これは潤智妄想物語です。腐要素有。潤智好き、大ちゃん右なら大丈夫な雑食の方向き。勿論、完全なフィクションですので、登場人物、団体等、実在する人物とは無関係である事をご了承下さい。尚、妄想ですので苦情は受け付けません。以上を踏まえてからどうぞ下差し


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最終章『I’m a love fool』


3


彫辰は予定通り三日三晩で雪華彫りを仕上げた。だが、その3日間は食事も睡眠もまともに取らない程一心不乱に刺青と向き合う、文字通り血を吐く様な命懸けの3日間であった。


「終わった…」そう呟いて彫り針を置いた時の彫辰の会心の笑みを、智は一生忘れる事が出来ないだろう。その生涯を刺青に注ぎ込んだ真の名人だけが見せる、実に誇らしげな微笑みだった。


「ありがとう…この彫辰、おかげさまで一世一代の良い仕事が出来ましたぞ」眠る潤の手を取って深々と頭を下げた彫辰は、次に点滴の用意を手伝う智に向き直り、「大野殿の白粉彫りと一対じゃて、あえて彫辰の銘は印さずに置きました」と一礼した。


茶器でも、刀剣でも、絵画でも、名人と謳われる人物は自分の作品に名を刻むのが当然だ。サインがあるかないかでその物の価値が天にも地にも変わるのである。


ましてや今回の雪華彫りは国家的プロジェクトなのだ。なのに彫辰は自らの最後の傑作にあえて自分の銘を刻まなかったと言う。大丈夫なのかと智が尋ねると、彫辰は明朗快活に返答した。


「儂の名前なんぞ入れてしもうたら折角の双龍が台無しじゃて。大野殿の白粉彫りと一対になる紅龍に儂の銘なんぞ邪魔なだけじゃ。生涯最後の傑作に己の名誉を重んじるようじゃ彫辰の名が泣くわい。そんな事したら天国に居る松岡殿に顔向けが出来んようになる」


彫辰は雪華彫りの下絵を描いた長半紙の隅に筆で【彫辰】と名前を描き、「マスコミ向けにはこれで充分じゃろう?♪」と、豪快に笑った。「儂も近い内にあの世へ行くが、その時は松岡殿と会ぅて酒でも酌み交わしたいもんじゃ♪儂みたいな爺ぃでも松岡殿は話し相手になってくれるかのぅ~♪」


彫辰にしてみれば松岡は名も無き素人のタトゥーアーティストだ。そんな松岡に対してこの名人がこれ程までに愛ある言葉で敬ってくれている。その事が智には涙が出るほど嬉しかった。「彼ならきっと大喜びで彫辰さんを迎え入れてくれる筈です」


もし天国で彫辰さんに会ったなら、きっと松岡はびっくり仰天して死ぬ程感激するだろう。そして「あ”そーいや俺もう死んでたわ!♪」とおどけ、彫辰と一緒になって大爆笑するに違いない。そんな事を想像して智は少し可笑しくなった。


「本当にありがとうございました……」瞳を潤ませ、穏やかな微笑みで頭を下げる智を見て、彫辰がにこやかに何度も頷いている。仕事の最中には圧倒的な威厳を放ち、何倍にも大きく見えたその背中は全てをやり切った今、まるで田舎の好々爺みたいな佇まいとなってちんまりと座敷で丸まっていた。


**


「ハイ、サトシ。そっちはどう?」翌日の昼、六本木のキャバレー『PARADOX』では、リハーサル中の『Ange Noail』代表、ダイアナ・クワンが智からの電話を受けながら、相変わらずの年齢不詳な美魔女振りで店内のディスプレイを確認していた。


今は潤に掛かりっきりとは言え、『PARADOX』のオーナーとして、毎日の店への連絡は欠かさない。


「昨夜無事終わったよダイアナ。潤は未だ眠ってる。後は痛み止めの点滴で色が落ち着くまで様子見だ。僕もそうだったけど、刺青は終わった後が痛みと高熱で結構大変なんだよ。店の方は変わりないかい?」


「お店なら大丈夫よ。でもウチのコ達はサトシやジュンと会えなくてちょっと淋しそうだったわ。そうそう、ショウのところのちょっと面白い子がいるでしょう?アイビーだったかしら?


彼がアレクサンドリアを連れて日本に来てるのよ。あのジャーナリストの坊やを引っ張り回して遊んでたけど、まさかあのエンリコ・フェルナンデスの一件にあなた達が絡んでいたとは驚きだわ。相変わらずアクティブにやってるわね?」


どうやら相葉や二宮から今回の事件の事を聞いたらしい。参ったなと思った智だったが、ダイアナはクスリと微笑って「心配しないで。この私が他所にリークする筈無いでしょ?あなたやジュンは恩人よ」と頼もしい事を言ってくれた。数ヶ国語を巧みに操るバイリンガルなので、日本語にも全く淀みがない。


「そうだわサトシ、あなたに報告しなきゃいけない事があったの。いいえ、PARADOXの事じゃなくて『エレガント・テティス』の方。未だ先の話なんだけど、実は『エレガント・テティス』の改装記念パーティーの件でショウから『Ange Noail』にステージの依頼があったのよ。


『エレガント・テティス』と言えばエンリコ・フェルナンデスからショウがポーカー勝負の勝ちで権利を獲得した豪華客船じゃない?『極悪カジノ王からカジノで勝ったカジノ嫌いのショーグン』とか?


ショウが日本人だからそんな風にメディアで呼ばれてたりするけど、『エレガント・テティス』はロスに寄港してからすぐに全面改装が始まってね。船のカジノを潰してシアターとバーを拡張するらしいわ。


それにアイビーが言うには、ショウが真っ先に改装を始めたのが地下迷路だったみたい。詳しくは聞いてないけど、そこで色々悲惨な事件があったんでしょう?何でも被害者遺族を招待して、エンリコに殺害された人達のだいぶ大掛かりな慰霊会を行ったそうよ。


あの場所は強化ガラスを使った水中水族館にするみたい。壁には十字架、被害者の写真と名前を刻印してね。【Their souls are with the goddess of the sea ~彼らの魂は海の女神と共に~】だなんてホント、抜け目ない男よね。ショウには敵わないわ」


ダイアナが伝えるあまりにも櫻井らしい後日談に、智も苦笑を禁じ得ない。恐らく櫻井はさっさとあの場所を潰してエンリコやJEWEL UNITらの死の痕跡を消し去りたかったのだ。被害者達の慰霊碑と水中水族館。


リニューアルした後の『エレガント・テティス』の乗船客達が、あの場所でリアルな海中の風景を見て祈りを捧げ、思いを馳せる度に被害者達への供養になるし、ましてやエンリコやその側近達が櫻井主導でとっくに葬られているなどとは誰も勘繰らない。


見捨てられた(と思われている)『グランディア・コーポレーション』を救い、カジノを潰してクリーンなイメージをアピールし、被害者達への供養も忘れない。絵に描いた様なスーパーヒーロー振りある。


唯一の救いは櫻井が権力の座などにはさほど興味を持っていない事だと智は思う。ビジネスも金儲けも好きな割に、政治家みたいな仕事には全く食指をそそられないタイプなのだ。


櫻井なら間違ってもアメリカの州知事選などには立候補しないであろう。櫻井が政治家になった姿など想像するだけで怖くなる。智がそう言うとダイアナは「確かに彼は政治家向きじゃないわよね?」と明るく笑った。


「兎に角無事に終わって良かったわ。暫くは日本に滞在するつもりだからジュンが回復したら私達のショーも観に来てね。是非オーナーのあなたの意見が聞きたいわ」「勿論。必ず観に行くよ。ちょっと邪魔かも知れないけど、それまではAi-Bやアレクサやニノの事頼むよ」


「邪魔どころかアイビーは良く手伝ってくれてね、私も随分助かってるわ。ウチのコ達とも仲良くしてくれるから『Ange Noail』では人気者よ。所でサトシ、ちょっと気になっているんだけど、アレクサンドリアってアニメ好きの彼でもいるのかしら?」


どうやらアレクサとアーロンの仲も順調に進行中らしい。アーロンの憧れは『名探偵コナン』の阿笠博士らしいからそんな話題でも登場したのだろう。


智が「背が高くてカッコいい男だよ。若い頃のベネチオ・デル・トロみたいな感じかな?」と教えると、ダイアナは「あらやだ。私彼のファンなのに」と可愛い事を言って羨ましがった。こんな当たり前の会話がダイアナと出来る現状が智には嬉しい。


上海の事件でダイアナは図らずも実の父親や弟を切り捨てる形になった。表には決して出さないが、それをする事でダイアナなりの葛藤や哀しみもあっただろう。だがダイアナは夢に向かって正しく生きる事を選択し、それが今では大きな形となって彼女に幸せをもたらしている。


通話口から聞こえる彼女の生き生きとした明るい声に、智はダイアナの幸福を実感し、感慨深い思いがするのだった。


「…ありがとうサトシ。私達があなたの代理でショーをやるって決まった時、ママと義弟(おとうと)の大勘を『PARADOX』に招待してくれてたでしょう?久しぶりにママと会えて楽しい夜だったわ。


大勘ったらウチのコ達が出演している映画やドラマをよく観てくれているらしくてね、生のショーをとても喜んでくれた。大勘は警察の仕事もあるから2人とは1日しか一緒に居られなかったけれど、それでも私には充分過ぎるプレゼントよ」


ダイアナの母親であるアンジー・クワンは未だダイアナが幼い頃に彼女を施設に預け、チャイニーズマフィアのボスだった夫に殺され掛けた、九州のとある資産家の赤ん坊を連れて逃げたのだ。


九州から北海道まで逃亡し、当時北海道警察に勤務していた五十嵐と言う刑事に保護されて結婚。戸籍を変えて五十嵐杏樹とその息子大勘として生活していた。そんなアンジーとダイアナ再会のお膳立てをしたのが潤と『真相報道Weekly』だったのである。

(『P・A・R・A・D・O・X』第二章『熾天使VS黒天使』第三章『魔都陥落』最終章『Going Crazy』参照☆)


智の代理で『Ange Noail』がショーを行うにあたり、ダイアナに無理を利いて貰ったせめてものお礼として、智がアンジーと大勘を『PARADOX』に招待したのだった。ダイアナの話し振りだと、どうやらアンジーも大勘も元気らしい。良かったと思った。


「頑張ってねサトシ。私はもう闘いの世界からは一線を引いたけど、それでも何かあなたやジュンの役に立つ事があるなら、いつだって依頼して頂戴。勿論、格安で請け負うわ。それじゃあ、またPARADOXでね」通話が切れた。


多分ダイアナは気がついているだろう。エンリコ・フェルナンデスがもうこの世にはいない事を…。彼女もかつては裏社会で生きていた女性だ。エレガント・テティスで本当は何が起こったのか、百も承知しているに違いない。


だがその事をダイアナは未来永劫決して口にはしないであろう。それが智達が所属する世界の暗黙のルールなのだと、彼女ならきっと分かっている筈だ。浴衣の袂にスマホを仕舞い、潤の眠る奥座敷へと向かいながら、智はエレガント・テティスでの出来事を何処かしら懐かしい気持ちで思い出していた。


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久々登場のダイアナちゃんからエレガント・テティスのその後が語られましたグッウインクさっさと改装してエンリコやJEWEL UNITを葬った痕跡を完全に隠蔽する翔君タラー被害者の慰霊碑を作って下手に調べられない様にする辺りなど相変わらずの策士でございます滝汗


次回はいよいよ潤君の右脇腹に智君と一対の紅龍が…💜💙今回は更新が遅くなりましたが(申し訳ないアセアセお願いアセアセ)それもこれも新しいパソコンの使い慣れない画像作成ソフトで、智君の白粉彫りイラストを描き直すのにやたら手間取った、超絶どんくさい私のせいでございます😅ゞ


いやはや、中々納得の行くイラストが描けなくてだいぶ苦労致しました~アセアセどうにかそれなりに色っぽいイラストが描けましたので、3年前の『P・A・R・A・D・O・X』第一章『妖魔』の白粉彫りイメージイラストをコソッとリニューアルさせて頂きました~カラーパレット🖌


サムネ対策で差し込んた背景画像も新しい物になりましたよ~おねがい今回リニューアルした智君の白粉彫りイメージイラストが最後に潤智の双龍イメージイラストになりますので、よろしければまたご確認してみて下さいね~ウインク