これは潤智妄想物語です。腐要素有。潤智好き、大ちゃん右なら大丈夫な雑食の方向き。勿論、完全なフィクションですので、登場人物、団体等、実在する人物とは無関係である事をご了承下さい。尚、妄想ですので苦情は受け付けません。以上を踏まえてからどうぞ下差し

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大正八年皐月。一年の月日が過ぎ、『紅薔薇楼』は大衆向けの大劇場『紅薔薇歌劇団』と名前を変え、大規模な芸能施設として、新しく生まれ変わった。

遊郭としての『紅薔薇楼』を楽しんでいた一部の資産家には惜しむ声も聞かれたが、元より美しい青少年達の舞台演劇や舞踊等が大層評判だった事もあり、『紅薔薇楼』の改革は懸念されていたよりも比較的すんなりと得意客達にも受け入れられた。

何より今までは高額過ぎて芝居や舞踊を楽しむ事が出来なかった若い世代や庶民派の人々が、この場所の会員として気軽に入館出来る様になった事が大きく、

身売り制度を廃止した事で失う上客もあるにはあったものの、それ以上に会員数は何十倍にも何百倍にも増え、本日の新装開業式典も大入り満員の大盛況であった。

今日の式典ではこの『紅薔薇歌劇団』の支配人として新しく就任した松本潤(元・警視庁第一部第一課巡査長)の挨拶をはじめ、様々な催し事があり、

曾て『紅薔薇楼』で支配人をしていた櫻井翔(現在『相葉製糸株式会社』代表取締役就任)と二宮和也(現在『相葉製糸株式会社』専務就任)も駆けつけて来て、それはそれは賑やかな祭典となった。

空には清々しい青空が広がり、今が盛りの庭園の薔薇は色とりどりに咲き乱れて入館客達の溜め息を誘っている。以前はお客様との秘め事が営まれていた二階の回廊と模細工硝子(ステンドグラス)の部屋は突き当たりの支配人室のみを残し、後は全て取り壊されて、桟敷席として改築された。

この桟敷席は新支配人の潤の提案で実現したもので、最近活動写真で見た巴里(パリ)のオペラ座なる大劇場を参考にしたらしい。

始めてみると芸能興業は意外にも潤に向いていた様で、改築が本格的に始まってからは舞台を円形にして拡大したり、花道の位置を三ヶ所に増やしたり、他にも様々な提案をしてそれは見事な大劇場を造り上げた。

他にもキネマ関係者や演出家等と共同で『魅せる』と言う事に特化した舞台演出を考えたり、警察官だった時以上に精力的に働いている。

今になってみると、潤を支配人と決定した相葉公爵の見込み通りになった訳だが、当の相葉公爵は、完成したばかりの桟敷席に腰掛け、飄々とした様子で、櫻井や二宮と談笑していた。

相変わらずの貴公子然としたいでたちは、リボンタイのついた蘚芳色(すおういろ)のシャツに、金糸を編み込んだ裏葉色(うらはいろ)のフロックコートと言う格好で、背広姿の櫻井、二宮の両者とは一線を分かつ個性を発揮している。

「そろそろ始まりますねぇ。智義兄さんの新作舞台が…。私は巴里で本物のオペラ座も拝見致しましたが、この桟敷席は本当に良く出来ています。ここを考えたのは松本さんなんですよ。良く勉強されている」

金属の柄がついた遠眼鏡で時折舞台の様子を眺めつつ、相葉公爵はにこやかに言った。それに答えた櫻井が、頷きながら説明する。「舞台の規模も以前とは違ってますね。背景を素早く変化させる様に回り舞台にしているとか…。

歌舞伎のせりも取り入れて奈落から舞台に上がれる様にもなったと先程松本さんから聞きましたよ。専用の大道具係とか、舞台装置の動作専門の従業員も雇ったんだそうですね?なかなかに大掛かりだ」

続けて二宮が話し出す。「全く大したもんですよ。今じゃ松本さんが元警察官だなんて想像も出来ませんからねぇ。

何でも今度英吉利(イギリス)に行って、本場の音楽劇を観るそうですよ。何でしたっけ?あっちには有名な戯曲作家が居たそうで、確かシェイクとかピアとか言う人らしいんですけどね。

その人の書いた戯曲が大層面白いそうで、松本さんはその戯曲を元にした歌と踊りの音楽劇をやりたいらしいですよ。まさかの演出家的才能が開花したって感じですねぇ。智さんも一緒に行くんだってそりゃあもう幸せそうに言ってましたよ。

二人が一緒になってもう一年にもなりますけど、未だに新婚ホヤホヤって雰囲気でしてね。さっきも楽屋に行く智さんを捕まえて、抱き締めるは撫で回すわ、そりゃあもうイチャイチャベタベタと、見ているこっちが恥ずかしくなるくらいの熱々振りで、すっかり当てられてしまいましたよ」

クフフフと含み笑いを漏らし、仕入れたばかりの話をペラペラと喋りまくる二宮は、少し邪魔そうに背広の襟をチョンとつまんだ。未だ着なれていないのか、「やっぱり着物にすれば良かった」とぼやいている。

そうこうしている内に舞台の幕が上がり、満場の拍手と歓声の中、今や『紅薔薇歌劇団』の花形である智の創作舞踊劇『月神話』が始まった。

「あらら、これってもしかして…♭」二宮が小さく呟く。さもあらん、これは一年前の満月の日、潤と智を結ばせる為に、二宮が創作した月の神様の話を題材にした舞踊劇だった。

勝手に使われては困るだの、元ネタの自分にもいくらか払って欲しいだのとぶつぶつ言う二宮を横目で見て、クスリと微笑った相葉公爵は、遠眼鏡を覗きつつ嬉しそうに言った。

「二人にとってはよほど思い出深いのでしょう…。どうですか?あの智義兄さんの美しい事…。まるで水を得た魚の様に生き生きと輝いています…。あの満月の夜からずっと智義兄さんは幸福そうで、益々綺麗になりました…。松本さんが義兄さんをとても大切にして下っているからなのでしょうね…」

そう満足気に語る相葉公爵の瞳は僅かに潤んでいた。そこには智の幸せを心から喜んでいる公爵の思いがふんだんに溢れているように見える。櫻井と二宮も「ええ本当に…」と同時に答え、水鳥の羽をあしらった純白の衣装で舞い踊る智の、華麗な剣舞を幸せそうに見つめていた。


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『紅薔薇歌劇団』新装開業式典は大盛況のまま無事に終了し、招待された関係者の面々と『紅薔薇歌劇団』の劇団員達は、夕刻頃から庭の薔薇園で盛大な打ち上げ会を催していた。

今や男娼ではなく、劇団員となった青少年達はみんな明るく、楽しそうに参加者と会話を交わし、何とも爽やかな空気感が漂っている。松本支配人は関係者各位のお歴々一人一人に丁寧に挨拶をしたり、言葉を交わしたりして、興業主としての役割を堂々とこなしていた。

相葉公爵は今後の為に財界や芸能関係の大物達と支配人室で密談中である。何でも劇団員の審査会(オーディション)を企画しているらしく、話を詰めている最中だ。

「何だか松本さんやけに貫禄がつきましたねぇ~。あの人私と同い年ですよ。ここに初めて来た時から男前でしたけど、男っ振りも益々上がって映画俳優みたいですよ。

ほらほらあの『太陽音楽』の社長婦人なんて、御前様と密談中の旦那なんてそっちのけで松本さんに見蕩れちゃってまぁ~。あれじゃ智さんも心配でしょーがないですねぇ。今は熱々ですけど、浮気とか大丈夫なんでしょうか」

関係者各位のご婦人達が、前髪を緩く後ろに撫で付け、羽織袴の正装で挨拶回りをする松本の美丈夫振りに、うっとりと見惚れている様子を眺めつつ、二宮が縁起でもない事を言った。隣で麦酒(ビール)を飲んでいた櫻井は「和はちっとも変わらないなぁ~♭」と溜め息混じりに言ってから何かに気づいた様に遠方を見つめ、満面の笑みで大きく手を振った。

「翔くーん♪にのも、久しぶり~♪」二人に向かって手を振りながらパタパタと駆けて来たのは舞台を終えた智である。

紫紺色(しこんいろ)の地に、薄葵の水流模様と羽ばたく川蝉を染めた華やかな着物を纏い、ふわふわとした髪を風に躍らせる智は、ここにいる劇団員の最年長にも関わらず、以前にも増して若々しい可憐な色香を湛えて、参加者の目を惹いた。

「やあ智君♪綺麗になったねぇ♪」櫻井が目尻を下げて智を向かえる。「あらら、やけに若作りしちゃって。あなた今年の十一月で三十四歳ですよ?恐ろしい」相変わらずの毒舌で智に声を掛ける二宮も何だかんだと楽しげである。

「あれ?ゆーりはいないの?さっきまで園内を警備していたのに」智がキョロキョロと薔薇園を見渡し、知念巡査の姿を探した。

「知念巡査、ちょ~は貴賓室の金庫ですよ。副支配人兼会計係の横山さんと一緒です。何故か『紅薔薇楼』を辞めて警察官になっちゃった山田涼介巡査もね。本日の売上高を集計しているんです」

巡査長の"長"と言う部分を殊更に象徴して、二宮が答える。知念巡査は巡査長に昇進し、今でも『紅薔薇歌劇団』専属の警察官として働いている。涼介も今では東京警視庁の巡査として、『紅薔薇歌劇団特別派出所』の常駐警察官だ。

副支配人兼会計係には相葉公爵の側近として働いていた横山が就任した。関西人は金勘定に強いだろうと相葉公爵が勝手に決めたと言う事になっているが、本当は嶺岡邸での一件で、松本支配人の補助役(サポート)として適任だと考えたからに違いない。

こうしてみると、各々が適材適所でいい具合に『紅薔薇歌劇団』が機能し始めている事が良く分かる。「あんまり変わらないのは智君だけかもね」櫻井の言葉に智が「そう?」と言って小首を傾げた。「にのだってあんまり変わってないぞ」「そー言う意味じゃないんですよ」二宮がすかさず口を挟む。

そこに挨拶回りを終えた潤が、真っ直ぐ智に駆け寄って来て、その肩をしっかりと抱いた。「待たせたな智。その着物も良く似合っているじゃないか」「じゅん♪」こぼれる様な笑顔で見上げる智に、先程までの凛々しい支配人の顔はどうしたのかと思うくらいの甘い表情を浮かべ、暫し智を見つめた潤は、櫻井に向き直ると、やや急かし気味に言った。

「櫻井さんすまないが、暫くここを仕切って貰っても構わないですか?私は智と緊急の打ち合わせがありますので少し抜けさせて頂きます。終わる頃には戻りますので宜しくお願い致します」

松本支配人は打ち上げの仕切りを櫻井に託すと、再び智を見つめ、意味ありげににっこりと微笑んだ。「また打ち合わせ?」智の頬がたちまち薄紅色に染まる。

「心配するな。今日はほんの一時(いっとき)だけだ。終わったら美味い物をたくさん食わせてやる」言うが早いか潤は智の手を引き、「さぁ来い智」とその場から風の如く速さで智を連れ去って行った。

「ほら、言わんこっちゃない♭だから私は御前様に申し上げたんです。離れにある智さんの自宅を家族仕様に改築なんてしちゃいけませんって。職場と近いから暇さえあればああなってしまうんですから♭」

鋭く勘を働かせる二宮と比べ、櫻井はいささか鈍い。「いや、打ち合わせだろう?♭」「あのねぇ翔さん。ただの打ち合わせで何で智さんがポッとなるんです?♭一時【約二時間】もあればやることは一つでしょうに♭」「え"ぇっっ?!♭♭」「この分じゃ松本さんが浮気なんて金輪際無さそうですねぇ♭恐るべし春水船ですよ♭」

二人の去った離れへの方向に視線を向けながら、櫻井と二宮は呆れた様に肩をすくめた。




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書きたい後日談が多過ぎて上手く終われなかったわ~笑い泣きちなみに今回の挿し絵は時間が無かったので、オペラ座の画像をパソコンで加工した物でございますタラー次回こそ、正真正銘のファイナルです(大滝汗アセアセアセアセ)エピローグはそんなに長くならないと思いますので、もう少しだけお付き合いくださいまし~お願い