二人は遠く離れた場所に住み、それぞれに家族や恋人がいるのにとてつもなく惹かれあい、言葉には出さないけれど確実にお互いを必要とし、人間として愛を感じていたけれど、男女としての魅力を感じているのも間違いなかった。
その内から生じる感情は距離が離れていることで抑えることもなく、物理的に無理なことを利用してお互いの気持ちはそのままに高まるばかりだった。
二人はどちらからともなく電話をかけ、都合の合う時に話すのが日常になっていた。







彼女がひどく落ち込んでいた。
「ごめん、今大丈夫だった?」
「うん、大丈夫。ごはん食べようって思ってたとこだけど、大丈夫だよ」
「ごめん。すぐ切るから」
「うん。どうしたの?」
「なんだかね、気力ないのよ。もう何がどうなってもいいっていうか」
「あ、わかるよ。俺もそうだもん。生に対する執着があまりないんでしょ?」
「そうなのよ。もともと、私は生きていたいって強く思うものないんだけど、今、それがピークでさ・・」

そんな暗い話題から話し始めたのに二人の会話には次第に笑いが含まれていく。
二人にはどんな話題から話し始めても最後には必ず笑っているというジンクスみたいなものがあった。
それだけ相性がよいのだろう。

こんな出会い方じゃなければ・・・
結婚していなければ・・・

二人は言葉にしないけれど、そう思っていた。
せめて誰にも邪魔されないこの二人の会話の時間だけは、二人の世界でいたい・・・
そう強く思っていた。

時のすぎるのも忘れ、夢中で話す二人。

時の過ぎゆくままに
その感情を任せた。
言葉に出せない「好き」という思い。
時の過ぎゆくままに
今だけはこの世界に浸りたい、そう思った。
時の過ぎゆくままに
男と女になれたなら・・・
そんな風にも思った。



「あ、ごめん。子供が帰ってきたから。また電話するね」
「うん、じゃあまたね」
「うん。ごはん、冷めちゃったね。ごめんね」

「あ~。言っちゃうけどね~。もう食べられない代物になりました」
「え?」
「うどん。のびてもう無理wwww」
「ごめーん」
「ホント言っちゃうけど、食べるの無理!wwww」
「わかった。うどん一玉、今度送るから」


二人はロマンチックなところから縁遠い会話で笑いながら締めくくった。