これは嵐君の名前を借りた妄想物語です。腐要素有。嵐君好き、BoysLoveにご理解のある雑食の方向き。勿論、完全なフィクションですので、登場人物、団体等、実在する人物とは無関係である事をご了承下さい。尚、妄想ですので苦情は受け付けません。以上を踏まえてからどうぞ下差し


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【冤罪】


#4


最高裁の法廷に緊迫感が漂っている。裁判長を中心に裁判官が左右に2人。民間から選出された裁判員が6人。老若男女、多種多様な幅広い顔ぶれだ。


そんな厳粛な控訴審第1回の公判で弁護側が用意したのは1台のプロジェクターだった。証人席で緊張するのは3年前、田淵実余子の遺体を検死した監察医である。プロジェクターには3年前にこの監察医が書いた遺体検案書が映し出されていた。


そこに軽やかな1歩を踏み出したのは弁護人の智だ。黒のオーダーメイドスーツが華奢な身体に良く似合い、ふんわりとしたベビーフェイスはいつもの愛くるしさを封印して、切るような玲瓏さを纏っている。


その佇まいはまるで法廷に清廉な風を吹かせているかのような圧倒的オーラがあり、彼の小柄な体躯を何倍にも大きく見せていた。弦楽器を奏でる様な智の声が響き渡る。


「証人に質問致します。これは3年前にあなたが書かれた被害者、田淵実余子の遺体検案書に間違いありませんか?」「はい。間違いありません」「ここには布状の物で背後から首を絞められたとありますが、証人はこの索条痕の形状についてどう思われますか?」


検察官から「異議あり!」の声が上がった。「弁護人は何の根拠もなく証人の個人的な考えを誘導しています!」「異議を認めます。弁護人は質問の意図を明確にして下さい」相手の検察官は第1審で有罪を勝ち取った中々の強者だ。未だ若い智の事を何処か小馬鹿にしているのか、その表情には余裕が伺えた。


だが智も負けてはいない。裁判官からの注意を冷静に受け止め、更に確信的な質問をした。「私が索条痕の形状を証人に質問したのは、この遺体検案書には被告人の犯行を疑うだけの大きな理由があるからです。この交差した部分をご覧下さい。これは右利きの人間が絞めた痕跡に見えませんか?証人、如何です?」


監察医が答える。「確かにこの索条痕は右利きの人間が絞めたと思われる特徴が現れています」「では何故この遺体検案書にはその記述がされていないのですか?」「その記述はあまり重要ではないと判断したからです」「成る程。あまり重要では無いと?」


智は含みのある言い方をして、次にドイツの会社から急遽取り寄せた商品購入記録をプロジェクターに映し出した。


「これはドイツの刃物メーカー。ヘッケル社から提出された美容師専用ハサミの購入記録です。美容師にはシザー、セニング、スライドと言う専用のハサミがあるそうでしてね。この購入記録には被告人、鶴岡荘司が自分専用に特注した特殊なハサミの事が記述されています。


この部分をご覧下さい。ドイツ語で  “linkshändig” 詰まり(左利き)と書かれてあるんです。そしてこれが被告人のヘアサロン『ピクト・ビューティ』にあった被告人愛用の美容師専用ハサミの写真です」


次に智が映し出した写真には刃の向きが明らかに違う左利き用のハサミが大きく表示される。傍聴席がざわつき、裁判官が「静粛に」と注意を促した。


続いて智が証人席に呼んだのは『ピクト・ビューティ』のアルバイト美容師、八名朋美である。彼女は写真のハサミが確かに鶴岡荘司の物だとはっきり証言し、鶴岡荘司は間違いなく左利きだと言い切った。


先程証言した傍聴席の監察医が気まずそうな顔つきをする。田淵実余子殺しは当初、別れ話の縺れから来る突発的な犯行だと思われていた。だが突発的に人を殺す時に、利き手ではない巻き方で絞殺するのはどう考えても不自然なのだ。


監察医はそれを重要とは思わないと証言したのである。これでは索条痕の形状について遺体検案書に記述しなかった事が、明らかに意図的な物であると証明しているのに等しい。


検察官もパニックだと利き手が違ってしまう事もあるとか、監察医相手に様々な反論を展開したが、やや失速した感は否めなかった。


冤罪に強く、数々の刑事裁判でその辣腕を発揮して来た大野浩二弁護士の息子で、以前櫻井教授の婦女暴行事件を逆転勝利へと導いた( 大ちゃんお誕生日企画『Hit the floor』参照★)智の控訴審は1部メディアで話題になり、傍聴席にはチラホラとマスコミ関係者の姿も見える。


無謀な挑戦などと揶揄する向きもあるにはあったが、先程の利き手の一件だけでも、当時の西麻布署がいかに鶴岡犯人と言う前提ありきで、杜撰な捜査をしていたのかと、各メディアに印象付ける事は出来たであろう。


1度犯罪者のレッテルを貼られるとそれを完全に払拭するのは難しい。だからこそ世論がこれは冤罪かも知れないと疑惑を持つ方向へと、この控訴審を通して広く喧伝するのが肝要なのだ。


世論の意識が冤罪の方向に向けば、鶴岡荘司の社会復帰は早くなる。鶴岡荘司に対する世論の声を味方につける事こそ彼が美容師として完全復活出来る何よりの近道だと智は考えていた。


傍聴席には渋谷西署のにのあいコンビ。そして熱い眼差しで智を見守る潤も居る。陵英光華大学の大学生菊池と、菊池に付き添う櫻井教授。にのあいコンビや菊池には後で証言台に立って貰う予定だが、櫻井教授に関しては完全に弁護人見たさであろう。


前回智が担当した婦女暴行事件の事もあり、櫻井教授の存在はマスコミ関係者にも注目されており、何気にちょっと目立っている。当の本人はそんなマスコミ関係者の注目など何処吹く風で嬉しそうに智の勇姿を見つめているが、潤はやや迷惑そうな顔つきをしていた。


だが櫻井よりもマスコミ関係者の耳目を一身に集めているのは検察側の証人である西麻布署の吉塩牛刑事だ。先程の利き手の一件もあり、マスコミ関係者の誰もが田淵実余子殺人事件の担当刑事だった吉塩牛刑事の証言を聞きたがっている。


恐らく検察官は当時の吉塩牛の捜査が正当な物であり、第1審と同じ様に間違いなく鶴岡荘司が犯人だと主張する為の証言をあれこれとさせるであろう。それでいいのだ。吉塩牛が鶴岡犯人説を主張すればする程、後の弁護側の反対尋問が活きるのだから…。


吉塩牛刑事が検察側の証人として証言台に進み出て来る。乏しい頭髪の広い額が汗でテカっているのは緊張の為か、あるいは何かを恐れているのか…。


だが、さすがは現役の刑事らしく、検察官の質疑応答には思いのほか堂々と証言しており、かえって被告人席の鶴岡荘司の方が萎縮して、心配気に何度も弁護人席に振り向いては、 “大丈夫” と頷く智にホッと溜め息をついていた。


吉塩牛は、鶴岡が凶器のスカーフは確かに自分の物だと自白した事、田淵実余子の死亡推定時刻にアリバイが無かった事、田淵実余子と深い関係だった事、田淵実余子の為に150万もの金を貢いだ事等を強く主張し、捜査には何の不備も無く、動機も物証も揃っていたと断言した。


捜査一課の刑事がここまではっきりと言い切るのだ。恐らく法廷の誰もがやはり鶴岡荘司の犯行だと考えたであろう。智はあえて異議をとなえず、吉塩牛の証言を静かに見つめていた。


「終わります」検察官は七三にぴっちり分けた前髪を指先で払い、片眉毛を得意げにそびやかせて眼鏡の奥の三白眼を自信満々に細めている。声には出さずとも、その表情には智に対する “そら見た事か” と言わんばかりの傲慢さが感じられた。


「弁護人。反対尋問を」裁判長の声が響く。さぁここからが反撃だ…!弁護人席を立った智は颯爽とした足取りで、吉塩牛の眼前に歩み出すと、再びプロジェクターを作動させ、「今から渋谷西署の取調室とリモート中継を繋ぎます」と、言い放ったのである。


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検察官の「田淵実余子の殺人事件は西麻布署の管轄で渋谷西署は無関係だ!」とする異議は認められなかった。何故なら被告人の鶴岡は逮捕当初からスカーフは紛失したのだと供述していたからだ。だが、吉塩牛が書いた供述調書にはその供述のくだりが記されていなかったのである。


そこを智に追求された吉塩牛は「嘘をついていると思い、その供述は信用に値しないものと考えた」などと苦しい言い訳をしたものの、先の監察医の利き手記述無視の事もあり、また、被告人の供述を裏付ける証人が居ると智が発言した事から、裁判長は法廷でのリモート中継を認めたのだった。


渋谷西署の取調室には捜査一課長の風間が待機しており、やけに気取った様子で「「渋谷西署、捜査一課長の風間です」」と、顔をひきつらせている。傍聴席のにのあいコンビが肩を揺らし、声を出さずに笑っていた。


「「大野弁護士の依頼により、特例ではございますが、只今取り調べ中の才原登米子(さいばらとめこ)の証言を中継致します。才原はスリの常習犯であり、この度渋谷西署に自首して参りました。


才原が自白した窃盗の事実について、ひとつ興味深い証言を聞きましたので、それを本法廷にお伝えしたいと思います。そちらに居る吉塩牛刑事は当然ご承知でしょうが、スリは原則として現行犯逮捕が鉄則です。


現在81歳の才原が自ら罪を認めると言う事は、逮捕、送検される事を高齢にも関わらず覚悟した上での自白であり、信ぴょう性は高いと我々は考えております。才原登米子。先程の供述を繰り返しなさい」」


風間に促され、プロジェクターの画面に映し出されたのは、 “特急トメさん” こと才原登米子である。トメさんは真剣な顔つきで画面を眺め、証言台の吉塩牛を見て「「間違いない。あの刑事さんがあたしに礼金の150万を渡したのさ。3年前の9月19日だよ。あたしがほら、そこにいるアンちゃんからスリ取ったスカーフと交換にね」」


トメさんは始めに吉塩牛、次に鶴岡荘司を指差して、はっきりとそう断言した。「なっ…!?♭♭」吉塩牛の顔色がみるみる青ざめ、法廷が騒然とする。裁判長が何度も「静粛に!」と声を上げ、ようやく騒ぎが治まった時、吉塩牛に向かって智が尋ねた。


「おかしいですね、吉塩牛刑事。先程あなたはスカーフを紛失したと言う被告人の供述について嘘をついていると思い、信用に値しないと考えて供述調書にそれを記載しなかったと仰いました。


ですが才原登米子さんの証言によると、被害者の死亡推定時刻である9月20日の前日19日に、才原さんは被告人からスカーフをスリ取っている。これはスカーフを紛失したと言う被告人の供述が正しかった何よりの証明ではありませんか?


しかもそのスカーフと交換にあなたから150万の現金を受け取ったと才原さんは証言しているんです。それが何を意味するのか…。あなたは才原さんとの金銭の授受を隠蔽する為、供述調書に被告人の紛失したと言う供述をあえて記さなかった。そうではないのですか?」


「異議あり!弁護人は憶測で証人の捜査官としての人格を貶めています!」検察官がこめかみに青筋を立て、必死で智の尋問を遮る。だがこれはさすがに認められなかった。


「異議を却下します。証人は質問に答えて下さい」吉塩牛は真っ青になり、暫くワナワナと震えていたが、やがて「違う!♭あの婆さんは犯罪者だ!♭犯罪者の言う事なんか信用出来るものか!♭」と喚き始め、苦し紛れの言い逃れをする。


「俺は金なんか渡していない!♭スカーフなんて受け取っていない!♭全部ハッタリだ!♭あの婆さんが俺を嵌めようとしているんだ!♭殺したのはこいつだ!♭鶴岡荘司なんだよ!♭」被告人に人差し指を突きつけながら取り乱す吉塩牛に、智の「終わります」と言う冷たい声が無情に響いた。


吉塩牛は証言台から下ろされ、法廷はここで一旦休廷に入る。午後の開廷までの間に一報を打つべく、マスコミ関係者達が傍聴席から立ち上がり、バラバラと法廷の外へと散って行った。前代未聞のリモート中継にトメさん衝撃の証言は恐らくメディア恰好のネタとなるであろう。


無論刑事の吉塩牛と対極の立場にあるトメさんの言い分が完全に認められた訳ではない。嵌めようとしていると言い張った吉塩牛の言葉にも一理ありそうな余地は残しているものの、明らかに弁護側の主張の方が整合性があり、吉塩牛が追い詰められているのは明白だった。


だが、トメさんの証言には未だ続きがあるのだ。黒塚磐男の関与である。田淵実余子の殺人事件に、当時西麻布署の署長だった黒塚磐男が関わっていた事を詳(つまび)らかにする為には、現在巷を騒がせている連続殺人事件について触れる必要がある。


ここからが本当の勝負なのだ。鬼の形相で睨みつけている検察官を尻目に、智はこの控訴審の期間内に必ず黒塚磐男を法廷に引きずり出してやると、心に誓うのだった。


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いつにも増して長くなりましたがそれでも終わりません~笑い泣きなので次回第5話で大ちゃんお誕生日企画を終わらせたいと考えております😅


控訴審は最低でも4ヶ月は掛かるらしいので、次の相葉ちゃんお誕生日企画でも法廷シーンは登場するかもですが、法廷メインのストーリーは一応今回の大ちゃんお誕生日企画のみと言う事になりますニコニコ


法廷でリモート中継なんぞ出来るかどうかは分かりませんがアセアセ法廷シーンがそれらしく表現出来ていれば幸いでございますm😓m先ずは悪徳刑事のヨシギュウをやっつけます👊💥