少しというか今年の春くらいに読んだ本です。

私は朗読を習っていて、その題材は自分で見つけてよいシステムになっているため

短編集を読む機会がずいぶん増えました。

いくつか読んだ短編集の中に収録されていたものを読んだのが縁で

東山彰良さんが気に入って手にとった一冊です。

 

30代になっても定職に就かず、バンドを続けているさえない男が

同窓会に参加するところから物語は始まります。

同窓会で自分たちのバンドのCDを手売りするのを目的としていた男は

二次会の帰りに放火犯の二人組に遭遇し、追いかけている途中でCDを落としてしまいます。

それを放火犯の遺留品と勘違いされ、放火犯が聴いていたと思われる楽曲として

ワイドショーで男のバンドの曲が流され、ラッキーにも反響があり

テレビ出演やCDプレス、ライブ出演のオファーなどが舞い込み、

一躍売れっ子バンドになるのです。

ライブツアーをすることになり

地元福岡からいくつかの都市で様々なライブと人に出会いながら

ラストライブの地、東京へ向かいます。

しかし、ベーシストは多くの問題を抱えていたのです。

自由奔放で性欲の強い妻、バイアグラの過剰摂取、不治の病。

バンド活動の先は見えている。

しかし、ロックな生き方にこだわる男は、情けない自分と対峙しつつ

必死にもがきながら生きようとします。

 

作中に多くの古き良きロック曲が出てくるのが、音楽好きの私にはたまりませんでした。

主人公の男は本当に芯がなくて口ばかりで情けない奴なんですが

どうしても嫌いになれない、というより好きなんです。

多分、自然体だからなのだと思います。まあ、身内にはなりたくないですが笑

他の登場人物も突出せず、それぞれ長所短所が偏り無く描かれていて

とても人間くさいというかリアリティを感じました。

かっこよすぎずダサくなく意地悪でもなくやさしくもない。

正義でもないし極悪でもないしずるいけど甘えはない。

起こることがらも、人も、全てに善悪の二分ではなく多方面から見えるように

言葉をつないでいる印象を受けました。

 

時折深い言葉があるのですが、デフォルメせずにさらりと置かれているんです。

気づけてよかったですが、もう一度読むと更に見つけることができるかもしれませんね。

 

東山彰良さんの作品をもっと読みたいと思い、何冊か購入しました。

気に入れば、またレビュー書きますね。

 

 

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