これは潤智妄想物語です。腐要素有、潤智好き、大ちゃん右なら大丈夫な雑食の方向き。尚、妄想ですので苦情は受け付けません。以上を踏まえてからどうぞ
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「何やってんだよ~~~!!!」二宮の甲高い怒声が、病室中に響き渡る。利き腕にギプスを嵌め、左足首に包帯を巻いた松本がそんな二宮の大声に首をすくませた。その表情はいつもの強気な松本のそれではなく、実に申し訳無さそうな、ショボくれた物だった。
「ニノほんとごめん♭まさかビール箱の上に落下するなんてな~♭体を庇おうとして変な形に右手を着いちまったもんだからバキッと行っちまった♭左足は捻挫するし、全身打撲だし、マジで参ったぜ♭まぁ、幸い頭の方は打って無かったみてぇだから…♭」
「自業自得だろ?!♭バレンタインデーのイベントどうすんだよ?!♭っつ~か、翔さんに喧嘩売って?部下に吹っ飛ばされて骨折ったって何?!♭お前馬鹿なの?!♭」尚も続けようとする二宮を「まぁまぁ♭」と言ってなだめ、店長が苦笑した。
「バレンタインデーのイベントはバトルじゃなくて別の企画にするから潤は気にしなくてもいいよ。何をやるかは当日の発表だったし、常連さんに迷惑も掛けないだろうから、お前は傷を治す事に専念してくれ。
それにしても潤。被害届出さなくてもいいのかい?幾らお前発信でもショコラティエの利き腕を使えなくするなんて立派な傷害だろう?」
店長の言いたい事は良く分かる。だが、松本に怪我をさせたのが櫻井コーポレーションの御曹司とその部下だと世間に知られれば大騒ぎになるだろう。もし裁判沙汰になどなってしまったら最悪である。
櫻井の両親が息子を守る為、金にあかせて優秀な弁護士を雇い入れ、松本を散々にやり込めるのは目に見えて明らかなのだ。何せ松本にはやり込められるだけの立派な理由がある。
ならば口をつぐんで示談に応じ、実費負担ゼロで個室に入院して、賠償金を幾らか頂戴する方がお得と言うものだ。おかげで松本はこんな大病院の個室でのんびりと傷の治療に専念出来ていると言う訳である。
改めて病室を見回しても明らかに豪華な造りの個室だった。冷暖房完備は勿論の事、ソファーセットや大型テレビ、冷蔵庫まで揃っている。
恐らく一般患者ではとてもじゃないが入院できる病室ではないだろう。口封じと言えば聞こえは悪いが、待遇と言う意味ではこれ程贅沢な入院生活も無さそうに思えた。
それにつけても、午前中から大変な人数の見舞い客がやって来たものだ。病室中に置いてある花や果物、スゥイーツ等の手土産は、その殆どが常連客の女の子達からの物である。接客など殆どしていなかったにも関わらず、松本は店では人気のショコラティエだったらしい。
「何を言ってるんですか店長。ケンカを吹っ掛けたのはジェイですよ?訴えられたっておかしくない状況で、こんないい個室にただで入院させて貰えるんだから有難いと思わないと。
まぁ翔さんも、部下の上田君もだいぶ反省しているみたいですし、今回はドローでいいんじゃないですか?」二宮はあくまでもドライだ。「それにしてもジェイ。何だって翔さんに喧嘩なんか売ったりしたんだよ。翔さんだいぶビビってたぞ」「……言いたくねぇ………♭」
明後日の方向を向いてとぼける松本に、二宮はちょっと意地悪そうなニヤニヤ顔で「ま、大体の見当はついてるけどね」と言って、ソファーセットのテーブルの上に数冊の雑誌をドサリと置いた。
「ほら、ご注文の品だよジェイ。一冊600円だから合計3600円な。復帰したらちゃんと返せ」どうやら奢ってくれる気はさらさら無いらしい。いつもながら二宮は金に関してはかなりシビアである。
テーブルの上にあるのは『不思議な動物ワールド』。昨日二宮に薦められた月刊誌だ。聞けば、丁度半年前から始まった『Dr 相葉ちゃんの動物ハテナ』なる連載記事に智が挿し絵を描いているらしい。智が言っていた動物の絵をたくさん描いていると言うのはどうやらこの雑誌の事だったようだ。
考えてみれば松本は智の事を殆ど知らない。櫻井に対し、あれだけ偉そうな事を言った癖に、松本の、智に関する知識は、恐らく櫻井の足元にも及ばない程度であろう。松本の方こそとんだナイト気取りである。
暫くは入院生活が続きそうだし、せめて智がやっている仕事の事くらいは把握しておきたかった。「あ~あ♭マジで俺何やってんだろ♭」誰も居なくなった病室で、松本は積み重なった動物雑誌を眺めつつ、何故か智の顔ばかり思い浮かべていた。
一方。何も知らない智は、連載中の『Dr 相葉ちゃんの動物ハテナ』第7回の打ち合わせの為にとある動物病院を訪ねていた。記事を書いているのは正真正銘の獣医師である相葉雅紀先生だ。
先生と言っても智よりも2歳年下でだいぶ若いので、まるで昔からの友達みたいに親しみやすく、両者はいつの間にか互いに『おおちゃん』『相葉ちゃん』などと呼び合う程の近しい間柄になった。
相葉先生の働く動物病院は個人経営のとっても小さな病院で、患者も少なく、あまり儲かっていない。にも関わらず、お人好しが白衣を纏って歩いている様なこの先生は、経営難でもちっとも気にせず、手弁当で何処にでも飛んでいく。儲からないのに忙しい、相葉先生とはそんな人である。
相葉先生の動物に関する知識はとても豊富だ。陸、海、空、に関わらずありとあらゆる動物の生態が相葉先生の頭の中にはインプットされている。まるで歩く動物図鑑みたいな先生の知識を、最大限に活かせる企画が月刊誌『不思議な動物ワールド』の連載だったと言う訳だ。
何でもこの雑誌の創刊が決まった時点で、相葉先生に記事を書いて貰うと言う事は、編集部で決定していたらしい。何処で噂を聞いたのか、若くて動物マニアで、癒し系イケメンの相葉先生なら読者に人気が出るだろうと踏んでの企画だったそうだ。
ところがその頃、相葉先生はボランティアの獣医師として、南米に派遣されていたものだから、連載が始まるのが少し遅れたのだと、智は後から編集長により聞かされていた。因みにこの月刊誌を発行している『忌憚書房』の編集長は、智の同級生である。挿し絵の仕事が智に回って来たのも、詰まりはそういう事だ。
「おおちゃん、それはイワトビペンギンだね♪」打ち合わせもあらかた終わり、相変わらず暇そうな『虹の橋動物病院』の、こじんまりとした診察室で、智の話を聞いていた相葉先生は、いきなりそんな素っ頓狂な事を言って、智の首を大いにひねらせた。
今回の連載のテーマが『ペンギン』だったのでそうなったのか、相葉先生の発想は、時々智の理解の範疇を越える場合がある。智が話していたのは松本の事だ。いつも機嫌が悪くて、怖い顔ばっかしてるのに、とっても美味しいチョコレートを智にくれる、超カッコいいショコラティエ。
智に取って松本は、とかく可笑しな人なのである。何を考えているのか、何で智にチョコレートをくれるのか、全く意味が分からないのだ。でも…。智は松本と最後に会った時の事を思い出していた。
「世界一美味いウイスキーボンボンを作ってやる」そう言って智の頭を撫でてくれた、松本の手はとても頼もしく、何だかすごく嬉しかったのを覚えている。潤君って時々優しいんだよねぇ…。
「どうしたの?おおちゃん。急にぼんやりしちゃって」つい上の空になる智の前で、相葉先生がヒラヒラと手を振った。「イワトビペンギン…」ポツリと呟く智に、相葉先生が爆笑する。
「アヒャヒャヒャ♪おおちゃんは面白いなぁ♪だって、聞けば聞くほどイワトビペンギンだよその人。怖い顔なのにチョコレートくれるんでしょ?イワトビペンギンって、派手な羽がモヒカンみたく頭に生えてるペンギンで、顔とか、めっちゃロックンローラーっぽいんだよ。
イワトビペンギンはね、好きな子が出来たらその子の気を惹く為に、可愛い小石とか、色んなプレゼント持ってくんだよね。その相手は何もメスだけとは限らない。イギリスの水族館で飼われているペンギンなんて、育児放棄された親の無い卵をオス同士で育てたって言う、すっごく愉快な事例もある」
「そうなんだ?やっぱ相葉ちゃんはすげぇなぁ~♪動物博士だよ♪」感心する智に、相葉先生は茶目っ気たっぷりな顔つきで言った。
「きっとそのチョコレート職人さんはおおちゃんの事大好きなんだよ♪怒った顔は単に感情表現が下手なだけなんじゃないかな?これは僕の個人的な見解だけど、おおちゃんが嫌じゃないなら、その人にもっと近づいてみれば?もしかしたら、おおちゃんのこれからの人生に、1番必要な人なのかも知れないよ」
潤君が…?そうなのかなぁ…。智はふと櫻井の事を考えた。翔くんにアメリカについて来て欲しいって言われた時はちょっと嬉しかった…。でも翔くんの『優しさ』も『好き』も俺が欲しかったモノとは違ってた…。
翔くんの立場上しょうがないとは思うけど、翔くんの中での俺の存在価値って、きっと可愛いペットとか、すっごく大切なぬいぐるみとか、そんな感じ…。近くに居ないと困るけど、それを人に知られるのは恥ずかしい…。
でも潤君は違うのかなぁ…?いつもあんなに不機嫌なのに…?いや、確かに顔は怒っているけど、考えてみたら俺そんな潤君を怖いと思った事一回もねぇや…。何でだろう…?
智があれこれと思いを巡らせていた時、二宮から一本の電話が入って来た。「ニノ?どうしたの?えっ…?♭潤君が?!♭」智の顔色が変わる。一体全体どういう伝え方をしたのか、智は相葉先生にあわただしく挨拶を済ませると、脱兎の如く駆け出して行ったのだった。
相葉ちゃんの出番が作れて良かった~(o^-^o)今まではあんまり大ちゃん視点で書いていなかったので、(潤君と大ちゃんと両方細かく書き過ぎるとバレンタインデーに間に合わないの~(>.<))今回は大ちゃん視点も入れてみました♪物語もいよいよ佳境に入りますのでもうしばらくお付き合いくださいね