これは潤智妄想物語です。腐要素有。潤智好き、大ちゃん右なら大丈夫な雑食の方向き。勿論、完全なフィクションですので、登場人物、団体等、実在する人物とは無関係である事をご了承下さい。尚、妄想ですので苦情は受け付けません。以上を踏まえてからどうぞ下差し

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二宮が『満月神光』なる尤もらしいでっち上げ話を智に語っていた頃、まるでヨーロッパの古城の様な豪奢な佇まいの相葉公爵邸では、着なれない三つ揃いの濃紺の背広姿の松本が、緊張の面持ちでナイフとフォークを使い、昼食の肉料理を食べていた。

管理栄養士が献立を決め、一流の料理人が三度の食事を作る。それは豪華で美味な料理ばかりなのだが、礼儀作法を厳しく監視されている中では味なんてちっとも分からない。

だが相葉公爵は固まりながら食事を摂る松本をさも愉快そうに眺め、「だいぶ様になって来ましたね。松本さん」などと呑気に微笑っている。

そうなのだ。嶺岡喜三郎の屋敷で一暴れした松本は、横山の手により嶺岡邸の裏口からこっそりと脱出させられ、離れた場所に停めてあった相葉公爵御用達の自家用車に押し込められると、真っ直ぐこの屋敷に連れて来られたのであった。

決死の覚悟を現していた松本の白装束を一目見た相葉公爵は「素晴らしい!」と松本に喝采を送り、漆塗りの平たい箱に入った、相葉公爵の署名入り認定証を手渡したのである。

「松本さんを智義兄さんの正式な後見人として認めます。どうか末永く義兄さんの事を幸せにしてあげて下さい」相葉公爵は松本に向かって深く頭を下げ、相葉一族の一員として礼を尽くして迎え入れてくれた。

「松本さんには『紅薔薇楼』改め、いずれ『紅薔薇歌劇団』として生まれ変わるあの場所を智義兄さんと共に支配人として運営して行って頂きたいのです。

現在支配人を務める翔さんと、会計係兼実質副支配人である和さんは新しく立ち上げた『相葉製糸』の代表取締役、並びに専務として就任して頂く予定となっていますので、松本さんには今後表舞台で活動する為の簡単な礼儀作法等を学んで頂ければと考えています」

『相葉製糸』だって?!♭松本はその時に初めて相葉公爵が密かに『嶺岡製糸』の乗っ取りを計画していた事を知った。道理で嶺岡邸での松本の大立ち回りが全く表沙汰にならなかった筈である。

どうやら相葉公爵は嶺岡喜三郎が紅薔薇楼や智に対して二度と牙を剥いたりしないよう、水面下で嶺岡財閥の崩壊を画策していたらしい。嶺岡喜三郎はいつの間にか牙どころか、全身の毛を抜かれて丸裸にされていたのだ。

知らぬ事とは言え、松本はそんな相葉公爵の計略に一役買わされていたみたいである。しかもそれと同時に松本の技量を推し量り、智の伴侶として相応しいかどうかも試していたらしい。つくづく恐ろしい男だと思った。

そして、そんな相葉公爵の悪魔の知恵は全て智が幸せになる為だけに働いているのである。血の繋がらない義兄をこれほどまでに溺愛する義弟…。そんな相葉公爵が松本を智の伴侶として認めた以上、これはもう決定事項なのだろう。

やはり逃げられなかったな…。紅薔薇楼に初めて足を踏み入れた時に感じたあの感覚はどうやら間違いのない物だった様だ。松本を認めた時点で相葉公爵は松本の意見を容れて、紅薔薇楼の改革を実行する事を決めたに違いない。

まさか派出所の警官として雇われていた自分が支配人に格上げされようとはまさしく青天の霹靂であるが、なかなか面白そうだと思った。

何より歌劇団であれば智は松本の望んだ様に芸一筋に生き、やがて名人と呼ばれる様な大物になれるだろう。智の一番近い場所でそれを見届ける事が出来るなら例え初めて経験する芸能興行の仕事でも、きっと有意義でやりがいのある仕事になるに違いない。

それにしても、後戻り出来なくなる事がこれほどまでに胸踊る結果になるなんて思いもよらなかった…。困難もあるだろうが松本の気持ちはもう智と築く未来に向いている。

きっと相葉公爵の情熱が伝染ったのだろう。智を幸せにしたい。あの愛おしい人を生涯掛けて慈しみ、守ってやりたい。その為に身に付ける礼儀作法や商売のやり方なら、どんなに難しくてもきっとやり遂げてみせる。

松本はそう決意して、智と再会するまでの十数日間の間、上流階級の世界で生きていく為の様々な事柄を徹底して学んでいたのであった。

「すみませんね。智義兄さんは芸事しか出来ませんから運営の殆どは松本さんにやって頂かなくてはなりません。さぞご負担でしょうが、私も出来る限りの援助はさせて頂きますので、お願いしますよ」

相葉公爵はにこやかに、食事を終えた松本に声を掛けると、智との再会についての計画を話し始めた。

「智義兄さんとの再会は明後日を予定しています。ちょうど満月の夜なんですよ。松本さんには神秘の力であの世から蘇った光の貴公子と言った感じで、智義兄さんをお迎えに行って頂きます。

この日は特別な馬車をご用意致しますので、それに乗ってせいぜい格好良く智義兄さんを浚(さら)って下さいね。紅薔薇楼から南へ二里程離れた場所に大きな別荘がありますので、そこへ義兄さんを連れて行って下さい。

その別荘の一階にある居間を祭壇の様に改築しておりますから、そこで形だけの結婚式を挙げて頂きます。別荘の二階は窓を広く取った寝室になっていますから、美しい満月がきっと良く見えるでしょう」「結婚式…♭ですか…?♭」思わず聞き返す松本に相葉公爵は微笑しながら頷いた。

「ええ、結婚式です。随分奇妙な事をとお思いになるでしょう。陽の光ではなく月光の光の元での結婚式。決して大っぴらに一緒になる事の出来ない二人が、それでも永遠の愛を誓う為に夜の神様の前でそれを宣言する儀式…。

実はね、私の父と友紀子さんもそう言った形で結婚式を挙げているんですよ。一族の反対で籍に入れる事が出来なかった友紀子さんの為に、せめて形だけでもと、父が考えた夜の結婚式です。

あの時の立会人は私と、当時父の側近だった翔さんのお父上の櫻井敦盛氏の二人だけ。眩しい程に月光の輝く皐月の夜でした。あの日の友紀子さんは本当に美しかった…。

まるで本物のかぐや姫が下界に降りてきた様な…そんな天上人めいた富貴な煌めきに満ちていてとても幸福そうに見えました。父と友紀子さんが一緒に暮らした日々は決して長い年月ではありませんでしたが、それでも私には断言出来る。

父の人生も友紀子さんの人生もあの時の短い日々が最も幸せな時間だったのだろうと…。父が崩御するまでのあの最後の月日で、父は一生分の愛情を友紀子さんに注ぎ、友紀子さんもまたひたむきに父を愛した。

あれほどまでに幸福そうな男女の姿を私は今までに見た事がない。それほど父と友紀子さんは心の底から深く深く愛し合っていた。ですからね、松本さん。智義兄さんにも母上と同じ幸福を味合わせてあげたいのですよ。

私は今まで、時に異常だと思われる程に義兄さんには何もかもを与えて来ました。でも、どんなに贅を尽くしても義兄さんには本当に幸せな顔をさせてあげる事が出来なかった。

ですが、どういう訳だか、私が何年費やしても成し得なかった事を松本さん、貴方は僅かな日数でやってのけた。翔さんから貴方と義兄さんの様子を聞く度に、嬉しい様な悔しい様な気がしたものです」

そう話す相葉公爵は、何だか始めに会った時より穏やかそうに見えた。松本と僅か一歳しか違わぬと言うのに、相葉家の若き当主としてこれまでにも多くの偉業を成し得て来たであろうこの人が、恐らく最も望んでいたであろう義兄、智の幸せ…。

漸くそれが実現しようとしている事で、相葉公爵はきっと心から安堵したのであろう。恐らく崩御された相葉雅暁公爵や、何よりもサトシの母友紀子さんに対して、自分の担うべき大切な役目が果たせた様な、そんな心持ちになっているのではないだろうか。

ならば雅暁公爵や友紀子さんに負けない程幸福な式にしようと松本は改めて思うのであった。


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一方、『紅薔薇楼』では来るべき満月の日に向け、櫻井と二宮が着々と準備を進めていた。実は相葉公爵からの手紙が届いた直後に、側近の横山が、松本の近況と明後日の結婚式についての伝言を櫻井の所に報告してきたのである。

「和、やはりこの反物がいいんじゃないだろうか?これは先日御前様が長崎で仕入れて来られた物の一つだが、モダンで洒落ているじゃないか?話によると松本さんは純白の夜会服だそうだし、まさか智君にドレスを着せる訳にも行かないだろう?今日中に反物を決めて仕立て屋に出さないと明後日の夜に間に合わなくなってしまうからね」

光沢のある白絹に大瑠璃揚羽と青い薔薇が染められた美しい反物を眺め、櫻井が二宮に意見を聞いている。横山の話では相葉公爵は曾て父親の相葉雅暁公爵が、友紀子さんとしたように、秘めやかな結婚式を予定しているらしい。

結婚式の話は父親から聞いていなかった櫻井は、どうして相葉公爵が満月に拘っていたのか、ここに来て漸く理解した。松本の方は相葉公爵が準備を整えてくれている。ならば智の方は自分が責任を持って完璧に仕上げなくてはいけないと、気合いが入っていた。

「華やかでいいんじゃないですか?まぁ私はドレスでもいいと思いますけどね。面白いし」二宮はクスクスと微笑ってドレスドレスと茶化した。

「それにしても結婚式とは御前様も御前様のお父上も小粋な事を考えるじゃないですか。相葉雅暁公爵はお相手が女性ですからいいとして、今回は男同士ですからね、いかに形式通りではないとは言え前代未聞でしょうよ。しかも結婚式の事は智さんには秘密なんでしょ?

あの人何にも知らないですっかり神様の恩恵を信じ込んじゃってますから、神様に嫌われないようにってせっせと自分磨きにいそしんでいますよ。知ってます?翔さん、智さんはお風呂に入る時、米糠を絹の袋に入れてそれで体を洗っているんですよ。

少しでも肌が白くなるようにって。日課の散歩で少し日に焼けちゃったのが気になるらしくて「明後日までにもっと白く綺麗になって神様にじゅんを返して貰う」んだそうでしてね。

実際は日焼けってほど焼けてもいないですけど、御前様からお土産に貰った南蛮渡来の化粧水みたいのをペタペタつけて、まるで何処ぞのご令嬢みたく有り様でね。何とも健気じゃないですか?」

褒めているのか、からかっているのか、良く分からない言い草をする二宮だったが、その表情は明るく、元気を取り戻した智の事を大層喜んでいる様に見える。それが櫻井にも嬉しかった。「私も新しい背広を新調した方がいいだろうか?」

「新しい背広が明後日までに仕立て上がる訳ないでしょ?だいたい翔さんはただの立会人なんですから、背広なんて箪笥にしまってある様なよそ行きの一張羅でいーんですよ。何目立とうとしてんですか?」二宮はあくまでも辛辣である。

そう言う二宮は智の為に選んだ反物と一緒に自分の着物もちゃっかり仕立て屋に注文し、「重ね扇の柄は目出度い席にピッタリですからねぇ」などとうそぶいている。

「お前だってただの立会人じゃないか…♭」櫻井は不満げに唇を尖らせて、二宮に聞こえない様、微かな声音で文句を言った。

そこにやって来たのが知念巡査と涼介である。相葉公爵からの手紙が届いた後、櫻井は二宮と共に派出所まで赴き、座敷に座ってどんよりしていた知念巡査と涼介に、智には内緒だと前置いてから、事の次第を話して聞かせた。

知念巡査は涼介と手を取り合って泣いて喜び、それなら是非とも協力したいと、二人して式場となる別荘に飛んで行き、横山や風間を手伝って式場の準備を整えて来たらしい。

「式場はとても美しい場所でしたよ。普段は居間として利用しているので、座椅子やら食卓やらを倉庫に片付けると結構広くて、そこに祭壇を飾るんですが、この祭壇と言うのがまた本格的でね、満月を意匠(デザイン)した綺麗なご本尊が祭壇の天辺に飾ってありまして、まるで西洋の神殿の様に荘厳でした。

御前様のお父様の時は立会人も御前様と櫻井さんのお父上だけだったそうですが、今回は御前様も櫻井さんも二宮さんも僕も涼介も居ますし、横山さんや風間さんも出席するそうですから、賑やかな式になりそうですね」

そう楽しそうに話す知念巡査は本来の調子の良さを取り戻し、祭壇の写真を見せてくれた。ご本尊は相葉公爵が特別に注文して作らせたらしく、水晶で作られた満月と、翡翠の勾玉が美しい大層豪華な物であった。

その見るからに神様らしいご本尊に、相葉公爵の願いが込められている様な気がして、櫻井はとても微笑ましい気持ちになった。友紀子さん…貴女のご子息はこんなにたくさんの人に愛されていますよ…。天国の友紀子に向かって、櫻井は心の中でそう呟いていた。




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今回はすっかり遅くなってしまいましたね~♭本当は潤智の再会シーンを書こうと思っていたのですが、何の説明もないままでは、流石に相葉公爵の計画がなかなかに素っ頓狂な感じが致しましてびっくり

急遽相葉公爵のお父さんと友紀子さんのエピソードを書き加えました♪ただ、とーとつに思い付いた事でしたから、少しドン詰まってしまいまして(大滝汗アセアセ)書き上げるのに少し時間が掛かってしまった次第ですf(^^;)

因みに今回の挿し絵は月神様のご本尊のつもりで私が勝手にデザインした謎の祭壇ですグラサン知念巡査がしょさんに見せた写真のイメージで描いたのですが、大正時代なら白黒写真だよなぁ~アセアセとアップしてから気付きましたわ~滝汗

次回はいよいよ潤智が再会致します照れただの再会ではなく結婚式と言うくだりにしたのはジュンサトシックの願望みたいなものですので、どうぞ生ぬるい目で見守ってやって下さいませウインク