図書館での出来事だった。

同じ書棚を眺めているのはわかっていた。


まさか同じ本が目当てだとは思いもせず、私は見つけた本を手にとった。

「あっ」

思わずもれたその声に振り向くと
バツが悪そうに目をそらした。

「もしかして、この本を探してらしたんですか?」

「いえ、いいんです」


そう答えた彼は、私より一回りくらい年下に見えた。

純粋そうな子だな

それが第一印象だった。



私は笑ってその本を彼に手渡すとその場を去った。


1週間後、図書館でその彼に出会った。


「すみません。僕が変な声出しちゃったから借りそびれたんでしょう?」

そう言って彼は本を差し出した。



それを言うために待ち伏せしてた?


ちょっとストーカーチックな行動にひるんだ私は、苦笑いをしてその場をやり過ごそうとした。


「あの!僕、あなたのこと図書館で見かけてずっと知ってましたよ。別に追っかけてたわけじゃないです。この前のも偶然で・・・。毎週金曜日に図書館で見かけるから今日も来るかと思って。あなた、いつも服装が目立つから」


「やだ」

私は必死な彼の抗弁がおかしくて笑ってしまった。


確かに私の服は目立つだろう。

個性的な格好をしている自覚はあった。



それから毎週、図書館で彼と顔を合わせた。


いつしかまっすぐで純粋な彼に好意を寄せている自分に気がついた。



私には夫も子供もいる。

なんだろう、この感情は。



激しくいらついた。





彼はあるとき私をデートに誘った。


私はそれが嬉しくてたまらなかった。

だけど、誘いに乗ることはできなかった。




夫や子供に対しても
彼に対しても


それは裏切りだと、失礼な行為だと思ってしまったのだ。




「たぶん、断られるって思ってました」

彼はそう言いながら、どこかさみしげに、だけど妙にさわやかな表情をして
私に1枚のCDを手渡した。










そのCDを聴きながら
私は泣いた。


こんな気持ちでいてくれた?

思い違いじゃないよね。

私のこと好きでいてくれたよね?



生まれ変わったら彼と一緒に町を歩いてみたい。


生まれ変わったら彼とたくさんおしゃべりをしてみたい。


生まれ変わったら


生まれ変わったら・・・。







その時から

彼とは会っていない。


図書館通いをやめてしまったのかもしれない。






いつか出会えたとしても

彼を好きだったことは話さないでおこうと思ってる。




生まれ変わって
出会えたら

そのときは恋しよう。

彼と。