芸術作品に於ける誉め言葉として、「表現力が高い」と云う評価を頻繁に目にします。
楽器の演奏や声楽、合唱、舞踊、絵画、写真、これらのパフォーマンスや創作された作品について、幾度となく用いられてきた「表現力」と云う漠然とした分野について、少し考えてみました。
嘗て私は約10年間写真撮影を趣味としてきました。
写真撮影と言えば、被写体として選ぶものが風景や人物など、様々な分野が有りますが、私の場合はポートレートの被写体専門でした。
当時、趣味を同じくする方々と作品を披露し合っていた事が有りましたが、この時も「表現力が高い」と云う言葉で以て、芸術的な作品が評価されていた記憶が鮮明に残っています。
この頃から、表現力とは何か、しばし考えるようになりました。
演技力や撮影技法ではなく、奇を衒った行為でもなく、表現力。
少し考えていくうちに、表現力について言及しているのは、作品の作成者であるカメラマンや被写体ではなく、その作品の作成には全く携わっていない、作品を観る者だと云う事実に気付きました。
即ち、表現力とは、受け手の主観によるものなのです。
それでは、趣味として取り組んでいる素人の心の琴線に触れるもの、更に言ってしまえば、多くの素人が好むものが「表現力が高い」と云う言葉で以て賞賛されてきたのか、少し考えたところ、一般的に、万人に好感を与え、且つ、長い間支持されるものというのは、無難なものである事が多い事から、大多数からの支持や人気を得ているものが必ずしも「表現力が高い」とは限らないという結論に至りました。
ここで、表現者と受け手とのコミュニケーションと云う概念が浮かびました。
受け手が絶妙なタイミングで以てその作品を目にするからこそ、表現力を主観として感じ取る事ができるのではないかという事です。
加えて、「表現力が高い」とは、必ずしも目にする側にとって良い影響を与えるものに対して発せられる言葉だとは限らない事も感じます。
見る人の印象に残るものは、鬼気迫る雰囲気が見る人に恐怖心を与えたり、見る人の過去の様々な感情を想起させることにより、深い傷を抉ったりと、不快感をはじめとした負の影響を与える事も少なくありません。
私は、誉め言葉として「表現力が高い」と云う言葉を頻繁にしてきたのですが、負の感情を抱いた人は作品から目を逸らしたいと推測しているが故、主にプラスの意味合いで著しく感銘を受けた人がその作品に注目し、「表現力が高い」と云う言葉を発するため、「表現力が高い」と云うのは賞賛の意味合いが強く感じられるようになったのだと考えています。
表現力とは、受け手が存在して初めて産まれる概念で、良くも悪くも、人の感性に甚大な影響を与えるものとして、現段階では捉えています。
感性の事がしばしば感受性と表現されていますが、感受性の対義語は抵抗性で、薬剤の抗生物質の細菌への影響の度合いとして用いられています。
感受性の対義語が論理性ではない事が興味深いです。
【本日のピアノの練習について】
・ハノン 19,20番
・バッハ インベンション第1番 ハ長調(暗譜済)
・バッハ インベンション第2番 ハ短調(暗譜済)
・バッハ インベンション第3番 ニ長調(暗譜済)
・バッハ インベンション第13番 イ短調(暗譜済)
・バッハ インベンション第9番 へ短調
・バッハ インベンション第4番 ニ短調 (暗譜済)
・バッハ インベンション第7番 ホ短調(暗譜済)
・バッハ インベンション第8番 ヘ長調(暗譜済)
・バッハ インベンション第12番 イ長調(暗譜済)
・バッハ インベンション第5番 変ホ長調
・バッハ インベンション第15番 ロ短調
・バッハ シンフォニア第11番(暗譜済)
・ショパン幻想即興曲 嬰ハ短調(暗譜済)
・ショパン エチュードOp.10-4 嬰ハ短調(暗譜済)
・ショパン エチュードOp.10-12(革命) ハ短調(暗譜済)
(※ここまでそれぞれ1~2回通しただけ)
・ショパン エチュードOp.25-1(エオリアンハープ) 変イ長調
・ショパン エチュードOp.10-3(別れの曲) ホ長調
・ショパン ノクターン第5番 Op.15-2 嬰ヘ長調
・その他(スケール、アルペジオ、半音階、その他)
抽象的な概念として発せられていた表現力について、私なりの答えが出たところで、発表会の選曲について真剣に考えてみたいと思います。
現在、
・ショパン エチュードOp.25-1(エオリアンハープ) 変イ長調
・ショパン エチュードOp.10-3(別れの曲) ホ長調
・ショパン ノクターン第5番 Op.15-2 嬰ヘ長調
上記3曲の肝要点を少しだけ練習しているのですが、練習していて楽しいのは断然ショパン ノクターン第5番 Op.15-2 嬰ヘ長調です。
エオリアンハープは、曲調が私にはロマンティック過ぎて、桃色の羽が舞うような雰囲気が私には似合わない気がします。
別れの曲は、私の弱点を克服するには打ってつけの曲なのですが、職人的技巧がまだ伴わず、主題部の曇り具合に嫌悪感を抱きながら練習に取り組んでいます。
ショパン ノクターン第5番 Op.15-2 嬰ヘ長調は、曲調から精神的に前向きになれる上、中間部の練習から学ぶ事が沢山有りそうです。
3曲とも人前で演奏するには魅力を感じ、どれを選んでも先生としてもお勧めだとの事で、迷う事にも楽しみを見出しています。