大人になり、自分で自由に使えるお金が手に入るようになり、子どもの頃より格段と情報網が充実した環境の中で生活を送るうちに感じるようになった事の一つとして、お金で買えるものに関する価値観の変化が挙げられます。

 私は莫大な資産を有している訳では有りませんが、10代の前半の頃漠然と描いていた欲しかった「物」を次々と手に入れるに従って、金銭と引き換えに入手できる「物」「事象」について、あまり魅力を感じなくなりました。

 至極単純な例を挙げれば、ファッション誌に掲載されている服飾関係の商品については、然程自らの努力を要する事無く、店舗へ足を運びその場でお金を払いさえすれば誰しもが入手できる事から、年齢を重ねる毎に所有している事に対しての歓びが薄れていきました。今ではネット環境さえ整っていればオンライン購入も可能な事が多く、「物」の価値についての魅力は10代前半の頃と比べると激減したと痛感します。

 

 そこで、10代後半頃から、欲しいものとして、空間や時間、相手が居なければ出来ない事を具体的に挙げるようになりました。

 旅行がこの典型例で、web上に溢れている画像や動画では無く、自分で計画を立て、自分で体験する事に価値を見出すからこそ頻繁に旅行をしておりました。

 

 この「体験」「時間を過ごす事」「相手が居なければ出来ない事」と云う要素が凝縮された究極の趣味が撮影だと私は考えます。

 私がセルフポートレートに全く手を出さなかったのもこの価値観に由来すると思います。

 撮影者と云う相手が居なければ成立しないからこそ撮影を続けてきたと云っても過言では有りません

 そして、ロケ地についても、入場制限が有る場所、通常は撮影禁止の区域にて施設所有者に交渉する際日本語も英語も通じず現地の言葉のみ通用する場所や、天候不良の時が多く滅多に撮影が成立しない場所、車を停めた場所から徒歩で向かうには労力を要する場所等、克服すべき事柄が多ければ多い程、作品としての価値が高まり、次々と困難をクリアする事に歓びを感じるようになりました。

 航空便搭載禁止等の持ち込みに関して困難を極める物を持参する事水中に入った瞬間を捉える事等、経験者なら判る人のみ判る一発撮りや高難易度の事象を全て込められた1枚の写真に収める事を自分なりに極めてきました。

 技巧的な事はともかく、行動力とアイデアで全てをカバーした作品が仕上がった際には、金銭とは引き換えに入手できない事象を達成した満足感が有りましたし、克服すべき事を全て克服し尽した達成感に満ち溢れておりました。

 

 インスタグラムにて話題の撮影スポットにて数時間並んだ結果スマートフォンを用いた撮影した画像を掲載している方々も、似たような価値観の持ち主が多いのではないかと想像しております。

 人脈、コミュニケーション力、行動力、費やした時間、衣装の調達法、ヘアメイクに費やしたテクニック、体力、これらの要素が凝縮されているからこそ、撮影に価値を見出す方が多いのだと私は推測しております。

 

 今年に入り、コロナ禍で外出が自粛される中、改めて撮影について振り返ってみると、成功した際の要素としてが大きく奏功しており、自らの努力の結果得たものよりも運の要素の方が上回る作品さえ有るように思えてならず、別の趣味にシフトしつつあります。

 約10年間、天候については奇跡と云う程に恵まれ、有難い事に飛行機の欠航にすら一度も遭遇しておりません。

 言語についても、その時の受付担当が偶然交渉相手が語学堪能であったが故に極めて簡単な英語のみで通用してしまったり、現地の言葉の筆談偶然通じたり、幸運な事に偶然日本語学習者が傍を通りかかったり、幸運に幸運が重なったが故、自分の力だけで成し得たものが如何程か考えるとこの趣味の特性と私の目的との乖離を感じ、暫く休養期間を取る事に致しました。

 

 

 そこで、外出自粛の中打ち込める趣味として挙げられたのがピアノです。

 ピアノ演奏力に関しては、ほぼ毎日の練習が必要で、一度自分の及第点と云える仕上がりに到達したとしても、「次回」その曲を演奏した際には自分の及第点に達する腕前を所有しているとは限らず、撮影が一度きりの一瞬の二次元に収められた作品であると云う特性の対極にある趣味だと私は思います。

 一度仕上げた曲を当時の水準で再現するだけでもとてつもない努力が必要とされ、演奏技術については金銭で以て換えられるものでは無い上、運に恵まれ他人が助けてくれる訳では無く非常に尊い四次元の世界にて成し遂げる事項だと私は捉えております。

 

 簡単に手に入るものでは無いどころか、その技術を維持するだけでも相当な努力を要するからこそ、毎日時間と知恵を捻出して楽曲に取り組む価値が有るのだと今痛感しております。少なくとも数年間はショパンエチュードとショパンの英雄ポロネーズ、その他の楽曲の練習に励みたいと思います。

 今年1~2月、ピアノを再開したての頃は体力作りから始めなければならないと痛感致しました。

 未経験者からは優雅な趣味だとよく言われますが、ピアノの練習には撮影とは違った意味で非常に体力を要しますので、ピアノを練習し続ける事に必要な体力及び練習から発生する身体の歪みの矯正も定期的に行っていきたいと思います。