これは潤智妄想物語です。腐要素有。潤智好き。大ちゃん右なら大丈夫な雑食の方向き。勿論完全なフィクションですので、登場人物、団体等、実在の人物とは無関係である事をご了解下さい。尚、妄想ですので苦情は受け付けません。以上を踏まえてからどうぞ下差し

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知念巡査の淹れたお茶を飲みながら、一同はあの公丈なる男について真剣に話し合っていた。「松本さん。以前お話した相葉公彦と言う、友紀子さんに言い寄っていた男が公丈の父親ですよ。

公彦伯爵は殿様商売で身を持ち崩しましてね、御前様が次の当主になられた時に金の無心に来たんですよ。だが、そもそも友紀子さんを相葉家から追い出すきっかけを作った張本人でしたから、御前様は一族から公彦伯爵の名前を排除し、息子の公丈と共に放逐した。

結果相葉公彦伯爵は借金を返す為に、家屋敷を抵当に入れ、名ばかりの没落華族となった。御前様は普段は穏やかな方ですが、公彦伯爵や息子の公丈の様な腐った者には例え身内と言えども冷酷非情に切り捨てます。

だが、公彦伯爵が脳梗塞で亡くなった為に、御前様は残された息子の公丈を哀れと思い相葉の名前で『紅薔薇楼』の会員証を与えた。困った事があれば支配人の私に相談せよと言う事です。

しかし父親の代を継ぎ、身分だけとは言え伯爵と呼ばれる様になった公丈は『紅薔薇楼』の会員証を盾に大勢のお客様から金を騙し取り、その上父親が友紀子さんに言い寄っていた様に、智君を執拗に付け狙い、無理やり 強 姦 しようとしたのです。

私が見つけてあの時は未遂に終わりましたが、その事を聞いた御前様は烈火の如くお怒りになり、『紅薔薇楼』は出入り禁止に、会員証も無効にして今度こそ完全に公丈を追放しました。

母方の中尊寺家は公彦伯爵の道楽のせいでとっくに縁が切れているし、風の噂じゃ公丈は筋の悪い仲間とつるんで犯罪まがいの様な事もやっているらしい。今日一緒に居たのもおおかたそんな不良仲間でしょう」

櫻井の説明に松本巡査長は深く頷き、やや険しい表情で、櫻井の聡明そうな顔を見つめた。「多分そんな所だろうと思いました。ですがね、櫻井さん。どうもあの男…かなり危ない事を考えているようです…。サトシを手土産にするとか、殺すのは惜しいとか…。

どういうつもりなのか分かりませんが、話の内容から推察するに、公丈氏は何者かにサトシを人身御供として差し出し、その人物の後押しで再び成り上がろうとしているらしい…。

時に櫻井さんは嶺岡(みねおか)なる人物に心当たりはありませんか?公丈氏は現在、その人物の世話になっている様だ。かなりの資産家らしいが、どうもサトシを殺したい程憎んでいるきらいがある」

松本がダンスホールで聞いた会話の内容を報告すると、櫻井は驚きを隠せない様子で、「嶺岡ですって?!♭」と、顔色を変えた。「まさか…♭嶺岡喜三郎(みねおかきさぶろう)の事じゃあ…♭」「どなたですか?」松本の質問に頷き、櫻井は噛み締める様に話を続けた。

「…智君が十四歳の時に置屋へと通って来ていた学生さんの話…。覚えておいでですか?♭」「勿論。サトシに夢中になって気がふれた人でしたね?確か首を吊って自害されたとか…」

答えながら松本は持ち前の勘の良さで先を察し、「まさか…♭」と呟くと、キッと眉毛を吊り上げた。「嶺岡と言うのは自害した学生の身内の者ですか…?♭」

「…そうです。嶺岡喜三郎。自殺した学生、嶺岡庄治郎(みねおかしょうじろう)の兄です。『嶺岡製糸』の代表取締役。今や嶺岡製糸は日本の産業界の頂点と言っても過言ではない。だが、何かと黒い噂も絶えない男です。

恐らく弟の庄治郎の自殺の原因を作った智君に復讐をしようとしているのでしょう。庄治郎の自殺に関しては、思春期にありがちの衝動的な物だったとされているが、喜三郎の考えはどうだか…」

「ちょっと待って下さい櫻井さん♭智さんは当時十四歳だったんでしょう?♭十四歳なんて未だ子供じゃないですか?♭その自殺した庄治郎ですか?♭

学生だったならその人は智さんより歳上だったんでしょう?年長の者がたった十四歳の子供に手を出して置いて、自殺したからってそれを智さんのせいにして恨むなんてお門違いでしょう?♭

どう考えたって十四歳の幼さで貞操を奪われた智さんの方が被害者じゃないですか?♭それを今更復讐とか、酷くないですか?♭」

さっきまでしょぼくれていた知念巡査が、理不尽だと立腹して卓上を叩く。櫻井は「その通りです」と頷くも、噛んで含める様に知念巡査に説明した。

「ですがね、知念さん。こう言う場合、どうしても悪者にされるのは浮草稼業なんですよ。芸姑の子供だから、ふしだらな母親の血を受け継いだ智君が庄治郎をたぶらかして自殺に追い込んだのだ…。とね。

理不尽ですが、現実はそう言う物です。自尊心の高い資産家なら尚更だ。喜三郎は弟の庄治郎に非があるなどとは絶対に思わない」

何ともあきれた話である。だが、先程の公丈の態度を見ても身分の高い者が差別的に振る舞うのはありがちの事だ。松本はうんざりした様な顔つきで額に手をやり、小さく溜め息をついた。

「嶺岡製糸の取締役にまで昇りつめた男が、また随分と執念深いな…♭嶺岡喜三郎と言う男は余程弟の庄治郎を慈しんでいたらしい…♭」松本の言葉に、櫻井は静かに首を振って「嶺岡喜三郎はそんなに情に厚い男ではありませんよ」と軽く否定した。

「嶺岡製糸は喜三郎の代になってから急成長しました。が、その裏では冷酷無比に切り捨てられた下請けの子会社が数多く存在する。喜三郎のせいで首を括った人間の数など庄治郎の比ではない。

喜三郎はただ許せないだけだと思いますよ。自分が常日頃から蔑んでいる相手に自分の弟が夢中になって身を滅ぼした…。嶺岡喜三郎は貧しかったり、地位が低かったりする者を虫けら以下だと思っているような男です。

そんな相手に嶺岡の名前を継ぐ弟の庄治郎が恋狂った挙げ句に首を吊った訳ですから、嶺岡の名に泥を塗られたとでも思っているのでしょう。江戸時代の無礼討ちではありませんが、喜三郎の心境としてはそれに近い物があるんじゃないでしょうか?」

無礼討ちね…♭明治、大正と時代は変わっても未だに武家社会の論理を持ち込み、地位や資産額でしか人間の価値を測れない偏った考え方の者がいる。そんな輩に限ってやたらと格差を作りたがり、己の器量を高く見積りたがるのだ。

松本に言わせれば、そんな連中が実は最も良識が狭く、人としての本質は低い。まるで裸の王様である。嶺岡喜三郎と言うのも随分とくだらない男だと思った。とは言え、サトシの命が狙われている以上、捨て置く訳には行かない。

「櫻井さん。この紅薔薇楼に居れば先ずは安心かとは思いますが、サトシには暫く護衛を着けて置いた方がいいですね。

公丈の様なならず者が、またこっそりと庭先などに入り込んでもいけませんし、もし外出するような事などがあれば、必ず誰か腕に覚えのある者と一緒に行かせないと危険ですよ」「ええ、ですからお頼み致しますよ。松本さん」

松本の助言に、櫻井は当たり前の様に松本を指名し、「御前様には私の方から話を通して置きます」と、済ました顔で言った。知念巡査が少し不満気に口を尖らせたが、自分の失策で公丈とその手下を入館させてしまったので、 サトシの護衛として立候補する事は出来なかった。

「どうせ今だって智君の護衛官みたいなものなんですから、構いませんでしょう?松本さんには暫く智君の側に居て頂きます。よろしいですか?」明らかに否やとは言えない強い語調である。

櫻井にしても、二宮にしても、どういう訳だか、松本をサトシの近くに寄せたがっている様な雰囲気があり、かなりの戸惑いを感じるのだが、自ら言い出した手前、松本は拒絶する訳にもいかず、了承するしかなかった。

その時、櫻井を探していた二宮が派出所にやって来て松本を見咎め、「松本さん何やってるんですか?早く智さんの所へ行って下さい。あの人薔薇園で散歩してますよ」

と、まるで四六時中見張れとでも言っている様に松本巡査長を追い立てた。松本は仕方なく立ち上がり、中の巡回警護を知念に頼むと、そのまま薔薇園の方に向かって行った。


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一方、舞台を終えた智は、着物を着替えてから庭の薔薇園をのんびり歩いていた。いつもの事だが、舞台ではいつだって渾身なので、自分の出し物が終わった後は、拍手や歓声などの喧騒から離れ、暫く静かにしていたいのだ。

なので舞台がはけると、こうして色とりどりの薔薇の花を眺めつつ、一人で散歩するのが智の習慣となっていた。皐月は薔薇の盛りである。

この館をぐるりと取り巻く様に咲き誇る薔薇の庭は、今が最も美しい時期で、智はたっぷりと時間を掛けて庭を一周し、決まった場所で瓶入りのラムネを飲むのが好きだった。

この紅薔薇楼には一般客が出入りできない専用の裏口があり、その奥まった一角には滅多に人の来ない、薔薇の群生するちょっとした空き地に、楡の木陰があった。

風薫る閑静な場所で、智はそこでラムネを飲みながらぼんやりと一時を過ごし、日常の何でもない事につらつらと思いを巡らせるのだ。最近良く考えるのは松本の事である。

東京警視庁第一部第一課の巡査長。元々松本は智のお得意様だった、帝国陸軍の斑目少尉と華族の鳥飼子爵が、不慮の死を遂げた事で、智との関わりを捜査する為に部下の知念巡査とここへ来ていた。

そんな松本がどうしてこの紅薔薇楼で常駐警察官として働く様になったのか、智にも詳しくは分からないが、おおかた心配性の櫻井が裏から手を回し、智を見張らせる様に仕向けたのだろう。

松本と言うのは何だか変わった男なのだ。初めて松本と会った時は何処ぞの紳士を相手に一仕事終わった後だったから、あの不機嫌そうな仏頂面を見た時は即座に蔑まれているのだと思った。

仕事柄蔑まれる事にはもう慣れっこだったが、どうやら松本はああ言った顔つきが常態らしく、ここで働き始めてからも何が面白いのか分からない様な、不機嫌そうな顔のまんまで、智の事を何かと気に掛け、しょっちゅう世話を焼いて来る。

これまでに智が関わって来た男は、この紅薔薇楼で働く青年達や支配人の櫻井と会計の二宮、そして血の繋がらない弟の相葉雅紀公爵以外は概ね智と寝たがる様な男ばかりで、それは自分の身体が特殊なせいだと何処かで開き直っている様なところがあった。

ところが松本だけは何だかんだと付き纏う割には一度も智を物欲しそうな眼で見る事もなく、常に怒っている様な顔をして、まるで取り調べでもしているみたいに上からポンポンと言って来る。

一体嫌われているのか、好かれているのか、まるで分からない不可解な松本の言動が、近頃では何だか面白可愛く思えて、ついついからかう様な真似をしてしまう。

何せ松本は、見た目だけなら驚く程の美男子なのだ。もう少し愛想良くしてくれたらきっと紅薔薇楼でも人気者のお巡りさんになれるだろう。実際、松本の部下の知念巡査などは顔も可愛らしく、明るい性格なので、今じゃすっかり人気者である。

「んふふ…♪あの人見た目だけなら御伽草子の主人公みたいなんだけどねぇ♪」智は独り言を呟き、松本の堅苦しそうな男前顔を思い浮かべてクスリと微笑った。

「どうした?智。やけに楽しそうじゃないか」そこにやって来たのは先程松本に追い返されたばかりの中尊寺公丈(ちゅうそんじきみたけ)である。

公丈は下卑た笑顔を浮かべ、智に近づいて来ると、「ちょっとその別嬪な面俺達に貸してくれよ」とにやにやした。公丈の左右には手下の二人も控えており、公丈と同じ様なニヤニヤ笑いを頬に張り付けて智を取り囲んだ。

「習慣ってのは怖いよなぁ智。お前は昔っから舞台のはけた後、ここでラムネを飲んでいたから今日も来るだろうと思ってさ、こいつらと張ってたんだ…」

公丈の言葉に答え、右隣にいた商人風の男が好色そうな笑顔を智に向ける。「近くで見ると小さくて可愛いですねぇ、公丈さん。細っそりとして女みたいだ…」

一凪ぎの穏やかな風がけぶる様な薔薇の香りを運び、智の着た瑠璃色の羽織を優しく舞い上げた…………。

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智君の危機!ガーン今回は字数が多くなりましたので、挿し絵は入れませんでした(((^_^;)字数オーバーしてなきゃいいけど…滝汗