誰が何と言おうと彼の経済見識には異論はできないであろう、2008年ノーベル経済学賞の彼へ日本の『アベノミクス』についての見解をロングインタビューに基づいて語り下ろされた待望の書。語りおろしだけあって非常に簡潔にして明瞭に綴られているのでお勧めである。
これ一冊読めばアベノミクスとは?金融緩和とは?長期低迷経済への処方箋とは?が最も要約理解できる1冊。
書中の内容をわかりやすく自分なりに咀嚼した。
金融緩和には2つの成功条件があるという。
1.人々が持つ将来への期待意識を変えることである。国家の経済は将来的に落ち込まないと人々が信じさせる事。例えその国家で完全な雇用が達成されても中央銀行は確たる意志を持って国民にインフレへの期待を継続確信させることである。
2.短期の金利がゼロであること。
特に1が重要である。
アベノミクスが提唱する第一の矢『金融緩和』と第二の矢『財政出動』(第三の矢には意味はない)は日本では二律背反的にみられていたが金融緩和を伴わない財政政策は金利の上昇を引き起こし、海外資金が国内に流入する。これが通貨高を誘導し輸出の減少が財政政策による内需拡大効果を相殺する。
国債残高と騒ぐが実質金利(市中の金利からインフレ率を引き算して求める)の低下は日本の財政を改善する。
デフレ擁護論者は物価が上がり、賃金が据え置かれれば生活が苦しくなるというがそもそも『賃金』という物価を無視している。自分の給料が年率2%上昇したとき物価が下落していればデフレ擁護論者の意見は正しいが、賃金も同時に下落し続けるというのは歴史が証明している。
金融緩和が継続されれば確かに長期金利は上がる、しかしインフレ率が伴って上昇すれば実質金利は下落し、公的債務は実質的には減少する。
日本のGDPにおける外需依存度は15%程度なので輸出企業よりも内需振興に力を注ぐべきなので円高がいいという見方も間違っている。円安は国際収支を改善し、国内の雇用を増やし、人々の収入増加をもたらす。需要に何重もプラスの影響をもたらす。
人生で貯め込んだキャッシュを豊富に持つ高齢者にとってはデフレはたしかにいいかもしれない。
実はドイツは戦前1930年からのドイツ経済が大規模なデフレであった事はあまり伝えられていない。劣悪なデフレを引き起こしていた前政権の土壌によってヒトラーを生んだのである。パンを買うのに山ほどの札束を持っていかなければいけないハイパーインフレの時代がヒトラーを生んだとは歴史の順序を歪曲している。
中央銀行の独立性とは1970年代の無秩序な政府による過剰な財政ファイナンスにより限界を超えて失業率を下げようとした結果中央銀行はその都度インフレ退治に奔走せねばならなかった。当時はいかに高金利を押し止めるか、それが現世にも染みついていると思われる。
現在の経済は少し高めのインフレを必要としているのに思想的に染みついたインフレアレルギーが中央銀行と政府を切り離したがるのである。
低インフレが物価安定と述べるのは執拗に落ち込んだ経済状況を続けるということは歴史が証明した。
金融緩和競争は望ましい。世界経済の発展に寄与する。近隣窮乏化と批判する考えは間違いである。
戦後イギリスはGDP比200%を超える借金が1970年代には50%にまで下がった。
イギリスは決して借金を返すことに奔走したわえではなく穏やかなインフレと経済成長を両立しつつ少しずつ財政均衡策を実施したのである。
最後に
経済を回復させるためにできることは何でも行うという精神で政府は危機に対峙しなければいけない。そこで行った事が十分でなかったならば信用が拡大しはじめ、経済全体にその拡大が広がるまでさらに多くを実行し、それとは違う施策も行うべきである。人類が産業革命以降150年以上の歴史から学んだ事は残念ながら危機を放っておくとさらなる大きな苦痛を生み出す。ましてや増税などはもってのほかである。