以前から、私は、譜面に書かれた情報をピアノという楽器で以て演奏する練習の過程について、慣れない外国語を日本語に意訳する行為に準えて記しています。
今回は、譜面を読む事と文字を読む事について僅かばかり記します。
私自身が約2年前にピアノを再開した際、譜面を読むという行為が、あたかも、ロシア語や韓国語のような、日常外国語として見慣れている英語に用いられるアルファベットが一切用いられず、その言語特有の文字で構成された文章を読んでいるかのように感じられました。加えて言えば、ロシア語や韓国語に幼少期触れ、10年間以上にわたってキリル文字やハングルを一切目にしていなかった状態での再読を行っている感覚に近かったです。
実際は、ロシア語や韓国語には幼少期触れた事が無いので、あくまでも例え話として認識して頂けると幸いです。
私自身、特に外国語に堪能という訳ではなく、母国語が日本語であり、日本語を用いて生活しているので、感覚的には上述の状態でした。
故に、10数年振りに譜面を目にした時、楽曲の構成云々以前に、再開後約1~2週間は、記載されている音符と正しい鍵盤の位置の照合だけで非常に頭を遣い、1時間も譜面を目にしていると、その後ベッドに倒れ込みたくなる程に疲労が蓄積していました。
旋律に関しては、以前学んでいた外国語の文字を一文字一文字発音し、伴奏部分の和音に関しては、以前見覚えのある外国語の単語をピアノという楽器を介して発音しているような作業感覚に近い状態が再開直後の最初の数時間の頭の中で起こっていました。
以前よく弾いていた幻想即興曲に関しては、右手は指の感覚が覚えていたのですが、まだ指が動かず、左手があやふやであったため、譜面を確認しなければ正しい鍵盤の位置の照合すら危うい状態でした。
幼少期にピアノを習っている場合、何か外国語の四技能を学んでいるのとほぼ同等の力の注ぎ方をしているのではないかと思い始めた程です。
再開後1ヶ月程度(週4日の頻度でピアノに触れ、再開後のピアノに触れた総時間が約15時間に達した時点)経過すると、記載されている音符と正しい鍵盤の位置の照合に関して言えば、ツェルニー30番練習曲集収載曲程度であれば、初見のうちから、たどたどしくではありますが、何度か止まりながら両手合わせて1曲通す事に困難を覚える事は無くなりました。
この時、日常的に使用していない文字を読むという観点から見ると、15歳まで毎日最低1時間は使用していた母国語以外の言語について、10年間以上全く触れなかったとしても、約15時間程度の学び直しをすれば、少しは勘が戻ってくるのではないかと考えていました。
通っていたバレエ教室で一緒にレッスンを受けていた方々に、ピアノの件を少しお話しすると、10年程度ブランクが有る状態で再開を試みたものの、頭を遣う事に疲れて再開直後の時点で諦めてしまったと云う方が複数いらっしゃいました。
語学学習にも言える事ですが、導入段階に相当精神力を要求され、この時期を乗り越える事が出来るか否かが上達を左右するのではないかと私は考えます。
ピアノ再開後2年間が経過した今、曲想と云う点で譜面を目にした時、下記の事を考えています。
ショパンのノクターンの場合、一人の人物の内面を一人称を用いて記された私小説を読んでいる感覚に近いものがあります。視点が固定され、時間だけが変化するという進行です。
真実が描写されているとは限らず、主人公の視点が全てだというのが特徴です。
一方、ショパンのバラード4曲は、パートが変わる毎に、視点が変化する気がしてなりません。
この視点の変化について非常に難解な点は、語り手が目まぐるしく変わる場合も有り、それぞれ異なる事象が語り手の主観や地の文により描写され、時間軸と譜面の進み方とが一致しない場合が有る気がする事です。
バラード第1番をまだ早い曲だと判断して一旦寝かせているのもこの解釈が難解であるが故です。
そもそも、楽典の基礎的な学習もせず、音楽史的な知識も乏しい状態で、バラードに取り組むのは無謀にも程が有り、文章の意味を解らずに書き写したり音読したりしている行為に他ならない気がします。
【本日のピアノの練習について】
・ハノン 1,20番
・バッハ インベンション第1番 ハ長調(暗譜済)
・バッハ インベンション第2番 ハ短調(暗譜済)
・バッハ インベンション第3番 ニ長調(暗譜済)
・バッハ インベンション第13番 イ短調(暗譜済)
・バッハ インベンション第9番 へ短調
・バッハ インベンション第4番 ニ短調 (暗譜済)
・バッハ インベンション第7番 ホ短調(暗譜済)
・バッハ インベンション第8番 ヘ長調(暗譜済)
・バッハ インベンション第12番 イ長調(暗譜済)
・バッハ インベンション第5番 変ホ長調
・バッハ インベンション第15番 ロ短調
・バッハ シンフォニア第11番(暗譜済)
・ショパン エチュードOp.10-4 嬰ハ短調(暗譜済)
・ショパン エチュードOp.10-12(革命) ハ短調(暗譜済)
・ショパン エチュードOp.10-3(別れの曲) ホ長調
・ショパン ノクターン第5番 Op.15-2 嬰ヘ長調
・その他(スケール、アルペジオ、半音階、その他)
現在、ショパン エチュードOp.10-3(別れの曲) ホ長調とショパン ノクターン第5番 Op.15-2 嬰ヘ長調を並行して練習中です。
◆ショパン エチュードOp.10-3(別れの曲) ホ長調の難所
先日から記載している、主題部の内声と旋律の部分の弾き分けについて、ペダルを再度見直し、右手は旋律の部分のみ、左手は全て弾いて練習し、その後内声を入れてみましたが、相当な鍛錬が必要だと痛感しました。
◆ショパン ノクターン第5番 Op.15-2 嬰ヘ長調の難所
雰囲気を重視すると、拍感が無くなってジャズのような音楽になってしまうため、地道にテンポを揺らさずに一旦左手のみ確実にバスを響かせる練習を続けました。
最初の土台の時点で手抜きをすると、後々の修正に手間取るので、丁寧に取り組んでいきたいです。