茶厳しいんじゃ♭多分罰則は餓鬼道の掃除じゃろうのぅ~♭あそこは臭くてかなわん♭」

長い眉毛を下げて大きな溜め息を付く尸解仙人に、和也は「あらま、仙人様よりも偉い人がいるんですか?」と、意外そうに言った。「うむ、大和では閻魔王と呼ばれておるじゃろう?泰山王殿も同じなんじゃ。冥府魔道には十人の大王がおってのぅ、閻魔王はその内の1人で大和の魔道を司っておるのじゃよ」

「成る程!朱雀翔殿も言っていたな!大和の魔道と唐の魔道はそれぞれ異なると!国が異なれば魔道の王も異なるのだな!もしかしたら我らが住む神獣界が唐の仙界と似た感じなのかも知れん!」元気に言う雅紀に和也が「雅紀さん。そんな大発見したみたいに言わなくていいですよ」と憎まれ口を利く。

雅紀が口を尖らせて「麒麟和也殿はどうしてそう可愛くないんだ♭」と文句を言い、和也は「その分顔が可愛いんですからいーじゃないですか」などと即答した。尸解仙人がワハハと笑う。

「お主らの会話は愉快じゃのぅ~♪しかしどうじゃね?ご両人。この空洞、見事塞げるかな?」どうやら和也と雅紀を引き連れてこの場に赴いたのは土や岩石を司る和也と、樹木や草を司どる雅紀の能力を見込んでの事らしい。特殊な大岩と大木の結界は特殊な能力を持つ和也と雅紀にしか復旧できないのだ。

和也は「こんなの簡単ですよ。魔道ですから黒水晶辺りを詰め込んどきましょうか?結界力はかなり強いですよ」和也は額の辺りに右手の人差し指と中指を立て、ブツブツと念仏を唱えると、大岩の空洞に向けて気合い一発両手の平を突き出した。

すると砂煙と共にボン!!と言う爆発音が響き、黒いギザギザした形状の黒水晶の原石が大岩の空洞にスッポリと収まったのである。続いて雅紀が念を込めて袖を一振りし、傾いていた大木を真っ直ぐに戻す。たちまち千切れた根が再生して、黒水晶の原石に絡まりしっかりと固定すると、立ち込める瘴気が消滅した。

大岩の周囲で枯れていた牧草が見る見るうちに蘇る。何処からともなく複数の蹄の音が聞こえて来て、あっという間に牧草地は獅子の様なフサフサした金色の長いたてがみを持つ栗毛の大きな馬でいっぱいになった。

「おおっ!見事な馬だなぁ~!♪これは立派な馬体だ!♪」獅子馬なる馬の大きさに怯え、尸解仙人の背後に隠れる和也とは逆に、雅紀は大喜びで駆け出して行く。両方の袖を振って干し草の束をそこかしこに落としては、それを食む獅子馬達の首を撫でてやり、実に楽しそうに見える。

「チェンロンは生き物が好きなんじゃな。獅子馬達があんなに懐いておる。しかし鮮やかな手並みじゃったのぅ~♪お主達のおかげでここの結界は前よりも強固になったわい♪ありがとう♪」

大岩を見上げて満足そうに微笑む尸解仙人に、和也は「美味しいお酒とご馳走を頂きましたからね。ほんのお礼ですよ」と、皮肉屋の彼には珍しく実に素直に答えたのであった。

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一方、尸解道院寺から西方へと伸びた長い坂道をひたすら登って行くのは朱雀之守翔である。山羊の姿をした三つ目の瑞獣でありながら、この世にある全ての理を知ると言う白澤なる賢者に謁見する為だ。

翔が読んだ『山海経』には白澤についてのそんな説明が成されていたが、尸解仙人によると、今では目が六つになっていると言う。あれから更に年月を経てより多くの事を知る様になり、目が三つから六つになったらしい。

ただその分、より偏屈で頑固になり、滅多な事では知恵を授けてくれないから覚悟するようにとの事であった。

幼き折より朝廷の書院に通い詰め、殆どの書物を読み尽くして、都の誰よりも賢く、桜の君とまであだ名されるようになった櫻井朱雀之守翔ではあるが、さりとてこの世の全ての理を知ると言う白澤にしてみれば翔の蓄えた知識などほんの子供騙しに過ぎないであろう。

そんな自分が果たして白澤との謁見が叶うかどうかは甚だ心もとない翔だったが、この唐の魔道には泰山王が決めた魔道の決まりがあり、それに背く様な傍若無人を働いている金妖帝飛の事であれば、白澤も協力をしてくれるかも知れないと尸解仙人に励まされ、翔はこうして一汗かきつつ坂道を登っているのである。

いかに都育ちの坊ちゃんとは言え、蹴鞠の名手でもある翔は体力にはそれなりに自信があったのだが、一体何処まで坂道を登れば白澤の住まいに到着するのか…♭坂道は未だ果てしなく、翔は途方に暮れる思いであった。「はぁ~♭疲れた♭これは中々に難関だな♭♭」

思わず空を見上げて手の甲で額の汗を拭う翔の目に、くすんだ詫び色の空が見える。魔道なので美しい青空を見る事はかなわないが、まるで夕刻時の様な詫び色の空もそれなりに風情があり、無数の鳥が空を舞う様子も中々に神秘的であった。

すると何処からともなく深みのある低い声が聞こえて来る。〖冉求(ぜんきゅう)曰く。子の道を説(よろこ)ばざるに非(あら)ず。力足らざるなり。〗論語の一文だ。これは弟子の冉求が、師にあたる孔子に対し、先生の仰る事を実践したいのだが、自分が未熟故どうにもならぬと、己の力量不足を嘆く言葉である。

翔はこれに応える孔子の返答に思い至り、ハッとして、急ぎこの一説の続きを空に向かって叫んだ。「〖力の足らざる者は、中道にて廃す。今女(なんじ)は画(かぎ)れり〗ですね?!♭私が未熟でした!♭白澤大師!♭」

これは ~自分の力量など限界まで努力してから初めて分かる。力が無ければ途中で廃れるだけだ。お前は努力もせずに初めから自分の力を見切ってしまっているではないか~ と、弟子を諭した論語の一説だった。

恐らく長い坂道に弱音を吐く翔を見て白澤が投げ掛けた言葉であろう。全てを見通す白澤の六つの目は翔が知恵を授けるに値する人物なのかどうかを測っているに違いない。この論語の一文でそれを見越した翔は、すぐさま白澤のそんな思惑に気づいたのだ。

唐国風の包拳の挨拶で答えを返し、再び坂道を登り始める翔の姿に、再び先程の低い声が〖うむ。“過ちて改むるに憚る事勿れ” であるぞ〗と聞こえて来る。過ちをすぐさま改める事は恥ずかしい事でもなんでもないと論語で翔を励ましているのだ。

このやり取りがすっかり楽しくなった翔はまた天に向かって「はい!白澤大師! “過ちを改めざる。此れを過ちという” ですね?!心がけます!」と、返した。過ちを認めない事こそが過ちだと説いた論語の一説だが、翔がこの言葉を返した瞬間、あれ程長いと思われていた坂道が消え、翔の眼前にこじんまりとした、だが大層瀟洒(しょうしゃ)な屋敷が現れたのである。

「子曰(し、のたまわ)く、学びて時に之(これ)を習ふ。亦(また)説(よろこ)ばしからずや。朋(とも)有り、遠方より来たる、亦(また)楽しからずや」~孔子は言った。物事を学んで後で復習するのは何とも楽しい事である。遠くから友達が自分に会いに来るのは大層嬉しい事である~

こんな論語で翔を迎えたのは尸解仙人とは違い、かなり大柄な老人だった。白い唐服に白い髭、頑固そうな顔つきは尸解仙人の表現した通り、確かに偏屈そうで厳つい雰囲気ではあるが、その双眸の奥には溢れんばかりの知性がはっきりと見て取れる。

翔は「人知らずして慍(うら)みず亦(また)君子ならずや ~他人が自分を分かってくれないからと恨んだりしない。それこそが君子たる者である~」と、続きを返して、包拳で恭しく挨拶をした。

「白澤大師。お初にお目もじ致しまする。某(それがし)は櫻井朱雀之守翔なる若輩者でございますれば、どうぞお見知りおき下さいますよう、お願い申し上げまする」「大和の男でこれほど論語を諳(そら)んじる者は初めてだ。未だ若いがよく学んでおるようだな?」

翔に包拳を返した白澤は目を細めてまじまじと翔を眺め「良い仲間がおる様だの?さすがは葛葉の倅だ。人を見る目がある」と、五人を選出した安倍晴明の事まですっかり分かっている風である。

「遠い所を良う参った。年寄りの詫び住まいだが寛いでくれ。大したもてなしは出来んが美味い酒と肴はあるぞ」どうやら翔はこの頑固老人に気に入られた様だ。

白澤は家中に翔を招き入れつつ、「嘉子姫は妖狐魔殿の地下牢に閉じ込められておる。中々に鼻っ柱の強い小娘だな。牢番の妖狐を向こうに張り、早う帰せと威勢がいいぞ。今の所衰弱しておる様子は無いようだから安心するが良い」と、姫の近況を教えてくれたのだった。

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同じ頃、白虎之守潤と玄武之守智の天門組は、尸解道院寺から南方へ向かう岬の九十九折を、桃源珠水泉(とうげんしゅすいせん)なる場所へと向かっていた。

言葉の響きから推察するに、恐らくは河川か湖のような場所だと思えるが、やけに霧深い道筋で、進めば進む程樹海の奥に迷い込んでしまいそうな、少し怪しげな様相を呈している。だが思いの外周辺の気は清浄で、花の様な甘い香りが漂い、悪しき魔物が潜んでいる様な雰囲気は余り感じられなかった。

相変わらずの健脚振りを発揮して樹海を進む智がふと歩みを止め、傍らの潤に話し掛ける。「潤、微かだが硫黄の匂いがせぬか?滝の音も聞こえるようじゃ」智の声に潤が霧の向こうに鼻先を向け、耳を澄ませてそれを確認した。

「本当だ、霧に混じった花の香りが強くて気付かなかった。確かに硫黄の匂いと水の落ちる様な涼やかな音がする。この近くに湯殿でもあるんじゃないのか?」「魔道に湯殿か?それはまた珍しいのぅ~」

二人が呑気にそんな会話をしながら歩みを進めていると、いつしか鬱蒼とした樹海が開け、虹色の輝きを湛えた豊かな広い水源が姿を見せる。一見湖に見えるその水源には滝が流れ落ち、周囲には芙蓉に似た形の色とりどりの花の木が咲き乱れていた。

まるで紗がかかった様なその水源はつるりとした剥き出しの岩肌の中にあり、それは蛋白石(オパール)の原石で出来ていると思われる。水が虹色に輝いて見えるのはそのせいであろう。この場所の周辺に霧が立ち込めていたのもここが温水の湖だからだ。

「恐らくこの場が尸解仙殿の仰った桃源珠水泉であろう。また見事な程に美しい湯殿だのぅ♪まさに別天地じゃ♪」水際まで降りた智は、片手の先でここの湯をそっとすくい上げ、「ちょうど良い湯加減じゃ♪」と微笑った。智に倣って潤も水際に降り「尸解仙人は俺達にここで湯浴みでもしろって言ってんのか?」と、周囲を見回している。

ここに何があるのかは良く分からない二人だったが、尸解仙人が潤と智にこの場所を推薦したのにはそれなりの理由がある筈だと納得し、二人は着物を脱いで太刀や錫杖と共に木陰に畳み置くと、湯の中に身を浸らせた。

「これは良い湯じゃ♪帰ったら皆にも教えてやろうではないか♪」「疲れがいっぺんに吹っ飛びそうだな♪和也殿あたりが俺達ばっかりずるいと文句を言うんじゃないか?」「確かに言いそうじゃのぅ~♪」

穏やかに笑い合う二人の身に不可思議な変化が起こり始めたのはその時である。「?…智…?♭何だか様子が違ってないか?♭」特にその変化が如実に現れたのは智であった。元より華奢ではあったのだが、今では華奢に磨きがかかり、その身 体つきも優しい丸みを帯びているのだ。

良く日に焼けていた肌も玉の様に白くなり、ふっくらとした頬や小さな唇には薄紅が差して、これで胸に膨らみがあればまるで女人の様相である。「おおっ?!♭これは何たる事じゃ♭儂の身体がおなごの様じゃ!♭♭」

びっくりして立ち上がる智に潤が「立つな智♭目のやり場に困る♭♭」と、顔を伏せた。智のあまりに可憐でたおやかな様子が潤をドギマギさせるからだ。そんな潤の顔つきや身 体つきもより精悍な逞しさを帯びて、何処ぞの武人の如く状態である。

「潤も何やらやけに逞しゅうなった様だのぅ?♭儂が推察するにこの桃源珠水泉は、男はより一層逞しく、儂の様な半妖は妖(あやかし)の部分がより増幅される湯治場であるらしい♭儂の場合は人魚である母の要素がここに浸かる事で増えてしまったのじゃ♭それにほら、先程樹海を歩んで出来た擦り傷がすっかり癒えておる♭」

足を上げて樹海の枝で作った擦り傷が治癒した事を主張する智に潤が慌てて「足を上げるな♭頼むからもっと恥じらってくれ♭♭」と背中を向けた。「何じゃ♭我らは天門の相方同士ではないか♭急につれない事を申すな♭♭」

頬をぷぅと膨らませていじける智が愛らしい。その身 体の柔らかな曲線に纏い付く長い髪は、より明るい茶味を増して、振り向いた潤の 淫 気を盛んに刺激する。「そんな顔をするな智♭俺はもうどうしていいか分からなくなる♭♭」

思わず抱き寄せる潤の背中に、智の細い両腕がそっと回された。「潤…。何やら妙な感じじゃ…。ここに居ると儂の気持ちも昂って来る…。都じゃとこんな時は歌をやり取りするのかのぅ…」「俺は山賊の息子だからな。そんな回りくどい事はしないさ。愛しい相手は即断即決でかっ攫(さら)うまでだ」

乾坤大覇浄(けんこんだいはじょう)。葛葉貴妃から伝達されたこの秘術を天門の二人が会得すれば金妖帝飛を確実に倒せると言う。尸解仙人がこの不思議で美しい湯殿に潤と智を赴かせたのはきっとこの温泉の効能にあるのだろう。多分…。否、間違いなく、互いに想い合う気持ちがあれば確実に距離が縮まるのだから…。

「智…。嘉子姫の奪還が無事完了した暁には…」「うん…。乾坤大覇浄じゃな…?本当に儂で良いのか…?」「お前以外に誰が居る…?」唇が触れ、しっかりと抱き締め合った二人の姿が靄(もや)のかかった桃源珠水泉の中にぼんやりと浮かび上がる。

その時、まるで両者に水を差すかの如く、ほんの僅かな怪しき気配が、香り立つ花木の陰からひっそりと流れて来た。「瘴気!」智の双眸が瞬時に瑠璃色に光り、その片手から水砲を放出する。ギャン!と言う動物めいた鳴き声が響き、何かがガサガサと逃げ去って行った。

「さっきのは妖狐だな?金妖帝飛の回し者か?」その広い胸の内に智を庇う潤の双眸も紫色に光っている。「うむ、妖術を使わぬ狐の姿じゃと瘴気を感じ難いのじゃ。だからあえて変化(へんげ)もせず偵察に来ておったのだろう」「成る程な。この湯の中で俺達の能力が高まったが故にやつの瘴気を感じ取れたのか…」

畳み置いた着物の方向を見ると、潤の斬魔刀も抜刀しかけていた。智の水砲が追い払っていなければ今頃偵察に来た妖狐の身体は一刀両断に切り裂かれていたであろう。傷を癒し、能力を高め、そして愛を育むこの桃源珠水泉と言う湯殿には計り知れぬ魔力がありそうだ。

温水から上がると、二人の体格も元に戻ったが、互いを愛しく思う感覚だけは何ら変わる事は無かった。「智…♪尸解道院寺に戻ったら俺がお前の髪を結って美しい髪飾りを作ってやろう♪」「んふふ♪僧形じゃが似合うかのぅ…♪」「きっと似合う♪」

木陰で寄り添い、仲良く涼む潤と智に、優しいそよ風が甘い香りを含んで吹き過ぎて行く。二人の醸し出す浄気が混じり合い、今までとは少し違った大きな気の流れが周囲の花をサワサワと震わせていた。幻の秘術、乾坤大覇浄の予兆は確実に始まっていたのである。

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桃源珠水泉から更に遠く南方へと進むと、まるで来る者を拒むかの様な赤黒く燃え盛る長い溶岩道がある。そんな魔道最果ての地に金妖帝飛の棲む妖狐魔殿が建っていた。

まるで天竺の城の如く円形の屋根を持つこの宮殿は、黒と金色に彩られた、派手だが何処かしら禍々しい建物で、堅牢な分厚い黒鉄の門には二名の大柄な門番が、つり上がった琥珀色に光る目を鋭く尖らせて周囲を睨みつけている。

門を入ると黒光りする石の廊下が続き、こちらも黒と金色に統一された、和洋折衷の不思議な意匠の回廊や大広間があった。

大広間では目も眩む様な美しい半裸の女達が舞い踊り、たくさんのご馳走と酒ですっかり酩酊した唐服の、重臣めいた男達が大声で笑ったり、場所も憚る事無く女達と睦み合ったりして、酒池肉林の怠惰な大宴会を行っている。

そんな大騒ぎの中心で、選りすぐりの美女達をはべらせて一段高い玉座に座り、血の様に紅い酒をなみなみと骨杯に注いで優雅に飲み干している長身の男がいた。その男は火の様な紅い巻き毛を肩まで伸ばし、黒地に金で装飾が成された唐服を纏って、真っ赤な裏地の黒い外套(マント)を羽織っている。

痩せた細面の顔は青白く、まるで幽鬼の様な冷酷さを湛えているが、深い赤味を帯びた双眸は妖しき輝きを放って、その細い鼻筋や薄い唇を持つ人形めいた美貌を引き立てていた。どうやら年齢不詳な美しさは、妲己と呼ばれていた昔から男の姿に戻った金妖帝飛の現在でも継続しているらしい。

そんな金妖帝飛の眼前には、片腕を負傷した一人の兵隊が傅(かしず)いていた。先刻桃源珠水泉で智に水砲を食らった偵察係である。「何?人魚だと?五人の中に半妖が居るとは気づいていたが、まさか人魚とは…」氷の様な低く冷たい声で呟く金妖帝飛に、偵察係は床に額を擦り付けんばかりに「ははっ」と頭を垂れた。

「都の姫にも引けを取らぬほどに見目麗しき半妖でした。恐らくあの者の人魚の血はかなり濃いかと思われます」金妖帝飛の口角が凶悪そうな半月形に吊り上がる。

「…人魚の肉は極上で不老不死の効能があると聞く…。そやつ…欲しいな…狐偵(こてい)よ…」「都から攫ってきた姫はどう致しましょうや?」狐偵と呼ばれた偵察係の言葉に、金妖帝飛はすっかり興味を失った様子で冷たく言い放った。「もう要らんわ。牢番共にでもくれてやれ。俺はその人魚の半妖が欲しい…」

ククククク.........。どんちゃん騒ぎの大広間に金妖帝飛の恐ろしい含み笑いが静かに広がって行った。

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いきなりですが、わたくし日曜日に毎日のルーティンであるストレッチと体操をやっていたら、強烈な魔女の一撃(ぎっくり腰)を食らってしまいました~えーん

もうね、それから三日間位全く動けなくて使い物になりゃしません_| ̄|○ il||li水曜日辺りから少し状態が改善致しましたが、完全に完治するまで体操は控えた方が良さそうでございます滝汗

さて、にのあいコンビの魔道塞ぎにインテリ翔君の白澤との論語対決、潤智の温泉Loveにラスボス金妖帝飛まで、今回はかなり盛りだくさんの内容でお送り致しました照れ

ページ容量が心配なので今回挿絵は控えますが、どうやら美坊主智君のピンチが迫っておる様子でございますガーン次回、いよいよ嘉子姫奪還に出陣です💪✨