こちらの作品は私のオリジナル作品です。
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本当に、私が気付いてないだけなんだと思う


所々、ちゃんと蘭はそれらしい態度は出していたんだ



「何にやけてんすか?旦那」


「………いや、なんでもありません」


自分のにやけ顔が想像できて、気恥ずかしくなる



「そんときの女将さんの表情は、いまでも覚えとる

なんとも凛々しい顔をしとったよ」


取り引き相手の旦那は、目を細めながら言う


「正直、わしらも、こういっちゃなんだが…………、女朗の出いう事で、仕事なんか出来るんかいなと、疑っていた部分があるんや


それでなくとも、女郎と言うだけで
世間では身体売って稼いでいた女子っちゅう頭が先に出てしまう。そやから物売る商いなんぞ、到底無理やろってなっちまう」


「旦那、蘭はそこらの女朗とちゃいます」


私は、旦那の言葉に慌てて口を挟む


蘭は身体を売り物にしていたわけじゃない


ちゃんと、家まわりの仕事をこなし、仮身請けの所でそれなりに接待はしてきたが、不埒なことは一切してこなかった人だと言うことを、わかってもらいたかった


だが、旦那は片手で私の次の言葉を制す


「知ってやす。女将は、あの赤潮の出だと言うこと、きちんと礼儀を持って、接待のコツを伊里早の旦那の所で学んできた、ええ子じゃいうんはな。」


「………旦那」


私は、上げかかっていた腰を再びおろす


「…だからといって…わしらはわかっていても、こちとら来たばっかの女子に、すぐ取り引きを任せられるほど、商いを甘く見ているつもりはないんよ

なんせ、こちとら数人の雇い人がいて、その家族の面倒も任されてるからな?」


「ごもっともです」


私は、うつむきながら言う


私だって、日が浅い若人が取り引き相手になったら、本当に目利きは確かなのかと疑ってかかる



「………だが、あんときの態度は、わしらのそんな疑いを退かす力があった


もしあそこで、言い返せんかったら、わしらは今ここには来てへんかもな?
やっぱり商いのできん女子なんやと納得して…………」


「…………旦那」


もの優しげに言い放つ旦那の言葉に、不覚にも涙が出そうになる


「あの若女将は、将来あんたを支える杭になる

逃がさへんよう、ようけ縄でもかけて、大事にしいや?


今どき、嫁いだ先であそこまできっぱり支えなあかんと言い切る女子はおらんからなぁ?


ほんま、あんたの親父さんが見込んだだけのことはある」



「…………はい」


最後の言葉に、若干はにかみながらも返事をする


「ほな、そろそろ帰ろか

長居してしもうて悪かったな」


「いえ、いろいろ話聞かせていただきましてありがとうございます」


腰を上げた旦那を見送ったあと、奥座敷の中へと入った



『親父さんが見込んだだけのことはある』


先ほどの旦那の言葉に、ふと考えてしまう



もし…………、蘭ではなく、別の人間が来ていたら…………


もし、澄舞という姐女朗が来ていたら……………






私は今どうしているのだろうかと………………