街のオブジェが次第に秋めいてきたものになり、冷たい風が四肢のすぐ横を遠慮なく素通りしていく中、久々に楽譜を入手する事を目的として某楽器店へと足を踏み入れました。
現在、楽譜の入手方法と云えば、直接書店や楽器店の楽譜販売コーナーで対面購入する方法の他に、Amazonをはじめとしたweb上で購入したり、どなたかからお譲り頂くetc.多岐にわたるでしょう。
私は、愛着の有る曲の楽譜に関しては、直接手に取って中身を確認した上で対面購入する方法を取っております。
そこで、私の帰り道に待っていましたとばかり丁度良く鎮座する某楽器店の楽譜陳列棚の前で、唖然とする事になりました。
楽譜と云えば、ピアノの為だけに有る訳では無く、当然、別の楽器や声楽の為に作成された物も陳列されているのはそれまでの経験上理解しているつもりでした。故に、ピアノ用の楽譜を求めるのであれば、ピアノ用の陳列棚の中から探し出す事になります。
ピアノ用の楽譜陳列棚に向かうと、店内の「千本桜入荷しました」と云う大きな文字が目に入り、思わずその宣伝に引き寄せられ、近寄ってみると、表紙のデザインが見た事も無いようなポップな物が多く、最近のピアノ学習者の教則本も時代と共に変化を遂げたものだと時の流れを感じていたのも束の間、そこはピアノ用の楽譜の中でも、ポップスに分類される箇所であった為、まず私はピアノ曲の中でもジャンルが幾つか有ると云う当然の事を再認識する事になりました。
緊急事態宣言が発令される直前、何度か足を運んでいた楽器店でしたが、以前はこんなにもクラシックピアノ曲の楽譜がマイナーな存在では無く、寧ろポップスの方がマイナーでは無かったか…と、狐につままれたような気分。
よく見ると、ピアノ用の楽譜陳列棚にひしめき合っている楽譜の多くがジャズやポピュラー向けの物で、クラシック音楽の楽譜は陳列してあるピアノ用の楽譜全体の半数にも満たない事に気付き、しばし驚愕。
勿論、バレエと同様、多くの場合はバレエと云えば暗黙のうちにクラシックバレエを指しますが、ジャズバレエやモダンバレエも存在し、それらはクラシックバレエと比較して非常にマイナーである為、お稽古をするお教室や門下生もごく少数なのが実態です。
ピアノの楽譜のジャンルについて考えると、最近は電子楽譜なる物も普及しておりますから、紙媒体の楽譜でクラシック曲のピアノを練習する方は減少傾向なのでしょうか。
もしくは、紙媒体の楽譜を使用してクラシックのピアノ曲を好んで練習している方々は、既に或る程度楽譜をお手元にご用意済みなのでしょうか。
更に考えられる選択肢として、紙媒体の物の中でも廉価である事を最優先し、web上に溢れるフリマアプリ等でどなたかのお古を入手するのが定石となっている方が多いのでしょうか。
私はと云えば、気になる曲の楽譜は学生時代に既に揃えておりましたが、その頃から何度か転居をした為、今はもう見当たらない物も有り、再度購入し直す必要の有る物が多く、今年になって何度か楽譜を購入する事を目的として楽器店へと足を運んでおります。
その「気になる曲」が多い場合、楽曲が完成する事無いどころか、手を付けることがなく所有・保管しているだけの楽譜も多少は存在するでしょうから、所謂「大人の再開組」の方々は、既に若い頃憧れとやる気に満ち溢れて入手して虎の子のように大切に保管していた紙媒体の楽譜をお持ちなのかもしれません。
私は、あまり愛着の無いと云っては失礼ですが、少し参考程度に確認したい楽譜に関しては、web経由で入手した事も有ります。
ただ、やはり愛着の有る、真摯に取り組みたい曲に関しては、様々な出版社の楽譜を直接手に取って見比べた上で一番自分に合うであろう物を対面購入し、大切に持ち帰り、使う事にしております。
本日購入してきたショパンの即興曲4曲が収載された楽譜。
パデレフスキ編で、輸入楽譜です。
ショパンの場合、即興曲第4番は言わずと知れた幻想即興曲ですから、お目当ては第1番から第3番までの3曲です。
丹精込めて使い込みたいと思います。輸入楽譜は比較的値が張ると云う事情も有りますが、演奏技術は金銭を以てして容易に手に入る訳では有りませんから。
閑話休題、クラシック音楽の場合、今も10年前も20前も同じ楽曲が存在しますし、楽譜も編集の仕方以外は大幅に改訂される事は無いでしょうから、自分が取り組みたい曲集を1冊購入すれば当面の間は事足りる方も少なくないでしょう。
更に、本人が使用する用途で購入した物であっても、数十年と年月を経た場合、本人の事情が変わり、他人にお譲りするケースも数多想定されます。
その反面、ポップスの場合、少し立ち読みして判った事ですが、千本桜や欅坂46の流行曲、アニメソングetc.10年前には存在しなかった楽曲が楽譜として出版されている事が多く、10年前どころか3年前にすら存在しなかった楽曲が次々と登場し続ける訳ですから、10年以上前から購入して保管しておいた物はまず物理的に存在不可能でしょう。また、流行歌の場合は、その時一斉に大勢がその楽譜を使用する為、どなたかの使い古しを手に入れる事も容易では無いと云う事情から、多くの方は新品を店頭若しくはweb上にて新たに購入する必要が生じ、ポップスが陳列棚の多くの体積を占めるのも納得がいきます。
上述の事情より、ピアノ用の楽譜陳列棚の体積比・冊数比がそのまま各ジャンルに取り組んでいる人数比に直結する訳では無く、探っていけばもっと深い事情が有るはずですから、ポップスやジャズのピアノ曲の楽譜がクラシックと比較して数多く陳列されていたからと云ってさして驚く事ではないのでしょう。
人の嗜好はそれぞれですから、自分が陶酔・愛好している分野が全てでは有りませんし、少し他のジャンルの楽譜を目にしてみて事情を把握する事も大切なのではないかと思いつつあります。
周りにポップスに傾倒している人が居なかったので実感が湧きませんでしたが、ピアノを練習している人が必ずしもクラシック曲ばかりに取り組んでいると云う固定観念を捨てる事の大切さを痛感した出来事でした。