「え?お前、これできないの?」
「だって・・・難しいんだもん・・・」
私は少しふくれっ面になる。
「貸してみ」
私がなかなかうまくできなかったことを彼はてきぱきとやってみせた。
「すごーい」
そう言いながら彼に抱きつく。
彼は私を受け止め、顔を見合わせて笑った。


彼は私を子供のように扱う。
私はそれが心地よかった。

彼の前ではカッコつけなくていい。
背伸びも必要ない。
等身大でいられると
そう思っていた。

私は彼といると安心した。

いつまでもその心地よさが続くのだと思っていた。








「な、お前。コレ間違ってたよ。直してやるから貸してみ」
「何よ。馬鹿にして」
私は意地になる。

「違うよ。馬鹿になんかしてないよ。おいで」
彼が私を抱き寄せようとする。

「今、そんな気分じゃないの」
私はそっぽを向く。


「そうか」
彼はあまり気にもとめずにいる。


そうじゃないのに。
私を認めてほしいだけだった。
私が何もできないように感じさせないで。
「馬鹿にしてない」
じゃなくて
「お前、これ上手だよ」
って言ってほしいのに。


言えなかった。
彼は私のために時間も労力も惜しまずにいてくれる。

言えなかった。




「お前、アレ苦手じゃん。俺やっといたから」

「もうやめて・・・」
私は自分でも何を言っているのかわからなかった。
言葉が先に出ていた。

「何言ってんの?」
今回ばかりは真面目に聞き返してきた。


「もう嫌なの」
「どういうこと?」

「子供扱いされるのも、あなたのその自信満々な態度も鼻につくのよ」
言ってしまった。


彼に非があるわけじゃない。
彼が私をカワイイと思ってくれているだけだというのもわかる。

でも。
もうダメだった。

私が欲しいものをくれないから。

このまま一緒にいても彼は私の欲しい物をくれないから。


彼のことは嫌いじゃない。
誰よりも私を愛し、理解してくれていると思っているけど・・・

もう
私は彼に素直になれない。

もう素直になれない。


たくさん愛してくれたのに。
私はわがままだ。

でも
彼のくれるものが
私の欲しい物じゃなくなったんだ・・・

わがままな私を愛してくれてありがとう。
私、わがままだから行くね。

バイバイ。