だが、ムソルグスキー忠実版とリムスキー・コルサコフ版、つまりaikoタイプとあゆちゃんタイプの違いは、これだけにとどまらない。それはムソルグスキーの音楽に流れる哲学をも左右してしまった。

今度は、以下の二つを見てみよう。

まず、原典に忠実なストラヴィンスキー版、指揮者はクラウディオ・アバド

http://www.youtube.com/watch?v=6xfGxFvfW8I&feature=related

次は、リムスキー・コルサコフ版

http://www.youtube.com/watch?v=uajP2wB1u-E&feature=related

http://www.youtube.com/watch?v=E6yL1AXm1Xs&feature=related

リムスキー・コルサコフ版は、オペラ全曲を流しているので、同じ場所がまたいでいる。上っ側の7分53秒からが、ストラヴィンスキー版と同じ箇所になる。

これは、イワン・ホヴァンスキーが登場する場面である。合唱だけになる直前までのところに注目してほしい。リムスキー・コルサコフの方が歌詞も歌い手も全然減っているのに気が付くだろうか?これも、リムスキー・コルサコフが「必要なし」と判断して削除してしまっているのである。

しかるに、ここはどんなに重要であろう?

専制君主イワン・ホヴァンスキーが登場する前に、銃兵隊、代筆屋、浮浪の民(これがリムスキー・コルサコフでは出てこない)の掛け合いなのである。銃兵隊は、暴行、略奪のし放題。代筆屋は、銃兵隊を憎んでいるが金のためなら何でもやる男、そしてこの世に苦しむ民衆がいる。

ここで、ストラヴィンスキー版では(もちろんショスタコーヴィチ版も)、次のように歌っている。

**************************************************

銃兵隊の女房たち:「わあ すごいわ。ねえ、すごいわよ。歌をうたいましょう。すごいわ」

民衆:「何が起きた?何事だ?」

代筆屋:「獣の親分のお出ましさ。命が惜しいなら離れてろ」

民衆:「大きなお世話だ」

銃兵隊:「それより、親方様に 白鳥殿に道をあけよ。御大のお出ましだ」(白鳥殿とはイワン・ホヴァンスキーの敬称)

銃兵隊の女房たち:「さあ、みんなで讃えましょう」

銃兵隊:「ほら、お出ましだ」

民衆:「凄い人数だ、女がうじゃうじゃ。こりゃ何かのお祭りか?」

銃兵隊の女房たち:「殿のお成りです」

銃兵隊:「道をあけるんだ、人々よ」

民衆:「銃兵隊か、まるで死刑執行人だ」

銃兵隊とその女房たち「御大に道を開けよ。称えよ、栄光あれ」

************************************************** 

何と血なまぐさい光景だろう。そして、民衆の歌っているメロディーは、何とパロディーに満ちていることか?

「銃兵隊か、まるで死刑執行人だ」が、何とグサリと突き刺さることか?

やくざと虐げられた民衆がハーモニーを奏でる、まさにムソルグスキーの天才そのものの姿である。

ところが、リムスキー・コルサコフ版には、民衆がいないし、代筆屋のセリフだけで、あとは、銃兵隊だけの合唱だけになってしまう。パロディーでなく、ホヴァンスキー讃歌になってしまっているのだ。

どちらが、ホヴァンスキーと銃兵隊の残酷さが伝わるか、これだけでも、ムソルグスキーの繊細さと、それを無に帰するリムスキー・コルサコフの暴君ぶりを嘆じずにはいられない。

 

そして、これから60年後のソ連では、このようなオペラを作曲することすら許されなかった。その時、これに値する場面が交響曲で表現された、それがミャスコフスキーの「交響曲第23番」の第3楽章の冒頭なのである。ここでは、クラリネットやオーボエが「女がうじゃうじゃ。」「スターリンか、まるで死刑執行人だ」と歌っているのである。弦楽器は「スターリン様に道を開けろ」そして、トランペットと打楽器のコンビネーションが「スターリン様に栄光あれ」と歌う、本当に恐ろしい場面である。

しかし、誰もそれを指摘しない。

たとえば以下のURL

**************************************************
http://homepage3.nifty.com/svetlanov/disc-l-m.htm

終楽章は第1楽章中間部で出てきた小太鼓の
リズムが打ち鳴らされ、明るいステップを刻む舞曲。ラストはファリャの「三角帽子」のラストを思わせる興奮のダンス。静謐
な部分も快活な舞曲もいずれも農民が多くの収穫をもたらしてくれる神への祈りと奉納の思いではなかろうか? そういった意
味でもこの曲はこれまたミャスコフスキーのあきれるほど多彩な趣のひとつであろう。

**************************************************

こんなわけないだろう。この著者の耳はどうかしている!!!

こんなことを書いて、この名曲が、凡作に代わってしまうのである!!!