これは嵐君の名前を借りた妄想物語です。腐要素有。嵐君好き、BoysLoveにご理解のある雑食の方向き。勿論、完全なフィクションですので、登場人物、団体等、実在する人物とは無関係である事をご了承下さい。尚、妄想ですので苦情は受け付けません。以上を踏まえてからどうぞ
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【冤罪】
#5
きっかけは午後の公判で弁護側の証人として、証言台に上がった渋谷西署の相葉刑事だった。弁の立つ二宮と違い、相葉はいささか天然ボケで素直な性格である。あれこれ計算して物を言わないので、悪気など微塵もなく、言ってはいけない事をうっかりポロッと言ってしまったりする。
だから智はここで相葉を呼んだのだ。小諸若希が証拠として菊池に託した映像の事を、この法廷に持ち出す為には現在進行中の連続殺人事件に触れなくてはならない。
だが、 その事件は鶴岡荘司の冤罪事件と直接関係があるものではないので検察官から異議を唱えられ、それを裁判長も認める可能性がある。だからこその相葉刑事なのだ。
スーツの似合うスラリと高い上背に、見るからに人の良さそうな好感度満点の相葉の外観は、先に証言した吉塩牛とは裁判官や裁判員達の受ける印象も格段に違うだろう。
そんな相葉がうっかり喋ってしまう現在進行中の殺人事件なら、今争われている控訴審の内容と絡めて、上手く話の転嫁が出来るかも知れない。智はそこを期待していた。「証人に質問します。先程取調室で証言して下さった才原登米子さんから直接話を聞かれたのは証人ですか?」
「はい。俺と相棒の二宮刑事です。あの人は “特急トメさん” って通り名がある超ベテランのスーパースリで、滅茶苦茶幅広く活動してるのにちっとも尻尾が掴めなくて、逮捕が難しかったんですけど、自分の仕事が殺人に利用された可能性があると知って、それはいかんと自白してくれました。
俺と相棒は生活安全課に所属しているんですけど、ベテランの窃盗犯って自分なりの線引きって言うか、“これ以上はアウト” みたいな絶対ルールがあるんです。犯罪は絶対駄目だから別に褒めてる訳じゃないんですけど、例え逮捕されても許せないものは許せないと自白を決めてくれたトメさんは立派だと思います」
褒めてるじゃん…♭つい笑いそうになってしまうのを必死でこらえ、ポーカーフェイスを保つ智の目線の先には、こらえきれずに腕で口を覆い隠し、俯いて震える二宮がいた。
傍聴席からも小さく笑いが起き、裁判長から「静粛に」とまた注意喚起があったのだが、その裁判長本人も少し口元が緩みそうになっている辺り、掴みはOKと言った所である。
ここで智は午前中の公判のトメさんの証言を持ち出し、話の流れを上手く変更した。「先程証人は渋谷西署の生活安全課に所属していると証言されましたが、才原登米子さんの証言にあった西麻布署の吉塩牛刑事とは面識がありますか?」
「はい、あります。と言うか、西麻布署とはこの間まで合同捜査をやってました。カラオケスナックのマスターやラーメン屋の店員が同一犯と思われる人物に殺害された連続殺人事件です。
新しい証拠が見つかったんで、俺と相棒はそれを捜査しようと思っていたんですけど、何故か合同捜査が打ち切りになりました。だってヨシギ…いやよししお..よしおし..よしおしおしお刑事は…」
散々噛んで最終的に名前を間違える相葉のミラクルな面白さに緊迫した法廷が一気に和む。笑いも起きたが、相葉は絶対に言わなきゃと思っていたのか、構わず証言のその先を押し通した。
「..よしおし刑事は、その連続殺人事件でも犯人を誤認逮捕してるんですっ!♭証拠をでっち上げて全然違う人を容疑者にして逮捕して、俺と相棒が調べなきゃまたここにいる鶴岡さんみたいに無実の罪で服役させられる人が出るじゃないですか?!♭
証拠だってちゃんとあるんです!♭2番目に殺された小諸若希君が友人の菊池君に隠し撮りした映像や音声を残していて……!♭」「異議あり!証人の証言にある事件は今法廷とは全くの無関係です!記録を削除して下さい!」
和んだムードを一瞬で緊迫させる相葉の証言に、検察官が食い気味に異議を唱える。当の吉塩牛も傍聴席で驚愕の表情を浮かべ、相葉の背中を凝視していた。
「異議を認めます。証人は弁護人から聞かれた事のみを応えるように」裁判長は異議を認めたが、それを遮ったのが裁判員の1人だ。40歳前後くらいのスーツを着た真面目そうな男性だったが、彼が手をあげて相葉に助け舟を出したのである。
「僕はこの刑事さんの証言を聞きたいです。今の刑事さんの証言が確かなら、被告人の冤罪も作られたものじゃないかと思うからです。無関係とは思えません」すると別の裁判員も次々と手を上げてスーツの男性に続いた。
そう、この状況の変化こそが智の狙いなのである。現在捜査中の事件の情報を法廷で漏らすなど、あざとい二宮なら絶対にやらかさないからだ。だが現職の刑事に現在の捜査情報を証言して貰わない事には話が始まらないのである。
検察官や裁判官。無論智も含め、法曹界に属した人間は、誰かに揚げ足を取られない様、発言には極力慎重になる。しかし裁判員は民間から選ばれた国民の代弁者なので、証拠が出たと聞けばきっと興味を持って声をあげてくれるだろう。
例え検察官や裁判官がNOと考える事であろうと、裁判員が誰か1人でも見たい聞きたいと言う意向を示してくれれば、あの決定的な証拠映像のコピーを法廷で証拠として呈示する事が出来る。
好印象な相葉刑事が、空気を読まず懸命に証言するうっかり発言は、きっと裁判員の心を動かすに違いないと考えた智の戦略は、見事な程にこの法廷で活かされたのだ。裁判長が弁護人と検察官を自分の席に呼び寄せる。内輪で相談する為だ。
「弁護人。先程の証人の証言ですが、証拠が出たと言うのは本当なんですか?」「本当です。ただ先程検察官が異議を唱えた様に、それは現在捜査中の事件であり、被告人の冤罪とは直接関係する物ではない事から弁護人も報告を控えていた立場でした」
智は検察官の置かれた状況にも配慮しながら、さり気なく証拠映像や音声の存在を匂わせた。「実はその証拠映像や音声は弁護人が第2の被害者、小諸若希が潜伏していた渋谷のネットカフェで発見した物でした。ですが盗撮及び盗聴されたファイルでしたので、法廷に証拠として提出する事が出来なかったのです。
ただその映像には吉塩牛刑事が犯人と思しき人物と会話している所が撮影されております。その中で吉塩牛刑事は本件被害者、田淵実余子に逃亡資金として100万を渡した事等、かなり重要な発言をしておりました。
先程の相葉刑事の証言にもありましたが、その捜査中の事件でも吉塩牛刑事は誤認逮捕をしているのです。誤認逮捕された人物は私のクライアントでしたので、もし起訴される様な事があればと、資料映像のつもりで弁護人が作成したその証拠映像のコピーがあるのですが…」
検察官が「大野お前…♭やりやがったな…♭」としたり顔の智を睨みつける。裁判長は頷き、暫く思案した後、左右に控える裁判官に聞いた。「右陪席、左陪席、如何でしょう?裁判員の皆さんのご意見もありますし、特殊な状況ではありますが、その資料映像を観てみませんか?」
左右の裁判官が「然るべく」と頷いた。「検察官は如何です?もし吉塩牛刑事がその捜査中の事件で捜査官に有るまじき行為を行っていたのなら、今法廷の被告人にも同じ行為を行った可能性があります。裁判所としても看過しがたい事案だと思われますが…」
検察官は実に悔しそうな顔つきで、それでも今度ばかりは正義感が働いたのか、渋々ながら「然るべく…♭」と頷いたのだった。
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次に証言台に呼ばれたのは陵英光華大学の菊池である。菊池は小諸若希と友人だった事、彼が “ヨシ” と呼ぼれる人物に唆され、アポ電強盗をやってしまった事を酷く後悔していた事。そして殺された小諸若希から予約メールで証拠の存在を教えられ、弁護士の智に相談した事を証言した。
「…小諸が命懸けで残した証拠なのに…法廷では使えないと弁護士さんから聞きました…。それで僕は小諸が残した証拠と同じ物を改めて作ればいいんじゃないかと思ったんです。映像や音声が撮影された場所を特定して、そこで同じ角度、同じ画角で同じ事を話す映像を撮影すれば証拠になるんじゃないかと…。
それで僕は弁護士さんや刑事さんの同意の元で、映像にある場所が何処なのか、映っている人物の立ち位置や声の響きをパソコンで解析して、小諸が残した証拠と全く同じ映像を撮影したんです」
すかさず智が後を続ける。「証人。ありがとうございました。皆さん、その映像がここにあります。これは現在捜査中の事件に関する映像であり、本法廷の審議とはまた別の事件ではありますが、この映像の中で本法廷の審議にも関わりのある発言などもされている事から、新たな証拠として呈示したいと思います」
手に持つCD-ROMを掲げながら堂々と言い放った智は、ここで証人として渋谷西署の二宮を呼んだ。「証人に質問します。この映像は間違いなく被害者の小諸若希君が残した証拠映像と同じ場所で撮影された物ですか?」
「はい間違いありません。菊池君が解析してくれた資料を元に我々が突き止めた西麻布、『丸共産業ビル』の屋上です。小諸若希が所持していたと思われるスマートフォンと同型のスマートフォンで撮影致しました。
撮影されたのは残された小諸若希の指紋から、屋上にある貯水タンクの後ろだった事も既に判明しております。会話する両者の背景に映り込むビルの角度、撮影された時間帯、全て証拠の映像とそっくりにしてあります」
二宮は傍聴席の1番前で固まっている吉塩牛にチラリと視線を向けてから、 “早く聞け!” とでも言いたげに智を見つめた。「小諸若希さんの証拠映像には吉塩牛刑事が映っていましたか?」
「映っていました。殆ど主役です。我々の捜査で浮上したとある人物が吉塩牛刑事と会話していました。新たに撮影した映像では吉塩牛刑事の役を先程証人になった相葉刑事が、吉塩牛刑事と会話していたとある人物を私がやり、先程証人として発言してくれた陵英光華大学の菊池君が撮影を担当致しました」
「とある人物と言うのは先程の菊池君の証言にあった “ヨシ” と名乗る謎の人物の事ですか?」「はい、そうです」「それは吉塩牛刑事が疑惑の “ヨシ” と繋がりがあった証拠と言う事でしょうか?」「異議あり!憶測です!」検察官がすかさず異議を申し立てる。
だが映像を観ると決まった以上、このやり取りは映像の為の単なる裏付けに過ぎない。検察官もそれが分かっているのか、この異議申し立てはいかにも儀礼的であった。CD-ROMがプロジェクターにセットされる。
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